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2010年2月20日 (土)

リクオ・アルバム発売記念ライブ・ツアー「リクオ&ピアノ」 / 2月20日(土)神奈川県藤沢市片瀬海岸 虎丸座

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海の気配が感じられる場所が昔から好きだった。もしかしたら、オレは生まれ育ったところが山に囲まれた町だったから、海への憧れがなおさら強くなったのかもしれないと思う。
この日の会場は江ノ島の片瀬海岸のすぐ近く。オレはライブ前に海の香りを感じたくて、開場の2時間前には片瀬江ノ島にいた。改札を出ると、頬に当たる潮風の感触がなんとも気持ちいい。西の海原には冬の弱い太陽が金色の光を波間に落としている。その遥か向こうには富士山の美しいシルエット…。いやあ~素晴らしい眺めだった。心の底から自分が開放されていくのを感じたなあ…。
海岸に降りると、陽が落ちる前の短い時間を惜しむように波乗りに興じる人たちや、犬を連れて散歩する人たち、そして湾岸沿いの道を走る人たちの姿が。湘南国際マラソンが開かれる土地柄もあり、この辺りはランナー人口が多いとは聞いていたんだけれど、確かに自分のホームグラウンドである上野公園よりランナーはずっと多い。うん、気持ちはよくわかる。これだけ素晴らしい自然の傍で暮らしていたら、人間誰しも走ったりサーフィンしたりしたくなるだろう。

今、ピアノマン・リクオが暮らしているのは、こんな海沿いの小さな町なのだ。そして、「リクオ&ピアノ」は彼がこの町で暮らして初めてリリースしたアルバムということになる。彼は江ノ島の海を見下ろす建物の一室にピアノと機材を持ち込み、家から自転車で通いながら、昼間は海原を飛び交うカモメ達を、夜は遠く夜景を眺め、アルコールを片手にレコーディングに臨んだという。
この日のライブは正にそのレコーディング場所、江ノ島ビュータワー7階にある虎丸座というイベントスペースで行われた。アルバム発売日にBYGで行われたライブも素晴らしかったが、レコーディングしたその場所で行われるこのライブもまた特別なものに違いない。そう思って、オレはこの日が来るのが本当に待ち遠しかった。

予感は100%的中した。演奏された曲はBYGとほとんど同じなのに、ライブ全体の感じはBYGとはちょっと違っていた。何と言ったらいいんだろうか、よりリラックスして外に向かって開放されたようなタッチ。BYGが収録曲を丁寧に紹介する濃密なライブだったとすれば、この日はショーケースに入った曲たちを一つひとつ空に解き放っていくような、のびのびしたフィーリングを感じた。
オレ、つくづく思ったよ。歌もピアノも生き物なんだなあと…。同じ歌でも、聴く方、演る方のシチュエーションで、全然違って響く。それをこの日ほど強く実感したことはなかったように思う。

この日はゲストも登場。ファンにはお馴染み、クレイジー・フィンガーズで一緒に演奏している鍵盤奏者、YANCYと斎藤勇太の2人だ。会場にはリクオ用とゲスト用に、グランドピアノが2台も用意されているという贅沢さ。この2人の演奏もいつも以上に良かったんだ。
YANCYは最近1910年代の古いスタイルのピアノに傾倒しているということで、オールドスタイルのインストを披露。それと、1部の最後の方、リクオと共演した「ソウル」。これ、もちろんリクオが主旋律を弾いて歌うわけだけど、そこに付けたピアノが、短いフレーズなんだけどとても効果的なバッキングで良かったんだよなあ…。
斎藤勇太はいきなりの「氷の世界」で会場を熱くさせ、本人もライブ初披露と話す「飛行船」をソロで演奏。これ、後から勇太ファンに聞いたところだと、もともと藤井フミヤに提供した曲だとか。確かに、節回しとかどことなくフミヤの歌う曲っぽいところがあった。うん、いい曲でした。
それから、BYGではやらなかった曲で「同じ月を見ている」。いやあ~これが斎藤勇太との共演で演奏されるとは夢にも思わなかった。かなり揺さぶられた。オレ、切ないけどすごく好きな曲なんだよね、この曲。江ノ島の夜景が見える会場でのライブというシチュエーションに、この曲はすごく合っていたと思う。

演奏された曲はBYGとほとんど同じでも、曲順はけっこう変えてあり、このへんもリクオ氏、考えてきましたね~?っていう感じ(笑)。オープニングが「ヘブンズブルース」だったり、前半にちょっとノリのイイやつを並べたあたりは、地元ならではの盛り上がりを意識したのかもしれない。
それから、2部の中盤、客席が温まった中でじっくりと歌われたバラードの数々も、とても印象に残るものだったと思う。

とにかく、あっという間の3時間。MCはBYGよりも少なかったけど、曲の持つ説得力は少しも劣っていなかったと思う。

それにしても、虎丸座は記憶に残るとても素敵なライブスペースだった。
まずはその素晴らしいロケーション!片瀬海岸を眼下に見降ろし、夕陽に染まった富士山のシルエットが浮かぶ様は息を呑むほど美しかった。そして、とっぷりと陽が落ちると、今度は遠くに藤沢の街明かりが見えてくるのだ。これはもう、リクオじゃなくてもアルコールを注入したくなっちゃうよ(笑)。
虎丸座という空間がどれだけ素晴らしいかは、正にここで撮影されたこのPVでもお分かりいただけるだろう。



それと、この日のライブはドリンクに加え、なんとバイキング形式の食事まで用意してあった。それも、軽食どころではなく、ディナーとして十分なぐらいの量と種類。ワンドリンク付きのライブはよくあるパターンだけど、食事まで付いてるライブってのは珍しいんじゃないだろうか?まるで、リクオんちのホームパーティーに招待されたかのような錯覚を覚えてしまうほど。オレ、これで採算取れるんだろうか?なんて余計な心配までしてしまった(苦笑)。
それから、なんと言っても虎丸座のマスター、あなたは最高ですっ!(笑)。まあ~天然というか何と言うか…(笑)。話してるとワザとやってるんじゃないかと思うくらいにボケてくれるんで、可笑しくてしょうがなかった。

オレ、この日聴いた曲のいくつかは、虎丸座と江ノ島の海、それにこの町の持つ空気によっていっそう引き立ったことは間違いないと思う。「やさしさに包まれて」は、太陽の暖かい日差しが差し込んでくるような、柔らかく優しいタッチを感じたし、「時の過ぎ行くままに」は、海辺の町でジントニックのグラスを傾けて聴くのに、これ以上にフィットする曲はないんじゃないかと思ったぐらい。

オレ、藤沢の町でレコ発ライブが観られて本当に良かったと思う。
何度も言うけれど、このアルバムはリクオがこの町に住んで、この町の自然に包まれながら暮らしていく中で生まれたアルバムなのだ。この夜のライブを観て、そのことが肌で感じられたことが何よりも嬉しかった。

そうそう、リクオが話してた言葉ですごく印象に残ったことがある。“自然の中で暮らしていると、五感のバランスがよくなる”って彼は言ったんだよね。オレ、これすごくイイ言葉だと思った。
鎌倉や湘南や江ノ島など、海や自然の近くに住んだ人が、いきなりランニングやサーフィン、サイクリングなんかに目覚めたりする話をよく聴くけど、それってよくわかる気がするなあ…。オレも、ライブ前に夕暮れの海岸線を走る人たちを見て、なんだか羨ましかったもん。

藤沢。鵠沼。片瀬海岸。江ノ島。いい町だなあ…。
もし、自分が今独りの身だったら、ここに住むことを真剣に考えたかもしれない。陽が高いうちは海を見ながら走って、潮の香りをかいで。夜になったら好きな音楽を聴いて、お酒を呑んで…。そんなおだやかな暮らしが送れたらどんなにいいだろう…。
大好きな潮の香りを感じに、またこの海沿いの町に来たい。この町でまたリクオのライブを観たい…。そう強く思わせてくれる夜だった。

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コメント

このライブが特別なものに違いないというのは
予感を超えて確信といっても良いですよね!!
僕は鎌倉生まれ藤沢育ちで
海沿いの高校に通っていた頃には
毎日授業中も江ノ島を眺めて過ごしていました!
今は沖縄の海の見える場所に住んでいますが
あらためて湘南の素晴らしさを再認識したりもしています!
リクオさん、某Hさんが湘南を気に入ってくれているようなので
とても喜ばしく思っています!
(二人の方がすっかり地元になじんでいるようです!!)
そんな大好きな街でできたアルバム。
ずっと大切に聴いて行きたいと思っています。

◆ターツーさん
あー、僕、鎌倉も大好き。鎌倉・藤沢・江ノ島・湘南…。東京から少し離れた海辺の町は、やっぱり憧れです。
授業中も江ノ島を眺めて過ごしたってのは、素敵ですね!きっと、ターツーさんがどこで暮らしていようとも、それはずっと心象風景として生き続けるのでしょうね…。
リクオさんも、某Hさんも(笑)、流れ流れて湘南に行き着いたってのは、なんかとてもよくわかるような気がするなあ。
僕も子供が成人したら、あの辺に引っ越そうか…そんなことを思ってしまうぐらい、海街が好きです。

先日からコメントさせていただいてます

umeda AKASO参加して
サインも終了後にいただきステージ共に感動でした

虎丸座は今回、特別なステージですよね~
近くだったら・・絶対行ったのに・・・

想像するだけで素敵だったんだろうな
参加されて羨ましいです

◆はじめましてですさん
>umeda AKASO参加して、サインも終了後にいただきステージ共に感動でした

おー、良かったですねえ!僕、まだ関西方面ではリクオのライブって観たことがないのですよ。ライブって、観る場所で全然違うタッチになったりしますよね。機会があれば、ぜひ大阪でもリクオのライブを観てみたいなあ、なんて思います。
それにしても、リクオの全国区のミュージシャンでありながら、ローカルに根ざした活動で作品を生み出す姿勢ってのは素晴らしいですよね。僕、自分の暮らしを振り返ってみて、地元への貢献っていうこともこれからは考えていかなければならないなあ、なんて考えるようになりました。

はじめまして。リクオ氏の掲示板から
一方的にブログは時々拝見させて頂いておりました。
HAGAさんの音楽論が奥が深くて愛情も感じられて、
なおかつ厳しくもあって鋭い切り口から
書かれていらっしゃるので
ふむふむ〜と頷きながら。
男性からの目線で書かれるライブレポ、
大好きなんです(^^)

虎丸座ライブ、素晴らしかったですね。
あのシチュエーション、ハマりました。
ほんとに住んでみたい、と思いました。
BYGもよく遠征するライブハウスですが
あの空間もほんとに素晴らしくて。

私はリクオさん出身の京都在住で、
こちらのライブではもうひとつの地元と言う事で
違った開放感であったりゆるさであったりW
懐かしいエピソードなどをMCで語られたりもします。
お客はライブ中でも
やたら話しかけたりしますw


一度、機会がありましたら是非
磔磔や捨得へ足を運んでみてくださいね。
高田渡氏もご縁があるライブハウスが
点在しております。


◆*あきあきさん
はじめまして。僕もあきあきさんのお名前は、リクオの掲示板から存じておりました。
僕のブログが「音楽論」なんていえるほど大層なものじゃありませんよ(苦笑)。音楽大好きオヤジがつぶやいてる独り言みたいなもんだと思ってください(笑)。

リクオのライブは、首都圏近郊で観てても、場所によって随分印象が違ったりします。ですんで、京都で観るライブはまた格別なんでしょうね。磔磔は何度か他のミュージシャンのライブで行ったことがあるんですが、是非リクオのライブもあそこで観てみたいなあ…。

このライブ、行けなかったのでHAGAさんの日記をとても楽しみにしていました(なのにいまさらのコメントですみません)。

虎丸座には、海さくらミュージックフェスティバルで行ったことがあるので、HAGAさんの日記を読んでライブの雰囲気を楽しませていただきました。

「同じ月を見ている」、聞きたかったです!
私もあの曲は大好きです。夜空を見上げると、つい頭の中でリフレインしてしまいます。
でも、まだライブで聴いたことがないんです(泣)。

リクオさんのライブは、いつも楽しくて、毎回堪能しているんですが、私的には、やはりピアノで聴きたいんです。できればグランドピアノで!
ですから次回、虎丸座でライブがあるときは、ぜひ行きたいと思ってます。
いずれお会いできる機会もあるかと思いますので、その時を楽しみにしつつ、日記を読ませていただきます。

ところで、4月に藤沢でライブがありますが、いらっしゃいますか?

◆YUMIさん
>虎丸座には、海さくらミュージックフェスティバルで行ったことがあるので、

ああ、昨年の海さくらですよね?僕は一昨年とその前の年は行ったんですけど、去年の海さくらは行けなかったんです。素晴らしい2日間だったようですね。今年は何としても行こうと決めています!

リクオのライブ、ピアノで聴きたいてのは全く同感です!キーボードもいいんですが、やっぱり生ピアノですよね。虎丸座の時は、ピアノが2台あったおかげで、YANCY・勇太とのピアノでの共演が聴けたのが嬉しかったです。トリプルピアノはクレフィンでもありませんでしたからね!

4月の藤沢は、鋭意日程調整中です(笑)。久々のトリオでのライブですので、是非行きたいんですけどね。
そういえば、リクオさん、前の日も新宿でライブですねえ…。

こんにちわ。
その地に住む僕です(笑)。

引っ越して分かったのは「四季があるんだな」ということです。
僕は、これに尽きています。

たとえば、今の季節はワカメのシーズン。
そして、
鎌倉の野菜市場にいけば、季節の野菜を知ることができる。

湘南の海も、汚いことはないという事実。
夏は冨士山が見えない事実。冬はくっきりという事実。
葉山の透き通る海。
湘南の遠浅の海岸。
台風ですべてをぶっ壊す自然の脅威。

ずっと高円寺にいて、なんか、四季を忘れていました。
その感性を取り戻したことは、この鎌倉引っ越しの大きなプラスになったなぁ。

基本、期間限定で越したので、多分東京に戻るけど、その感性は大切にしないといけないと思っています。

と、リクオと全然関係ない話じゃん!!!

◆dokemonoさん
そっか、dokemonoさん、高円寺を出たんですね。で、海の近くに…。いいなあー。

オレ、鎌倉も大好きなんです。吉田秋生さんの漫画で「海街Diary」ってのがあるんですが、これは鎌倉の四季がストーリーに上手く盛り込まれています。
ああいうの読んだりすると、やっぱり海の近くに住みたいってすごく思いますね。

ま、今住んでる下町も大好きなんですけどね(笑)。

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