「RIKUO&PIANO」 / リクオ
このアルバムの発売を知った時、正直言って自分は、“なんで今更、カバーアルバムなんだろう?”と思ったことを白状しなければならない。もったいないような気がしたんだよ、最初は。
だって、リクオは今、シンガー・ソング・ライターとして油がのり切っている状態。前作の「WHAT'S LOVE」は、現時点でのリクオの最高傑作だと思う。ピアノの弾き語りとバンドサウンド+ストリングスの融合という、彼にしかできないスタイルを極めたところに、タイミングよく15年ぶりにメジャーからアルバムが出せるチャンスが巡って来たんだから、ここはがっつりオリジナル+バンドで勝負すべきでしょう!とオレは思ったんだよ。
だけど、そんな気持ちは、先日のアルバム発売記念ライブを観て綺麗になくなってしまった。それは、レポにも書いたけど、歌われたカバー曲のどれもが、リクオのオリジナルと言っても遜色ないぐらいに素晴らしい出来ばえだったからだ。そして、リクオ自身の解説を聞いたおかげで、なぜ彼が今、これらの曲を歌いたくなったのか、その理由もよくわかったからだ。
今、オレはあの日買って帰ってきた「リクオ&ピアノ」を毎日繰り返し繰り返し聴く日々を送っているんだけど、ライブの時に感じた想いはますます強くなるばかりだ。今歌われるべくして歌われている歌…。そこからは、リクオの音楽的なルーツばかりでなく、彼のミュージシャンとしての佇まいまでもがきちんと伝わってくる。
もうひとつ、このアルバムで特筆したいのは、音響の素晴らしさ。
「リクオ&ピアノ」を部屋に流すと、ピアノの温かい温もりとリクオの丸い歌声が、たちまち場の空気を小さなライブハウスに変えてしまうのだ。これは、クリアな音とか分離の効いたミックスっていう意味ではない。アルバムの持つ空気感に、そういう力があるのだ。
リクオは、このアルバムを窓のないスタジオではなく、江ノ島が一望できる開放的な空間で録音したという。昼間は江ノ島の青い海と海上を舞うカモメたちを眺め、夜は町明かりを眺めながらアルコールを片手に、ピアノを弾き、歌った。そんないい意味でリラックスした雰囲気が、そっくりそのままアルバムに収録されているように感じる。
リクオのピアノは、時にコロコロと気持ちよく転がり、時に弦のように艶やかにしなる。それに乗っかるリクオの声も、いつも以上にのびのびしている。
自分は、最近はipodで音楽を聴くことが多いのだけれど、このアルバムに関しては、ヘッドフォンではなく、できる限りスピーカーで聴きたくなるんだよなあ…。
ここからは個人的な想いになるんだけど、このアルバムを聴いて、オレはリクオに同世代ミュージシャンとしての連帯感をますます強く感じた。アルバムで取り上げられた「氷の世界」、「スローなブギにしてくれ」、「魚ごっこ」、「ホーボーへ」等は、時代もジャンルも異なる楽曲だ。でも、一緒に歌うことに、リクオはまったく違和感を感じていないだろうし、聴いてる自分もまったく違和感を感じない。それは、音楽的な嗜好が近いということもあるのだろうけど、同世代として同じような音楽体験を潜り抜けてきていることも大きいような気がする。
ライブでは洋楽に日本語詞を付けたものも多く歌っているリクオだが、今回に関しては、すべて邦楽のカバーでまとめたのも、アルバムの趣旨を理解し易くするという意味においては成功だったんじゃないかなあ。
自分は、「リクオ&ピアノ」を手に入れてからというもの、このアルバムを小さく流しながら眠りにつくのが日課になった。このアルバムを聴いて夜を過ごすと、どんなハードなことがあった日でも、自分のペースが取り戻せるような気がして、とても落ち着くのだ。
東京から少し離れた海の近くに生活の拠点を移し、私生活でも大きな転機を迎えた同世代の男が、今の気分のおもむくままに作ってみた手紙のようなアルバム…。オレは「リクオ&ピアノ」をそんな風に捉えている。
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コメント
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同感です。
>「リクオ&ピアノ」を部屋に流すと、ピアノの温かい温もりとリクオの丸い歌声が、たちまち場の空気を小さなライブハウスに変えてしまうのだ。これは、クリアな音とか分離の効いたミックスっていう意味ではない。アルバムの持つ空気感に、そういう力があるのだ。
私も、自分のブログに書いたんですけど、
見慣れたリビングが見慣れたリビングがリクオさんのライブ会場になりました。
まるで、いつものライブのように、
リクオさんが目の前で歌っている、ピアノを弾いている、その顔まで見えそうな、そんな感じでした。
この間ご本人に会う機会があったので、
「なんだか自分の家のリビングがライブハウスになったみたいで、
最後の曲が終わったら拍手しちゃいました」って言ったら
「そう感じてくれると嬉しいなあ」と言ってました。
>自分は、最近はipodで音楽を聴くことが多いのだけれど、このアルバムに関しては、ヘッドフォンではなく、できる限りスピーカーで聴きたくなるんだよなあ…。
これも同感です。
新譜はPCで聞くことが多いのですが、このアルバムに関しては、最初はプレイヤー(といっても古いCDラジカセですが)で聞きたかったのです。
すみません、またまた長くなってしまいました。
手紙のようなアルバム、素敵な表現ですね。
投稿: YUMI | 2010年1月30日 (土) 00:50
まだ聴いてないんですよね〜
2月頭にリクオさんが沖縄に来るのでそのときに買おうと思って!!
HAGAさんの感想を読んだらますます楽しみです!!
待ち遠しい〜!!
投稿: 美海工房ターツー | 2010年1月30日 (土) 00:51
◆YUMIさん
ライブ会場のような臨場感のある音になったのは、地元でリクオが本当にリラックスできる空間、虎丸座で録ったことが大きいんじゃないでしょうか?自然の波動に身も心もまかせて、心の赴くままに弾いて歌った…。アルコールの力も借りながら…。そんなタッチがそのまま真空パックされてるんだと思います。
お金をかけてゴージャスなスタジオで録ったりしなくても、やりようによっては十分に魅力的な作品が作れるということも、リクオは証明してくれたんだなって思います。
投稿: Y.HAGA | 2010年1月31日 (日) 20:36
◆美海工房ターツーさん
うんうん、沖縄で奏でられるアルバムからの楽曲は、BYGで聴くのとはまた違って聴こえるんじゃないかなあ…。魚ごっこなんか、沖縄のムードにぴったりな気がします(笑)。うーん、なんだか、いろんな地方でリクオさんのライブを観てみたくなっちゃったなあ…。ライブの感想、ぜひブログでご報告くださいね!
投稿: Y.HAGA | 2010年1月31日 (日) 20:39