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2009年10月 6日 (火)

家族の肖像

きのうの夜、久しぶりにブルース・スプリングスティーンの「The River」に耳を傾けた。
3分間のワクの中でこれ以上はないぐらいのテンションで突っ走るR&Rと、雨に煙る十字路に消えゆく男の背中が浮かびあがるような珠玉のバラードが交互に鳴り響く。アメリカという巨大な社会に生きる人々の光と影を描いた2枚組みの大作だ。

初めて聴いた高校1年の冬、このアルバムはオレの心臓を鷲掴みにした。ニュージャージーの片隅からビックアップルに飛び出して行ったブルースに、オレは北の街を出て東京へ向かおうとしていた自分自身を重ねていたんだと思う。

ぼんやりとジャケットを眺めていて、当時は気が付かなかった裏ジャケの写真が妙に心に残った。
結婚式を迎えた幸せな家族のペーパードール。バックにはアメリカの威信を象徴するかのようなイーグルと星条旗。
いったい、このジャケットは何を意味しているんだろう?ブルースはこのジャケットで何を言わんとしているんだろう?

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アメリカ発の音楽を聴いたり映画を観たりしていると、アメリカ人にとって、自分がいつか「家族」や「HOME」に回帰していくという概念は、とても重要なものなんだなあと感じることがある。
どんなに傷つきボロボロになっても、たとえ自分が孤独に震える都会の狼であっても、彼らの魂はいつか愛する人の待つ家へと戻り、母なる大地に抱かれて眠りにつくことを願い続けている。「サブウェイ・パニック」のウォルター・マッソーしかり、「ホーム・ボーイ」のミッキー・ロークしかりだ。そして、ブルース・スプリングスティーンも…。

昔のオレは、若かりし日のブルースにとって家族やニュージャージーの田舎町は逃げ出す対象でしかなかったのだと信じ込んでいた。しかし、彼は心のどこかでそこに戻りたい、戻らなくてはならないという願望を常に抱いていたのではないかと今は思う。

たけど、ブルースは古き良き時代のアメリカの家族像が、もはや偶像でしかなくなってしまったことも同時に知っているのだ。
独身者の急増。高い離婚率。核家族化。古き良き時代の温かい大家族なんて、もはやアメリカでも日本でも過去の風景でしかない。
ブルースは、自分のスタイルがもはや時代錯誤であることもきっとわかっている。それでも走り続けるしかないのだ。なぜなら、彼にとってR&Rは逃げるための道具ではないのだから。ブルース・スプリングスティーンのR&Rは自殺マシーンなんかではなく、回帰するための船だったのだ。44を迎えた秋、オレは初めてそれに気が付いた。

正装に身を固めたペーパードールたちは、どこか悲しく切ない。まるで自分たちに張り付いた笑顔が、都会の片隅で孤独に耐えながら生き抜く誰かを慰めるものでしかないことを知っているかのようだ…。

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コメント

先日、『レスラー』を観ました。
スプリングスティーンの主題歌、泣けて泣けて……。
「家族」についても、なんとなく考えたりして。
映画の主人公は、どこか「ハングリー・ハート」の主人公に近いような。
書店で、最近出たばかりのボスの本、
『ブルース・スプリングスティーン ソングライターとして生きるには』を買って、いま読んでいます。
なかなか深い内容。翻訳本ですが、巻末に日本人が今年のLA公演のライヴレポートを書いています。
年の頃は40代半ば。15歳からのスプリングスティーン体験も書かれていて、同世代でもあり、いろいろ共感するところもあります。

◆ミスター・ボスさん
スプリングスティーンの楽曲は、けっこうよく映画に使われていますよね。最近の映画で僕が印象に残っているのは「再会の街」っていう映画。ここでは、大学時代の親友2人が友情を取り戻すために、正に「The River」の曲が使われるんです。
「アウト・イン・ザ・ストリート」を二人でジャムったり、街を歩く孤独な男の姿に重ねて「ドライブ・オール・ナイト」が流れたり。すごくぐっときました。

二十歳を過ぎてからの僕は、ちょっとスプリングスティーンは暑苦しく感じ(苦笑)、離れていた時期も長かったんですが、最近また気になりだしました。
9.11以降、彼は明らかに作風に深みが増しましたよね。やっぱりブルースは、今のアメリカ人のリアルな心情を描かせたら右に出る者のない優れたソングライターだと思います。

ご紹介いただいた本、とても興味深いですね。ぜひ読んでみたいと思います。

THE RIVER

特別なんですよね
あの頃、夢中で聞いた
裏ジャケ、ただぼんやり眺めてたけど・・・・

そうですね
THE BAND「BIG PINK」の家族の写真と重なるね

先日、初めて兄と母と3人で写真を撮りました
HAGAさんの文章を読んでいてふと思い出しました

HAGAさん、ご無沙汰です。
とっても大好きだけどブログに書いたりするにはどこから書いていいのかとっかっかりが難しいアルバム。“The River”は僕にとってそんな作品です。確かにこのアルバム、家族がとても大きなテーマになっていますね。
最近、じんわり浸みるのは、ラストの小品“Wreck on the Highway”。たまたま出くわした雨の日の車の事故、救急車で運ばれた男の悲報を聞く家族のことを思い、真夜中に突然その風景を思い出してやりきれない気持ちになって、自分の家族を抱きしめる…そんな気持ちがとてもよくわかるようになってきました。

◆noahさん
>THE BAND「BIG PINK」の家族の写真と重なるね

これは僕、全然気が付いてませんでした。改めて「BIG PINK」の内ジャケを見ると…。うーん、コレは「The River」以上に意味深な写真ですね。左上の英字は「NEXT OF KIN」の次はなんと綴られているのでしょう…。

◆goldenblueさん
The Riverは、その時々でいろんな顔を見せるアルバムだと思います。僕の場合、躍動するR&Rに心躍らせる日もあれば、地味に思えたバラードが突然リアルな情景を伴って胸に響いてきたりもします。
このアルバム、バンドの影の主役はキーボードのロイ・ビタンかなあ、なんて思ったりもしてるんですよね。彼のピアノとシンセがあったからこそ、あれだけ深い情感を感じられるバラードができあがったような気がするんです。「盗んだ車」でフェイドアウトしていくピアノは、何度聴いても気持ちを揺さぶられるなあ…。

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