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2009年8月11日 (火)

ロックで独立する方法 / 忌野清志郎

41wm63kw9l1_3 これは、5月2日以降に出版されたいくつかの清志郎追悼本とは明らかに一線を画すものだと思う。それどころか、これまで世に出た忌野清志郎関連本の中でも、かなり重要なものになるのではないだろうか。
なにしろ、この本はイントロダクションにあるとおり、“30周年の節目にこれまでの人生や音楽活動を振り返り、「今ロックを生きることの意味」について改めて考える企画に協力してもらえないか?”と清志郎のほうから山崎さんに持ちかけてできたものなのである。
諸般の事情で出版が延び延びになってしまったが、本来なら2009年5月2日以前に世に出ていたはずの本であり、なによりもこれが多くの人の目に届くことを望んでいたのは、他でもない忌野清志郎本人なのだ。

この本の中で、清志郎は「独立」という言葉をキーワードに、これまであまり語ることのなかった、音楽業界に身を置く人間としての自分と自分を取り巻く人々、業界、事務所、はたまたRCサクセションの裏話をこれでもかとばかりにしゃべりまくっている。
清志郎は、自身の作る「力のありすぎる歌」とはまた違う、より具体性を持ったメッセージを若いヤツらに伝えておきたいという明確な意思を持ってこの本に関わっている。当たり前だが、清志郎は若者を相手にもっともらしい訓示をたれるようなタイプのミュージシャンではない。こんなことは清志郎の長いキャリアでも異例のことなのだ。
インタビューが行われたのは、2000年6月から翌年8月までの約1年。トータルすると15時間半という膨大な時間を費やしてこの貴重な作業は行われた。

ロックスターから若者へのメッセージとしては、矢沢永吉の「成りあがり」という有名な著書がある。あれは正に永ちゃんらしい本で、「成功=ビックになること」という方程式のもとに書かれているように思うのだが、清志郎のいう「独立」はそういったこととは全く違う。清志郎のいう「独立」とは「成功」することではないのだ。世間のしがらみや業界の常識、事務所の思惑などから解き放たれ、自分が自由に音楽活動が出来る環境を作り上げていくことを「独立」と言っているんだと思う。
そして、恐らくは日本中にごまんといるであろうロックで飯を食おうと夢を見ている若者たち、その多くが志半ばで消えていく中で、かつて自分もそんな若者の一人であったことをふまえ、彼らと自分とではいったい何が違っていたのかということを、清志郎本人の口から検証していく。
もう一度言うが、清志郎がこんなことを語っている本はこれ以外にない。これだけでもファンは必読だと思う。

この本を読むと、ある意味日本のロックシーンへの見方が変わる。
まず、僕は清志郎のような日本のロックシーンの頂点に立ち、個人事務所を構えて活動しているようなミュージシャンですら、100%自分が思い描くような活動を展開できているわけではない現実に唖然とさせられた。それも、RC時代やソロになった始めの頃のような昔話ではないのだ。

たとえば、「秋の十字架」の時のプロモーション。この時は「会社が潰れてもいいから、有り金全部使ってプロモーションしよう」ってことに決まってたらしいのだが、結局はメジャーどころの広告なんか取れず、深夜のテレビCMや雑誌にちょぼちょぼ露出しただけで終わってしまった。「秋の十字架」は大手レコ社のルートではなくインディーズでの発売であったが、当時の事務所社長は大手でのカタチどおりの販促のノウハウしか持っておらず、インディーではどう動いていいのかわからなかったらしいのだ。
で、ツアー真っ最中の12月、社長は突然辞めると言い出し、プローションよりもっぱら自分の再就職に精を出していたなんていう衝撃の(?)事実が清志郎本人の口から淡々と語られるのだ。

「君が代」騒動の時のインタビュー話にも考えさせられた。あの頃、発売禁止騒動が世間を騒がせる中、筑紫哲也さんや鳥越俊太郎さんが清志郎にインタビューしているところをテレビで見た人は多いだろう。そこで「どうして“君が代”をパンク風にやろうと思ったの?」なんて聞かれた時、清志郎は「若者達にこの問題をもっときちんと考えて欲しかった」なんて師承なことを言っていたはず。
ところが、清志郎曰くあれはぜんぜん本心じゃなかったというのだ!単に「やるなら今しかないと思ったから」「今やれば目立つし売れると思ったから」というのが最初の答えだったという。ところが、そんなことを言っても誰にも納得してもらえなかったというのだ。要するに、忌野清志郎というロックミュージシャンに、パブリックイメージとして発言して欲しい言葉は最初から決まっていたというのが、この話のオチだ。

この2つの事件は、一見自由奔放に活動しているように見えるロックミュージシャンも、業界のしがらみやマスコミの決めつけから「独立」することが如何に難しいかということを表していると思う。
と、同時に僕らファンも、モノの本質が見え辛くなっているということを強く感じた。「秋の十字架」にしても「君が代」にしても、2000年代になってからの話なんだよ。日本にロックがまだ根付いていなかった80年代頃ならともかく、つい最近の話なんだ、これは。
あの頃の清志郎の活動を見ていて、事務所とうまくいっていないとか、清志郎の良き理解者に見えた筑紫さんたちも、実は清志郎の本心をきちんと報道していなかった、なんて誰が想像し得ただろう?

映画「不確かなメロディー」を観た時も漠然と持った感想であるが、忌野清志郎は生涯孤高の芸術家だったんだと思う。その作品や活動は間口が広くて入り込みやすいから、いろんな人がいろんな角度から共感することができ、それぞれに感動したりする。だけど、当の本人が何を意図し、何を考えてそれを作ったのかと言うことは、意外に伝わっていないのではないかと思ったりもするのだ。

でも、だからこそ清志郎なんだな、とも僕は改めて思った。
なによりも、この人は自分が孤高であることを恐れない。世の中でどんな音楽が売れようと、それによって業界がどんな販売数字を突きつけてこようと、システムから逸脱した行動に事務所が難色を示そうと、自分が正しいと思ったら絶対にブレないのだ。
そういう姿勢こそが、僕が清志郎に惹かれて止まないところだし、今でも、そしてこれからも清志郎の生き方には励まされ続けるだろう。この本も、読んでいて音楽業界の保守的な体質に唖然とさせられるところが多々あったけど、そこで飄々と綱渡りを楽しむ清志郎の姿には爽快感すら感じた。
忌野清志郎というミュージシャンが、ジャンルの垣根を乗り越えて多くのミュージシャン仲間からも愛されたのは、そんなところにも秘密があったのではないだろうか。

それと…。
僕は、イントロダクションでの“見事なオチでした”という山崎さんの一言にすごくすごく救われた。はっきり言って、この一言を読んだだけでこの本を買った価値があると思ったぐらいだ。

完全復活祭の武道館で、清志郎はこう叫んだ。

「何が嬉しいって、バンドに戻れて最高に嬉しいぜ!」

清志郎は世間や親から独立し、プロダクションから独立し、業界から独立し、RCからも独立した。でも、最後の最後には、CHABOや新井田さんや梅津さん、片山さん、伸ちゃんがいる大好きなバンドに戻ったんだ。結局、大好きなメンバーに囲まれて一バンドマンとしての生き方をまっとうすることが、忌野清志郎の最大の独立であり、自由だったと…。
ほんと見事な、見事すぎるオチだよ、清志郎…。たとえ命を引き換えにしてでも、その声を守ることがバンドマンとしての幸せだったってことですね…。
あんな綺麗な落とし前のつけ方はちょっとないよなあ…。やっぱり孤高の人だと思う、忌野清志郎は…(泣)。

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忌野清志郎」カテゴリの記事

コメント

うん、生きる見本だと思ったよ

生きているうちにやらなきゃね

この本はスルーしようかと思ってたんですが
そうもいかなそうですね、この記事読むと。
なんとか読まなくちゃ。

◆NOAHさん
そうだよね。生きてるうちが華なんだって俺も思った。ぶざまでも、人になんと思われようとも、自分が良いと思ったことはやっておこうと思いました。簡単に世間に妥協するな、ってことですね。

◆LA MOSCAさん
>この本はスルーしようかと思ってたんですがそうもいかなそうですね、この記事読むと。

いやいや。これは絶対スルーしちゃいかんです。はっきり言ってね、今出てる関連本の中では最優先で読まなきゃならないものの一つなんじゃないかと思ったな。
なんかね、オレはこれを読んでますます清志郎が好きになったな。自分が何か問題にぶち当たった時も、“清志郎ならどうするだろう?”って想像するためのヒントもたくさん載ってるような気がします。

こんばんは!
この本、もう出ているんですよね。
一部分だけ何かに出ていて、すごく興味深いと私も思っていたのです。
早く買わなくっちゃ!

◆nobuさん
>一部分だけ何かに出ていて、すごく興味深いと私も思っていたのです。

6月に出た太田出版の雑誌「本人」に一部が掲載されました。もともとは2000年から2002年にかけて『クイックジャパン』で連載されていたものです。
僕は、連載は知ってたんですけど、『クイックジャパン』ってウラナリのサブカル誌みたいな感じがして(苦笑)、あまりいいイメージがなかったんでスルーしてたんですよね。今回改めて読んでみて、これは今となっては本当に貴重なインタビューだなあと思いました。
編集の山崎浩一さんは、宝島の「愛しあってるかい」を作った人。それから20年経って、またもや清志郎と名コラボを成し遂げたってわけですね。

絶対読んだほうがいいです、これは。

初めてコメントさせていただきます。HAGAさんの文章はいつも楽しみに読ませていただいてました。おとといの早朝、この本のコメントを読み、「これは早く読まねば!」と思い、昨日読了しました。(付箋だらけになってしまいました。)僕は今、心の病と闘っている最中ですが、この本を読んで、少し闘志のようなものがわいてきました。病気になってから、涙は一滴もでなくなっていたのですが、清志郎の歌を聞くと涙がにじみます。いいことなんだかよく分かりませんが。とっちらかった文章ですが、コメントしたくなる力が湧いてきたことを自分で喜んでいます。(自己満足ですみません)これからも楽しみにしています。

◆taku-takuさん
うん、これはなんか力の湧いてくる本ですよね。清志郎はロックが根付かない日本の状況、全てを型通りに収めようとする日本のシステムに怒りつつ、呆れつつ、でも飄々と音楽活動を行っていたんだと思います。
清志郎はミュージシャンだから、当然これは音楽業界とそこで生きる人の話になってはいるけど、別に音楽に携わっていなくても、これはいろんな場面で通用する言葉がたくさん出てきてたと思います。
ここで引き合いに出したことが適当かどうかはわからないけど、矢沢永吉の「成りあがり」は、音楽人だけじゃなく、いろんな人を励まし勇気付けたじゃないですか。この本も間違いなくそういう力があると思いましたね。
オレは、これからも折につけて読み返すことになりそうです、これは。

はじめまして。
これ読んでるだけで涙が出てきました。
早く読まなくちゃ。
なんか、「反骨のロッカー」とか「社会に挑戦とかなんとか」とか違和感があったんです。
もっと、なんてゆーか無邪気にやりたい音楽をやってきただけなんじゃないかと。
だから、かっこいーんじゃないかと思うんですよね。
「人に何を言われても気にしない。そんなことは俺にはどうでも
いいことなんだ。」とか
「いいんだよ。どうなっても。またやりなおしゃいいんだ。」
なんて言葉の方が素敵だと思うんです。

今日買ってきます。

◆Nyanさん
2000年以降の清志郎は、あまりにも“愛と平和を歌うサイクリスト・ロッカー”の面だけを大きく取り上げられちゃっていたように僕は思います。
それも確かに魅力の一つではあるんだけど、それだけじゃないのにな~ってずっと思ってて…。
でも、これを読むとほんとに清志郎は現状に不満いっぱいで音楽をやってたんだってことがわかります。
「夢助」だって、決して清志郎の音楽の最終形ではないですからね。常に変わり続けててこれからも変わり続ける、そに新しい章の始まりみたいなアルバムだったのになあ…。
そう思うと、ほんと残念。清志郎は決してやり尽くしてなんかいなかったと思うよ。まだまだやりたいこと一杯あったはずなんです…。

読みました。

これからの清志郎をほんとに見たかったな。
全然、終わってないのにな。

そう思いました。

◆Nyanさん
今やってる清志郎初の個展に横尾忠則さんがポスターを描いてるんですがそのタイトル、「未完の清志郎」っていうんですよね…。やっぱり、同じ表現者だから清志郎がまだまだやり尽くしてなかったこともよくわかってたのかなあ、なんて俺は思いました。

生前の清志郎は横尾さんとも仕事をしたがってたそうですが、こんなカタチになってしまってほんと残念ですよね。

はじめまして、サンチャゴと申します。

わたしもこの本からは数ある清志郎本のなかで最も異質なものを感じていました。そして不思議なことに一番手に取る回数が多いのがこれなんです。

読み終わるたびに「覚悟」や「自信」という言葉が脳裏に焼きつきます。

◆サンチャゴさん
僕はトピの中で「君が代」問題に関する公的発言と清志郎の本音との違いを例に出しましたが、この本での清志郎の言葉は、事務所やライターのバイアスがかかっていない、最も素に近い部分での発言なんじゃないでしょうか。僕は、この本の清志郎の言葉を読んでいると、なんだかものすごく安心します。なんかね、何を言われても動じねえぞ、オレはオレだ!っていう気持ちがふつふつと沸いてくるんですよね。

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