【映画】 サマーウォーズ
あまり大きな話題にはならなかったが、これはアニメーションの枠を超えた素晴らしい作品だと思う。
聞くところによると、この映画を監督した細田守は、昨年ロングランになったアニメ版『時をかける少女』を手掛けた人だとか。オレ、一発でこの人がポスト宮崎駿と呼ばれる理由がわかったよ。壮大な映像美といい、観るものを引き込んで離さないストーリー展開といい、未来の巨匠と言われる要素は十分。何よりも、彼の作品には誰もが心震わせずにはいられない温かい人間性と未来への肯定が感じられる。そこが素晴らしい。
映画の主人公は、天才的な数学力を持ちながらもちょっと小心者の高校生、小磯健二。彼はパソコンクラブの友人と、世界中に張り巡らされたデジタル・ネットの管理人をほんの少しだけやっている。
夏休みのある日、健二は憧れの先輩である夏希に頼まれ、長野県にある彼女の田舎で過ごすことになった。そこで健二を待っていたのは、見たこともないような大きな日本家屋と大勢の親戚たち。実は夏希は武田信玄の末裔であり、彼女のお婆ちゃんは武田家の何代目かの当主だったのである。親戚たちが集まったのは、そのお婆ちゃんの誕生日をお祝いするためであり、夏希はお婆ちゃんを喜ばせるため、健二に「婚約者のふりをして」と頼むのだった。事の成り行きに戸惑う健二だったが、美しい田舎の景色と大家族のにぎやかで温かい雰囲気に惹かれ、大役を引き受ける。
そんな時、彼が管理人をしているデジタル・ネットの世界に異変が起きた。何者かが健二のIDを盗み、ネットで管理された世界の秩序を壊し始めたのだ。健二と夏希たちは、最新のデジタル技術と長年継承されてきた武田家の結束力で、サイバー・テロと闘う。
この映画の何よりも素晴らしいところは、デジタル世代を肯定した上で、昔の日本が持っていたアナログ的人間社会の温かさ、大切さをもきちんと描いているところだと思う。
普段ネットはおろか、ケータイさえほとんど使わないというような人でも、これが荒唐無稽なストーリーだは思わないだろう。21世紀の現在、ネットに依存したインフラがテロで崩壊し、世界の終わりが忍び寄ってくるっていうのは、宇宙人が攻めてきたり隕石が衝突したりすることよりもよっぽど現実味のある話だから…。
そんなサイバーテロに立ち向かったのは、デジタルキッズの頭脳と老婆を中心とした親戚縁者の古式ゆかしい結束力なのだ。デジタルとアナログの融合。温故知新の正しき姿。新と旧が融合する爽快なストーリー展開には胸が躍った。
アナログとデジタルの融合は、この映画の技術的な部分にも表れていて、アナログ世界はセルで描かれ、デジタル世界はCGで、という風に技術の使い分けをしているのが感じられる。そのどちらもとてもクオリティーが高い。うーん、スゴイな…。まさしく21世紀の今の時代だからこそ可能になったアニメというか…。
でも、それにしたってもこのしっかりしたストーリーがあるからこそ引き立つのだろう。まずは物語ありき。この未来を生きるティーン・エイジャーを温かく見守るような視点には、感動すら覚えてしまう。
デジタル+アナログっていうテーマだけじゃなくて、ここには内気な少年が大人への階段を一歩登るようなタッチも感じた。そんな瑞々しいストーリーが、日本の原風景のような温かい大家族や、美しい田舎の風景や、背筋のすっと伸びた美しい少女とともに展開されていく。
オレ、この手のピュアな表現に非常に弱い(苦笑)。なんか夢のような時間だったなあ…。夏がキラキラと輝いてるみたいだった。
確かにサイバーテロは悪。だけど、オレ、この映画でほんとに悪いヤツは一人も出てきてないと思ったなあ。ラストは幸せすぎてちょっと泣きそうになったぐらいだ(笑)。
あんまり説明しすぎると野暮になる。
この映画はぜひ夏が終わらないうちに観て欲しい。子供の頃の夏休みを思い出すぜ、きっと。
あ、テーマを歌ってるのは山下達郎です。これもイイですよ。
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コメント
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こちらの記事を読んでずっと気になっていた「サマーウォーズ」をやっと今日観ました。
デジタルとアナログ、戦国時代と現代、核家族と大家族、都会と田舎など様々な対比を、HAGAさんがおっしゃるようにどちらも否定することなく共存させた、素晴らしいアニメ映画でした。ストーリーと共に夏の風景の美しさ、日本家屋の繊細さにも惹きこまれました。
実は、途中何故か涙ぐんでしまって・・・。人の優しさ暖かさに敏感な今日このごろです。
HAGAさんの記事を読まなかったら観なかったと思います。ありがとうございました。
投稿: K.I | 2009年10月 9日 (金) 21:33
◆K.Iさん
そうそう、この映画で描かれる夏の風景や日本家屋の美しさには、とても郷愁を誘われますよね。
実は、僕も何度か涙ぐんじゃってました。それは僕がもう失ってしまった少年の頃の純粋さをここに見つけたからなのか、過ぎ去った故郷の情景をオーバーラップしたのか…。
アニメーションですけど、僕らぐらいの世代が観ても感じるところの多い映画だと思います。
投稿: Y.HAGA | 2009年10月10日 (土) 17:50
否定することなく共存、そして純粋って、清志郎にも言えることですね!
投稿: K.I | 2009年10月11日 (日) 08:01
◆K.Iさん
>否定することなく共存、そして純粋って、清志郎にも言えることですね!
確かに!若い頃は自分の拘る狭い世界を突き詰めたエキセントリックな表現に心惹かれたりしたもんだけど、今は全てを包み込むような器の広いものにグッときます。そして根底には…やっぱり愛がなくちゃね。
投稿: Y.HAGA | 2009年10月11日 (日) 12:41