「シングル・マン」とタワー・オブ・パワー
不遇時代のRCサクセションのアルバム「シングル・マン」には、あのタワー・オブ・パワーがゲスト参加していることが知られている。
だけど、これは清志郎自身がその出来栄えに満足していないと発言していることもあってか、熱心なファンでも軽くスルーしちゃってる人が多いみたいだ。
よくよく考えてみたらこれはかな~りすごいことだと思うんだよ。だって、タワー・オブ・パワーって言ったら、80年代はヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースのホーンセクションだった人たちですよ!RCと一緒にあの頃の洋楽も聴いていた人だったら、ベストヒットUSAなんかで数々のヒットナンバーに入ったホーンのフレーズを思い出すむきも多いだろう。
自分が長年疑問だったのは、なんでまたそんな世界的に有名なミュージシャン集団が、まったく無名のRCのアルバムへ参加したんだろうってことだった。
これ、最近になって意外なところからその経緯がわかったんだ。ネタ元はサンボマスターの山口隆の本「叱り叱られ」。これは、山下達郎、大瀧詠一、岡林信康、佐野元春、奥田民生といった、彼にとっての「僕の好きな先輩」との対談集なんだけど、そこで山口がムッシュかまやつと話をしていて、この頃の話が出てくるのだ。
山口は清志郎と初めて会った時、「シングル・マン」でタワー・オブ・パワーとやっているという話は果たして本当なのか、直接聞いたらしい。
その時の清志郎の答えは、
「そうですよ。でもあの時は、(タワー・オブ・パワーは)かまやつさんとか、けっこういろんな人とやってたんじゃないかな」
というものだったという。
で、この本でかまやつさんと話をする機会を得て、今度はかまやつさんがタワー・オブ・パワーとやることになったいきさつを聞いているのだ。
かまやつさんの答えを要約するとこんな感じ。
当時、かまやつさんの知り合いの呼び屋さんがタワー・オブ・パワーを日本に呼んだので、ダメもとで「彼らとやってみたい」と言ったところ、すんなりOKが出てしまったらしい。当時、かまやつさんは、「我が良き友よ」売り出し中の頃だったんだけど、かまやつさんはこれがすごく嫌だったらしいんだな…。まあ、それもわかる。ムッシュのルーツはブリティッシュ・ロック。ストーンズやフェイセズが大好きな人なのに、何が悲しくてゲタ履いて腰に手ぬぐいぶら下げてバンカラ学生を気取らなきゃならないんだろう、ってな感じだったんじゃないか(苦笑)。
で、幸運にもタワー・オブ・パワーが捕まったんで、これでB面はやりたいことをやるとがぜん燃えた。だけど、肝心の曲がない。しょうがないから、眠ってでもできるようなコード進行を書き、スタジオでそのカラオケを聴きながらメロディーと詞を書いて、タワー・オブ・パワーには「ここからここまで歌ね」とか言って、その場で説明したらしいのだ。
その歌こそが、「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」だというのだ!
タワー・オブ・パワーは、この仕事の後、ポリドールに行ってRCとのレコーディングに臨んだというのが真相のようなのだ。
これ、なかなかスゴイ話だと思わない?来日中にダブルヘッターでセッションワークをしちゃうタワー・オブ・パワーもスゴイけど、名曲「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」が、こんな突貫工事でできたものだったとは…。
俺、ムッシュのライブは2回見たことがあります。1回目はストーンズのトリビュートライブ、2回目は横浜のライブハウス、サムズアップの10周年記念イベント。2回とも「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」はバッチリやりました。
かまやつひろしさんの日本の音楽シーンにおけるポジションは、向こうの人で言えばチャック・ベリーみたいな感じがする。CHABOや清志郎がポールやジョンなら、その先輩みたいなタッチですね。
対談では、タワー・オブ・パワーと清志郎を繋いだのが誰なのかまでは話されていないけど、かまやつさんと彼らがセッションすることを知っていた人物が、その後の空き時間をおさえたってことになるわけだよね。うーん、星勝あたりかな?
いずれにしても、この時のポリドールは、伝えられるよりもけっこう気合を入れて清志郎をバックアップしていたんじゃないかと僕は思っている。
もし、このセッションの順番が逆だったらどうなっていたんだろう?清志郎がタワー・オブ・パワーの音に不満だったのは、彼らの演奏があまりにもかっちりしすぎていたからだというが、時間のないところで最良の結果を出すためには、譜面通りきっちりやるしかなかったってとこもあるんじゃないだろうか?
もし、時間のたっぷりある中でタワー・オブ・パワーが本来の力を目一杯発揮できていたら…。「シングルマン」はもっとゴージャスな、誰が聞いてもヘヴィなR&Bアルバムになっていたりして…。そんな楽しい想像もできちゃうエピソードなんだよなあ、これは(笑)。
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コメント
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RCの5人体制のバンドとしての最高傑作は『BLUE』だと思うんですが
清志郎の作った最高のアルバムは『シングルマン』じゃないかと思ってます。
曲の出来栄え、並べ方、清志郎は満足してないという、星勝のアレンジ、
そしてタワー・オブ・パワーのホーンに至るまで完璧だと思います。
タワー・オブ・パワーと清志郎を繋いだのが誰なのか
うん、そうですよね、言われてみりゃ。
気になりますね。
やっぱり星勝かなぁ?
投稿: LA MOSCA | 2009年7月29日 (水) 20:33
◆LA MOSCAさん
>清志郎の作った最高のアルバムは『シングルマン』じゃないかと思ってます。
確かに、確かに!LA MOSCAさん、鋭い!
その遠い昔、僕がこのアルバムを初めて聴いた時には、「なんかこれ、清志郎のソロアルバムみたいだなあ…」っていう感想を持ちました。RCサクセション名義ではありますが、なんかバンドというよりも、清志郎が自分の世界観を思い切り表現し尽くしたアルバムだってな気がしたんですよね。
僕はね、このアルバムってまだまだ世間的には評価低いと思いますよ。だって、清志郎の全キャリアを辿っても、似たテイストのアルバムは他にないもんね。
投稿: Y.HAGA | 2009年7月31日 (金) 12:08