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2010年1月 8日 (金)

【本】「正しい戦争」は本当にあるのか / 藤原 帰一 (著)

41d0413yjyl もう去年の話になってしまったけど、12月のオバマ大統領のノーベル平和賞受賞時のスピーチは、僕にはかなりショックだった。彼は、自分が現在も2つの大きな戦争を行っている国の最高司令官であるという事実を認めたうえで、戦争は平和を保つための大きな役割を持っていると明言したのだ。
もちろん、どんな言葉で正当化しようと、戦争は人類に大きな悲劇をもたらすものだという真実にも言及してはいたのだが、それでもオバマさんのスピーチは、ノーベル平和賞受賞者が、この世には“正しい戦争”があるということを、世界中にはっきり言い切ったことになる。この発言は、“戦争は国際法で定められた外交手段の一つだ”なんて、利いた風なことをぬかしているネット右翼の戯言とは、比べものにならないほど重い。

一体、“正しい戦争”とは何なのか。何を持ってその戦争を“正しい”とするのか。そもそも“正しい戦争”なんてものが本当にあるのか…。オバマさんのスピーチに大きな違和感を覚えた僕は、以前斜め読みしてほっぽり出していたこの本を、この機会にもう一度読んでみたくなったのである。

本の構成は、インタビュアーが藤原さんの話を聞きだす、口述手記のスタイルになっている。対談が行われた時期は、小泉さんが総理大臣となり、国内ではイラクへの自衛隊派兵が是か非かで揺れていた頃だ。今となっては一昔前のことのようだけど、内容は今読んでも少しも古さを感じさせない。それは、この本が戦争という現象を国際政治上にきちんと位置づけ、現在の国際情勢を歴史的な流れの中で、できる限り客観的に説明しようとしているからだと思う。
時事問題を考える時、こういう専門家による解説を精読しておくことは大事だと思う。こういった本から、知識のベースを作っておくと、新聞やテレビの扇情的な報道や一時的な社説、感情的な世論の動向に左右されない、自己の拠り所ができるからだ。

この本は、序盤で戦争という概念の戦争の歴史的な流れが解説される。それはおおよそ次のようなものだ。
中世の戦争は宗教的対立に根ざしたものが主流だった。これはお互いが自分たちを“正しい”と信じ込んでいるため、相手が全滅に近い状態になるまで徹底的にやってしまい、結果として、歯止めがきかない悲惨なものになりがちだった。その反省から、近代に入ると被害を最小限度にとどめるべく、リアリズムに基づいた戦争観が主流になってきたのだが、戦争を制限する国際法規などで、戦争が「違法化」されてくると、今度は戦争を行っている国を平和を乱す悪とみなし、制裁としてそこを攻撃する国が出てくるようになる。
これが現在のアメリカだ。最近のアメリカの軍事行動は、何でもありで歯止めの効かないものになりつつあるが、これは彼らが自分たちを“正しい”と信じて疑わないからなのではないか。つまり、戦争観がぐるっと一回りし、いまや中世の「正戦論」へ回帰してしまっていると藤原氏は言うのだ。

冷戦終結後の世界の見方や、日本国憲法と日米安保条約の見方なども、これを読むことによってだいぶはっきりしたものになってくる。こういう言い方は何だけど、僕はこれを読んでいて、今の世界は、冷戦終結後の総括を行ってこなかったツケを払っているのかもしれないと思うようになった。
第二次世界大戦までは、大きな戦争が終わると、世界の体制や構造が変わらざるを得なかった。日本が正にそうで、敗戦という大きな痛手を負ったわが国は、そこではじめて民主主義に目覚め、経済中心へと国の構造を改革したのだ。
しかし、冷戦終結の場合はそうではなく、アメリカとソ連の代理戦争を戦わされた国々は、冷戦終結と同時にそのままま放り出されてしまった。これが今日の国際情勢の混乱の一因だと藤原氏は語る。

正直言って、僕は藤原さんの考え方にはシニカル過ぎるところもあると感じるし、全面的に賛成しているわけではない。だが、先のオバマさんの発言などは、正に藤原さんの言ってることを踏襲しているとしか言いようがないと思った。change!を標榜していた人物が、実は典型的なアメリカの大国主義的な物言いをしている…。やっぱり、がっかりだよな、これは。

だけど、同時にこうも思ったんだ。“ラブ・アンド・ピース”を理念として持つことは大事だけど、この世から戦争という“悪”をなくすための手段を考える時、僕らはもっとリアルに物事を見つめ、シニカルになるべきではないかと。
外交というものは、突き詰めるところ取り引きと談合なのだと思う。手段は汚くとも、すべての手を打った時にどれだけ国益を手に入れることができたかということ、それこそが外交の成果。結果として理想に近い世界を形成したのならなお良しだ。
藤原さんの言うように、現実主義的な立場から平和の可能性を追求し、少しずつでもいいから状況をいい方向に変えていく…。そんな積み重ねを根気よくやらないと、この世から戦争なんて決してなくならないんだろうな…。

正月明けのボケた頭には少々刺激が強い本だけど、僕らが呑気におせちなんか食ってる間にも、確実に戦争で人が死んでいる。その事実はやっぱり意識し続けなければならないだろうな。
2010年。僕らはこんな奇妙な世界に生きているのだ…。

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