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2009年12月 6日 (日)

【本】越境者 / 松田美智子(著)

10306451_4 映画「SOUL RED」を観てからというもの、僕の中では再び松田優作という不出のヒーローの像が大きくなってきた。今の日本映画界にも良い俳優はいるけど、やっぱり優作や萩原健一は、自分にとって別格の存在なのだ。

この本の著者は、ノンフィクション・ライターの松田美智子さん。と言うより、元女優・堀真弓で松田優作の最初の奥さんだった女性といった方が早い。彼女は優作がまだ無名の劇団員だった頃に彼と出会って、後に最初の妻となった。81年に優作が熊谷美由紀と出会って離婚するまでずっと傍にいたわけだから、実は美由紀さんよりも松田優作と過ごした時間は長いのだ。
それだけに、この本で語られる松田優作のエピソードは、幼い時の怪我が元で腎臓が片方機能していなかったことや、少年の頃に罹った中耳炎を完全に治さなかったため、大人になってからも耳の痛みに悩まされてきたことなど、意外な話もたくさん出てくる。「SOUL RED」が“表”の優作なら、「越境者」は“裏”の松田優作だ。おそらく、今後もこれほど素顔の松田優作に肉薄したものは出てこないだろう。

だけど、そんなエピソードよりも強く胸を焦がされたのは、優作の人並み外れた向上心だ。それは有名になりたいとか、金持ちになりたいとか言うのとはちょっと違い、激しく生きなければ自分の存在そのものが消えてしまう強迫観念に追われているような、実も心も演技に捧げているような、凄まじいまでの修練ぶりなのだ。
その向上心ゆえに、彼は自分だけではなく、周りのスタッフにも時として厳しく当たった。優作といくつもの作品を作り上げた“共犯者”、脚本家の丸山昇一氏でさえ、優作との関係は愛憎の狭間で苦しんだと語るぐらいなのだから、この人と付き合うのは並大抵のことではなかったのだろう。
はっきり言うと、松田優作という男は、ある部分、人間としての精神バランスを完全に欠いている。演技への執念にとり付かれ、異常なまでに偏った生き方をした人間だったのだ。その生き急ぐような熱い生き方を多くの人は彼の出自に求める。確かに在日韓国人として背負ってきた苦悩が、彼の反骨心に火をつけていた部分はあるだろうが、自分はそれだけではないような気がする。
ブルースのスタンダードで“悪い星の下に生まれて”ってのがあるけど、松田優作という男は、生まれた時から役者だったのだ。その性を全うするにはこういう生き方しかできなかったんだと思う。この本には、こちらも若くして夭折した俳優・金子正次もちらっと出てくるんだけど、僕は金子にも優作と同じような匂いを感じるなあ…。

後半の癌との闘病部分は読んでいて辛かった。晩年の彼が新興宗教にはまってしまったことや、実利的な治療より精神的な繋がりを重視した主治医の治療に、美智子さんは今も不信感を持っているようだ。離婚して疎遠になっていたこともあるのだろうが、彼に対して何もできなかった無念さが、行間から滲み出ているようで胸が痛くなった。

でも、オレは松田優作はある意味で今も死んでないように思っている。彼の存在は、今でも日本映画界に大きな影響を及ぼし続けていると思うからだ。
この本で僕がうれしかったのは、現役時代から彼と親しかった水谷豊と桃井かおりのコメント。水谷豊は自他共に認める松田優作の大親友。入院中の優作を見舞いに行った時、病院のトイレで止められていたタバコを二人吸い、“まるで高校生みたいだ…”と笑いあった話など、思わずこちらの頬も緩んでしまうような微笑ましい話もたくさん語られている。桃井かおりは流石!としかいいようがない。恐らく、女優の立場で優作とがんがんやり合ったのは彼女ぐらいなのではないか。桃井かおりと松田優作は、男女を越えた友人であり、気の置けないライバルだったのだと思う。
そう言えば、松田優作が死んだ時、桃井かおりは、こう言っていた。“これで自分が死んでも伝説になることはない。なら、長生きしてやる”と。この覚悟と男顔負けの切符の良さがこの女優の真骨頂。この本でも、彼女は“優作が「ブラック・レイン」に出なければ「SAYURI」に出ることはなかった”とまで言っている。実際、単身でハリウッドにわたった時も“ことあるごとに、優作ならどうしただろう?”と考えたというのだ。
桃井かおりと水谷豊。押しも押されもしない名優だけど、今は少なくなった70年代の香りを濃厚にまとった、いわば松田優作の作法を今に引き継いでいる俳優でもあると僕は思っている。

それにしても、癌に侵されていながらも、手術も強い抗がん剤の投与もやらなかったのか、優作は…。その生き様、最後まで映画そのものだよなあ…。

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