blues.the-butcher-590213 LIVE / 8月20日(木)・高円寺JIROKICHI
2009年8月20日(木) 高円寺JIROKICHI
blues.the-butcher-590213(♪3000)
永井ホトケ隆vo,g 沼澤尚dr KOTEZ(vo,harp) 中條卓b
田舎でがっつり遊び、東京に戻ってきた次の日の夜、高円寺JIROKICHIに、blues.the-butcher-590213のライブを観に行った。
これまでにもLeyonaがゲスト出演するライブを狙って何度か観たことはあるんだけど、単独ライブはこれが初めて。JIROKICHIにレギュラーで出演していることは知っていたんだけど、なかなか日程が合わずライブに足を運べなかったのだ。
6月にLeyonaのデビュー十周年記念ライブで久々にこのバンドを見たんだけど、あれは強烈だったなあ…。あの時は普段JIROKICHIでやってるよりも、少しスイング感を出したようなノリで演奏していたのだが、それでも破壊力抜群だった。改めてこのバンドの実力を思い知らされたよ。
あの日の感想をブログに書いていた人がけっこういたけど、初めてblues.the-butcher-590213を見た人は一様にその演奏に打ちのめされていたみたい。オレも贔屓目じゃなくて、あの日の数多い出演者の中でも最も豪快な演奏を聴かせていたのは、blues.the-butcher-590213だったと思ってるしね。
このバンドの肝はドラムの沼澤尚だと思う。知ってる人は知ってると思うけど、この人のルーツはブルース一本というわけではない。歌謡曲、ニューミュージックからチャカ・カーンのバックに至るまで、あらゆるタイプの歌手をバッキングしてきた日本を代表する万能ドラマーだ。
その名手沼澤尚が、ホトケやKOTEZのようなコテコテのブルースマンとがっぷり四つに組んでブルースを演奏するのがこのバンドなのだ。
沼澤さんのドラムは、人間技とは思えないほどスゴイ。オカズが多いとか変拍子を多用するとか、見てわかるワザを使っているわけではないんだけど、リズムキープの体勢ひとつをとっても、誰が見てもスゴイことをやっていることがわかってしまうというスゴさ。オレ、JIROKICHIみたいなステージと客席が目と鼻の先の距離しかない場所でこんなすごいプレイを見られるのって、奇跡みたいな話だと思う。それも、わずか3000円たらずでだ(笑)。
沼澤さんのプレイは、一言でいうとパワフル・アンド・超タイト。ほんと、タイトっていうのはこういうことかと思い知るよ。リズムは絶対走らない、もたらない。そんなことは当たり前。そして、音色も楽曲の頭からケツまで“超タイト”を保ち続ける。俗に言う“ハネる”というのはこういうリズムを言うんだと思う。スティックさばきを見ているだけでも、その規則正しいハネ具合が伝わってきて、こっちの身体もついつい動いてしまう。それも、ハネ過ぎるとファンクになっちゃうところを、ぎりぎりブルースの範疇に収めるハネ方なのだ。これをスゴイと言わずして何をすごいと言うのか…。そのぐらいとんでもないドラミングなのだ。
冗談抜きに、目下のところ日本で一番好きなドラマーだな、沼澤さんは。
その沼澤さんと、寡黙なベーシスト中條卓が編み出す最高に気持ちいいビートに乗っかって、ホトケ、KOTEZというコテコテのブルースマンがギターとハープで自由自在に絡み合うんだから、これは盛り上がらないわけがない。
この日のホトケは木目のテレキャスター1本で最初から最後までぶっ飛ばした。KOTEZはガンマンが腰に巻くベルトのようなものにハープを入れており、曲のコードに合わせてとっかえひっかえ取り出して吹きまくる。ボーカルは主にホトケだが何曲かはKOTEZが歌うものもあった。
演奏された曲はほとんどがブルースのスタンダード。でも、このバンドのコンセプトは新しい曲をブルージーに演奏するわけではなく、前の世代から流れてきたブルースを、このバンドの流儀で解釈することにあるんだと思う。どんなに古い楽曲であろうが、彼らの手にかかるとたちまち21世紀型のシャープなブルースに生まれ変わる。その様がたまらなくスリリングなのだ。とにかく、オリジナルを聴きたくなるような気持ちには全然ならない。
間の休憩時間を除いても、たっぷり2時間半近い演奏。いやあ、満足した。頭の先から爪先までどっぷりブルースに漬かった気分。ものすごく満足感の大きいライブだった。
オレ、思う。このバンドは、シカゴブルース・スタイルのブルース・バンドとしては目下のところ日本最強なのではないか。
ホトケの演るブルースは、たとえばCHABOのやるようなブルースとはちょっと違う。具体的に言うと、CHABOのブルースは独りでやるブルース。戦前ブルースのスタイルが色濃く出ていて、マディ・ウォーターズよりもロバート・ジョンソンに近いイメージだ。
それに対して、永井ホトケ隆は伝説のウェスト・ロード・ブルース・バンドをはじめ、昔から一貫してバンドでやるブルースを追求してきた。プランテーションでカントリー・ブルースを弾き語っていたマディが大都会シカゴに出てきて電気化したスタイルを大きな括りでシカゴブルースと呼んだりするけれど、ホトケは日本におけるこのスタイルの第一人者といって良いと思う。
バンドスタイルのブルースに関しては、CHABO BANDや麗蘭もそうだけど、ロックサイドからアプローチするパターンは日本でもけっこう多いじゃない?ホトケはその逆なんだよな。ブルースサイドからエレキ化して自らの内にあるブルースをパワーアップさせている。
CHABOがCHABO BANDや麗蘭のようなバンドスタイルをとると、ブルース色はソロの時よりむしろ薄くなる。ブルース的な楽曲をやっても、その解釈にはロックっぽいテイストが漂う。それは、黒人の奏でる“どブルース”というより、むしろクラプトンに代表されるような白人が奏でるブルースに近いニュアンスがあるとオレは感じる。
もちろん、どっちがいいとか悪いとかいう話ではないよ。オレはどっちも大好き。CHABO BANDや麗蘭にはブルースという枠を飛び越えた表現の大胆さを感じるし、blues.the-butcher-590213はロック的なアプローチもかなり多いけど、基本はあくまでもブルースという揺ぎない力強さがあり、そのこだわりに美学を感じてしまうのだ。
ロック好きな人でブルースを敬愛する人は多いんだろうけど、本物のブルースサイドからのバンド・アプローチを体験した人は意外と少ないんじゃないかな…。なにしろ、あんまりいないからね、そういうバンド自体が。
blues.the-butcher-590213、一回体験してみるといいよ。スゲエんだから、とにかく。
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コメント
この記事へのコメントは終了しました。
The Blues Powerのライヴは何度か経験したんです
浅野ブッチャー祥之さんが、亡くなられてからは
足が遠のいていました...
カッコイイですよね 沼澤さん
隣にムッシュ、目の前に松雪さんという状況で
観たライヴは、色んな意味で忘れられないです
あれが浅野さんを観た最後だったし...
blues.the-butcher-590213 観に行きたくなりました
投稿: hiro | 2009年8月21日 (金) 17:20
◆hiroさん
blues.the-butcherは正に燻し銀のプレイヤーが集まったバンドですよね。松雪泰子さんはJIROKICHIでのライブで僕も何度かお見かけしました。Leyonaも沼澤さんのビートにはぞっこんのようですし、モテモテですよね(笑)。ルックスも若いし、とても50近い歳とは思えないカッコよさ。そりゃあ~モテるわなあー…。
投稿: Y.HAGA | 2009年8月22日 (土) 20:44