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2009年7月13日 (月)

『Live at Cafe Milton』 山口洋 (HEATWAVE)

Jac 山口洋は、弾き語りソロライブのレコーディング先として、カフェ・ミルトンという地方の小さな店を選んだ。地元の人間か、よっぽどの音楽好きしか知らないであろう小さな街の小さな店。このカフェ・ミルトンがあるのは宮城県の白石市だ。冬は真っ白な雪が一面を覆い、蔵王連峰からの冷たい風が吹きすさむ東北の小さな城下町。
ここには「音楽の神様」が棲んでいるとヒロシは言う。店主の情熱とその場を愛する街の人たちとが長い時間をかけて作り上げた豊潤な空間。それこそが神の棲む場所なのだ。そんな強力な磁場の威を借りて、ヒロシは自分でも想像していなかった奇跡の夜を作り上げることができたというのだ。

山口洋はHEATWAVEという強力なレギュラーバンド以外に、たった一人でギターを持って全国でライブを行っている。その過程で、地方に根付き、音楽を愛する人たちに愛されながら、その町ならではの文化を作ってきたたくさんの無名の店の存在に気が付いたというのだ。
オレ自身も地方の出身だから、そういうことはなんとなくわかる。地方ならではの情熱というか、町に根付いた人たちの作る文化の濃さは独特だ。ある意味、地方は一夜のライブにかける観客の集中力が都市部よりも数段高いと思う。一期一会というか、奇跡が起こる予感というか、空気の濃さがもう東京とは違うのだ。
東京や大阪の有名なライブ会場ではなく、小さな町での一夜をあえてライブアルバムとしたことに、オレは山口洋というパフォーマーの感覚の正しさと、人間としての誠実さを感じずにはいられないのである。

地方都市ならではの濃密な空間を味わってもらいたいというヒロシの意志は、マスタリングにもよく表れていると思う。これを手掛けたのは、HEATWAVEでキーボードを担当する音響の達人・細身魚なのだが、とにかく音が良いのにはびっくりした。まるで目の前でヒロシがギターを爪弾いているような、リアルな音なのだ。
アコースティックでこれほどまでに音の良いアルバムを、自分はこれまで聴いたことがない。山口洋のギターは、フレーズだけではなく、空間を大事に、音響に気を配って作られているのが特徴なのだが、薪ストーブの火がパチパチと燃える音が聞こえる中、ピーンと張り詰めたヒロシのギターが鳴ると、店内が一気に歌の世界に引き込まれていくのが手に取るようにわかる。

もう一つ大事な逸話がある。このアルバムがレコーディングされた2008年12月7日、開演前の楽屋に一本の電話がかかってきたというのだ。それは、山口洋の大切な友人が危篤に陥っているという内容だった。彼は遠く離れた空の下で友を思い、その想いをこの一夜のライブにこめた。そういった意味でも、このライブはヒロシの人生の中でも大きな節目となる大事な魂の記録なんだと思う。

オレはまだ山口洋のライブに通い始めて間もないのだが、このアルバムに収められた曲の中には、普段あまり演奏されたことのない曲も多く含まれているらしい。だが、自分にはこのアルバムに収められた曲は必然であり、曲順もこうあるべくしてこうなったような気がする。
最初から5曲目の「Life goes on」までは、生とその対極にある死とがせめぎあっているようなヘヴィな展開。「Life goes on」は比較的新しい曲だけど、トーキング・ブルース調に歌われる決意表明のような歌詞に、身震いするほどの高揚感を覚える。後半にいくにしたがって、日々の温もりを感じさせるような歌が顔を出し、歌それぞれが聞き手それぞれの人生の中に散っていくような、そんなイメージ。見事な起承転結のあるアルバムだと思った。

オレはこれを聴いていて、自分がなぜ今、山口洋の歌に強く惹かれるようになったのかわかったような気がした。
彼の歌う世界は確かにヘヴィだ。季節は冬。荒れ果てた荒野を独りの男が何かを求めて彷徨っているような、そんな荒涼たるイメージ。だが、決して冷たくはない。ヒロシの歌には聞き手の心を温める灯火のような温かさを感じる。実際、アルバムを聴いていても、彼の歌からは冬の日の朝のようにピーンと張り詰めた空気感を感じる一方、曲間では観客からは笑い声さえ聞こえているのだから…。

世の中が疲弊している今の時代。経済は昨年夏から急速に陰りを見せている。
実際、地方の町を旅すると、その凋落ぶりは東京以上だ。駅前のアーケードにはシャッターを降ろした店が並び、金曜日の夜でも町にはまばらな人影しか見当たらない。盛り場ですれ違う若者たちは、みなキツイ目ですれ違うオレを睨みつけて去っていく。
だが、不況だ、不況だ、と言われるこんな時代でも、地方にしかないこんな豊潤な空間が確かに存在するのだ。

この国はまだまだ捨てもんじゃない。オレはそう思う。
山口洋の歌は、時代の風に抗って進み続けようとする人たちの種火のような存在なのではないだろうか。

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