山口洋&細海魚(HEATWAVE) / 1月18日(月)横浜サムズアップ
1/18 mon 山口洋&細海魚(HEATWAVE)
横浜Thumbs Up
OPEN19:00/START20:00/ADV¥4000/DOOR¥4500
今年最初の山口洋のライブは、ヒートウェイブのキーボード奏者、細海魚との共演だ。
細海魚というキーボード・プレイヤーの存在は独特だと思う。リクオやkyOnのようにメロディアスなフレーズを弾きまくって観客を魅了するのではなく、アンビエントな、まるで空間を浮遊するような音色を漂わせて、場の空気をじわりと変えてしまう。はっきり言って、R&Rバンドのキーボードとしては異色だ。鍵盤奏者というよりも、まるで音響技術者のような感じ。
でも、現在のヒートウェイヴに、細海魚という稀代の音響系プレイヤーがいることはとても大きい。池畑潤二+渡辺圭一という男っぽいリズム隊に加えて、場の空気感を自在に操れる細海魚がいることにより、このバンドは通常編成のR&Rバンドでは表現の難しいと思われるような繊細な楽曲をもステージで再現することができるのだから。
この日のライブも、そんな魚の独特の音色を存分に生かしたものだった。
昨年、池畑潤二、渡辺圭一とのトリオ編成でのライブは、“これ、ほとんどヒートウェイヴじゃん!”と言いいたくなるぐらいバンド寄りのサウンドだったのだが、この日のサウンドはヒロシのソロ寄り。ギターも、ヒロシは2本のアコギだけでグレッチは使わなかった。
もともと、ソロの時のヒロシのギターは、バンドの時とは異なったアプローチをしているとオレは感じる。バンドの時のように、何かにとりつかれたようにグレッチをかき鳴らすのではなく、繊細なアコースティック・ギターの音色でじわりと場の空気を作っていく。そんなアプローチの仕方は、実は細海魚のスタイルともとても相性が良いのではないか。細海魚が隣にいることで、場の空気はヒロシ一人の時よりもいっそう複雑な襞を織り成していた。
ライブは「夜の果てへの旅」からスタート。ヒロシがギターを手にする前から、魚のシンセは映像を喚起するような不思議な音色を奏でており、そこに深くエコーをかけたヒロシの鋭いアコギが差し込まれていく。ある意味、ニューウェイヴっぽいとも言えるような深い情感を誘うサウンドに、ぐいぐい気持ちが引き付けられていった。
ライブを観ていて、なんだかオレはとても不思議な気持ちになった。
数年前に山口洋というミュージシャンを知って以来、何度もソロライブに通い詰めているけれど、何度観ても違う感触を抱いてしまうのはどうしてなのだろう?昔のことはよく知らないが、オレが通うようになってからは、ヒロシのライブの基本的なセットリストは毎回あまり変わらない。だけど、ヒロシのギターと歌には、その時々の彼の心の移ろいがはっきり現われていて、それはその時にしか感じられないような気がして、ステージに目と耳が引きつけられて離れなくなってしまうのだ。
これは、山口洋が自分とほとんど同世代であると言うことも大きいと思う。卓越した歌とギターを楽しむのと同時に、オレは無意識のうちに、同世代の無骨な男の生き様を、ヒロシの佇まいから感じたいと思っているんだろう。
そう、どっかのバーのカウンターで、悪友とお互いを牽制しながら酒を呑んでるような気分と近いかも(苦笑)。酒を呑む時って、同じ人とグラスを交わしても、その場の雰囲気や話題、2人のその時の状況なんかによって、毎回全然違うムードになったりするじゃないですか。そういうフィーリングととてもよく似ているのだ、山口洋のソロは…。
この日の洋は、ライブの進行という面では、細海魚と2人だけという初めてのシチュエーションに、ちょっと手探りな部分も感じられたが、セットリストについては、今の自分の立ち位置ならこれしかないと確信しているかのような自信を感じた。
オレ、山口洋の歌って“再生”をテーマにしたものがとても多いと思う。再生という言葉が大袈裟なら“やり直す”歌と言ってもいい。オレが彼の歌に惹かれて止まないのは、彼の歌の中に、自分がこの歳になって日々感じてしまっている、ある種の諦めや挫折、だけどそこからなんとか光を見出そうとあがいている自分自身の姿をも垣間見てしまうからなんじゃないかと、そんなことをぼんやりと思ったりしたなあ…。
「ガールフレンド」に漂う諦観と挫折。だけど、決して打ちひしがれているばかりではないという強い意志。現実と理想のパーセンテージをこんなに絶妙に織り込んだ楽曲って、今の日本の音楽にはなかなかないと思うんだ。
昨夜の10時に書き上げたという名もなき新曲や、まだ音源はないものの、最近のライブでよく演奏される「愛と希望と忍耐」なども演奏された。
この日特に印象に残ったのは、ヒロシの激しいカッティングと細海魚のハモンドが火花を散らした「Life goes on」や「オリオンへの道」、そして「満月の夕」かな…。
「オリオンへの道」は、昨年末のおおはた雄一とのライブでも演奏されていたけど、今のヒロシの心境そのままなんだろう。
「満月の夕」はとりわけ気持ちのこもった名演だった。震災から15年経った節目に、絶対に歌わなければならないって決めていたんだろう。でも、この曲がいろんなミュージシャンにカバーされてきたことはミュージシャン冥利に尽きるって、そんな素直な心境も話していたっけ。
サムズアップのライブは間に休憩が入るから、実質きっちり2時間。あっという間にも感じられたけど、とても濃厚な時間だった。
3月には、この組み合わせで短いツアーもするという。ツアータイトルは「ひかりを探しに」。うん、わかるなあ…。こんなタイトルひとつにも、山口洋という人の気持ちが現われているような気がしてしまう。2ヵ月後のツアーで、この組み合わせがどう進化していくか、そしてその進化がバンドにどう反映されていくのかが、オレはとても楽しみだ。
なにしろ、この日のライブでヒロシは“今年こそは新しいアルバムを作りたい”と力強く宣言したのだから…。
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このライブも行きたかったですが遠い沖縄の地・・・
HAGAさんの文章から様子を感じ取って妄想しています!!
去年の沖縄でのライブの魚さんのはじけっぷりが蘇ってきますが
今回はそれとは違った雰囲気だったような・・・
ますます観てみたかったです!!
3月のツアーに行ければ良いのですが・・・
洋さんの宣言、期待ふくらみますね!!
僕もリアルな音楽が好きです。
投稿: 美海工房ターツー | 2010年1月19日 (火) 21:54
◆美海工房ターツーさん
>去年の沖縄でのライブの魚さんのはじけっぷりが蘇ってきますが、今回はそれとは違った雰囲気だったような・・・
そうですね。ハモンドを激しく叩いて山口洋のギターと絡むシーンもありましたが、全体としては洋のアコギに残像を膨らませるようなサウンドを付ける感じだったと思います。映像が浮かぶような、不思議なタッチでした。
今年は新譜を大いに期待したいですね!そういえば、去年の渋谷DUOでのライブ音源リリースも考えているような話を日記でちらりと言ってましたが、会場に行けなかった僕はそっちも期待したいなあ。
投稿: Y.HAGA | 2010年1月21日 (木) 10:08