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2010年4月25日 (日)

基本はリズム

やっぱり基本はリズムなのだ。メロディーでも歌でもなく、肝心なのはリズム。

この前のキャロル・キング&ジェイムス・テイラーのライブで、アメリカの誇るいぶし銀のリズム隊、元セクションのラス・カンケルとリーランド・スカラーのプレイを目の前で見られたことは、僕にとってすごく大きな音楽体験だったと思う。あの日以来、僕は自分の中のある種の音楽的嗜好性に、より自覚的になった様な気がする。

人が音楽を好きになるにはいろんな要素があるだろう。一般的に日本人の音楽ファンに多いのは、メロディーに惹かれるというパターンだといわれる。それが、日本ではいわゆる歌モノしかチャートの上位に入らない理由だと言われているわけだけれど、僕の場合、その音楽が肌に合うか合わないかは、メロディーよりも、歌よりも、まずはリズムが先。先日のライブを通して、そんな自分の嗜好をますます強く確信するようになった。
あの夜の武道館で、セクションのリズム隊は何も難しいことはやっていなかった。バンド全体のアンサンブルに気を配り、自分たちはサウンドのボトムを支えるという役割に徹して、シンプルなプレイを淡々と行っていただけだ。それなのに、彼らの産み出すリズムには、しなやかなビートがあり、鮮やかな色が見え、ミディアムな楽曲ですら緩やかなグルーブ感が心地よさを生み出していた。
何だか、あっけにとられてしまいましたよ…。日本とアメリカとの圧倒的な力量の差を感じないわけにはいかなかった。本場のベテラン・セッションミュージシャンの底力、と言ってしまえばそれまでだけど、やっぱり僕は、彼らの背後にある豊かな音楽的土壌を感じないわけにはいかない。

リズムを表現する言葉として、「タメ」とか「うねり」という言葉がある。けれど、日本ではこの意味をきちんと理解している音楽ファンは意外に少ないのではないだろうか?
リズムの感覚を説明しやすいのが、僕の大好きなニューオリンズ系のR&B。このジャンルの音楽を表現するのによく使われる単語に、「シンコペーション」というものがある。これは、一言で言うと通常のアクセントとなる部分をわざとすらすことによってノリを出すテクのことだ。
「ドン・カッ・ドン・カッ」を延々繰り返していってもある種のグルーブは生まれる。だけど、「ドン・カッ・ドンドン・カッ」なら、サウンドは横にうねり始めるでしょ?頭で聴くより、腰にくる感じ。サウンドはより肉感的な感触を持ち出す。わかるかな?このニュアンス。

実は、ロックでお馴染みの16ビートというのも、このシンコペーションをより強調したリズムと言って良い。これに加えてリズムの裏と表を交互に入れ替えたりすると、さらにビートのうねりと膨らみが増していく。この一連の流れを洗練された形でプレイしたのがファンクだったりするわけだ。
もっと言うと、70年代後期に出てきたレゲエがなぜ革新的だったかというと、ファンクとは逆の発送で、リズムを複雑化しないで、「ドン・カッ・ドン・カッ」のまま、リズムの裏と表のアクセントを逆さまにするだけでノリを産み出していたから。足し算ではなく、引き算でノリを出してしまったからみんなびっくりしたのだ。

最近の日本人の若手バンドには、この手のリズム、シンコペイトするリズムがほとんど聴かれない。縦ノリでガーッと突っ走るだけだ。勢いはあるけど、リズムに表情やふくらみが乏しく、僕なんかはどうしても物足りなく感じてしまう。これはある意味、80年代のバンドブームの副作用と、パンクの誤った解釈が日本ではいまだに抜け切ってないということなんじゃないだろうか?
日本のロックファンには、80年代頃から洋楽は聴かず、邦楽ロックにしか興味を持たない層が多数現れるようになった。彼らはそもそもリズムの多様性を知らない。たとえば、ライブに行くとしばしば手拍子が起きる。だけど、日本の観客に最も好まれるのは8や16の単純なリズムであって、バンドがひとたびシンコペートしたリズムを繰り出したりすると、とたんに戸惑って手を叩けなくなる場面にしばしば出会う。80年代からライブを観ていても、こういう状況はずっと変わっていないのだ。
いったい、日本にロックが根付いて何年になるのだろう。もうそろそろ、頭でなく腰で音楽を楽しむ快感に気づいてほしいものだと思う。

まあ、そういう僕も、まだまだ勉強中なんだけどね…。
音楽の嗜好は先天的なものも大きいけど、そこに意識的に新しい視点を加えていくことで、感性はより鋭く豊かになっていくものだと、僕は思っている。
こうして、音楽をめぐる冒険は一生続くのだ。

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コメント

おお!
ちょっと最近、似たようなことを考えてました。
同じ縦ノリの突っ走るリズムでも、「あらゆるリズムを経験してきた上で、敢えて縦ノリを演奏する」熟練?のドラマーさんと、「縦ノリしか知らない」ドラマーさんとじゃ全然違うよなぁ、って。あるライヴで目の当たりにしちゃったもので。。
まあ、若いピチピチ(笑)のロックバンドならその青さも持ち味と言えなくはないけど、やっぱりある段階で物足りなくなっちゃうんですよね。
そこを乗り越えて生き残った人たちが、今の日本の中堅以上のロックミュージシャンなのかなぁ、なんて思ってます。

リズムについては、ジャンベを習い始め、ブラジル音楽(ボサノバとかじゃなく、アフリカに近い地域の)を聴き始めてからいろんなものが見えてきました。
私もまだまだ勉強中ですが、最近面白くて仕方ありません。


ところで、昨年はインフル騒動で泣く泣く断念したニューオリンズ行きですが、今年こそ行って参ります!
明日出発で~す!

投稿: ayako | 2010年4月26日 (月) 16時56分

ラス・カンケル、リー・スクラー。久しぶりに聴きました笑。
昔はまってたリッキー・リー・ジョーンズやジョニ・ミッチェル
のバックバンド名でよく名前を見た記憶あります。

でリズムの話ですが。日本の若手バンドが殆ど「タテのり」というのは大いに頷けます。洋楽聴いてないのもあるし、おそらくBOØWYの影響が大きいと思います。


一方で日本のバンドでも「タメ・うねり」出せてるミュージシャンいっぱい居ると思いますよ。解散したけど、ボ・ガンボスはそうでしょうし。細野晴臣さんのバックでギター弾いてる高田蓮さん(渡さんの息子さん!)とかハナレグミ、ホーボーキングあたりは結構「ヨコのり」のリズムをイイ感じで出せてるのでは?

アメリカの模倣でなくて日本独自の「ヨコのりリズム」を生み出しているんじゃないかなぁ。

実はボクこの数年洋楽から離れて日本のロックばかり聴いてます。
本場の本格的なロック、リズムも善いけど・・模倣から始まった
でも独自の展開をした日本のロックは矢張り目を離せません。

って偉そうに書いてますが勉強中なのはボクも同じです(^_^;

投稿: ながわ | 2010年4月26日 (月) 23時35分

HAGAさん、こんばんは。
音楽はリズムだ論に賛成です。厳密には、音楽の素晴らしさは、リズムと、歌詞だけではない音楽そのものを通じてその表現者が伝えたいメッセージ(メッセージって言うのは堅苦しいものだけではなく楽しいなぁ、悲しいなぁという感情表現を含むもの)だと思います。
HAGAさんの本論とは離れるかもしれませんが、昨日「新堂本兄弟」で加山雄三やさだまさし、谷村新司、アルフィーなんかが出てわいわいやっていました。彼らはパーソナリティーとしてはとても面白いのですが、演奏した音楽はとてもつまらないものでした。何がつまらないのかなぁ、と考えるとやっぱりリズム。さだまさしや谷村新司と同世代の清志郎やチャボの音楽、或いは大瀧詠一や細野晴臣の音楽がそのへんの流行音楽とは完全に異質であんなにかっこよくてガンガン心に迫ってきたのは、彼らの音楽のリズム、8とか16とか以前のリズム感の違いだったのだろうなぁ、なんて思いました。心のビート感、とでもいうような。ながわさんのコメントにあるように、そんなリズム感を持ったアーティストは日本でもたくさんいますし(リクオさんもそうですよね)、これからも出てくると思いますよ、メジャーにはならないのかも知れないけれど、人の心に深く根を下ろして心の底からのグルーヴを呼びおこすのはそんな人たちの音楽だと思います。

投稿: goldenblue | 2010年4月27日 (火) 01時18分

◆ayakoさん
リズムってのは、その人のクセみたいなもので、同じパターンを叩いても全然違うニュアンスになっちゃうものだと思うんです。そういうのは音符じゃ表せない感覚ですよね。ポンタさんなんか“ブッ、カッ!ドン!”なんて擬音を使って説明しますが、当人以外、全然わからん(苦笑)。
でも、これって実はドラマー以外でもとても重要なことで、特にボーカリストでこのニュアンスにこだわっている人はとても多いように思います。清志郎がそうでしたし、河村カースケが売れっ子なのも、彼の持つ「タメ」の感覚がボーカリストにとっては歌いやすいんだと思うんですよね。

ニューオリンズ、イイっすね~!僕もいつかは行きたい憧れの地です。今度どこかでお会したら、お土産話、たくさん聞かせてくださいね。

投稿: Y.HAGA | 2010年4月27日 (火) 11時13分

◆ながわさん
>日本の若手バンドが殆ど「タテのり」というのは大いに頷けます。洋楽聴いてないのもあるし、おそらくBOØWYの影響が大きいと思います。

それは言えてる(笑)。高橋まことさんはリズムのキープ力が凄いドラマーですが、少なくとも「タメ」や「うねり」とは別世界の人ですよね。僕はあまり好きなタイプではありません。同郷なので、あんまり悪口言いたくないんですけど(苦笑)。
でも、日本でもいいビートを持ってるバンドはありますよね、確かに。例に挙げてくださったボ・ガンボス、岡地さんのドラムは僕も大好きです!ホーボーキングバンドは70年代のアメリカン・ロックのノリを完璧に自分たちの血肉にしてると思います。
日本のロックの独自性ってのも大いに納得ですね。僕が惹かれる日本人ミュージシャンも、そういう人が多いです。SFUなんか、世界中どこに出しても恥ずかしくない、日本ならではのバンドだと思います。

投稿: Y.HAGA | 2010年4月27日 (火) 11時14分

◆goldenblueさん
僕ねえ、日本には歌メロとか歌詞にこだわる人が異常に多いような気がするんですよ。もちろんそれも大事ですけど、音楽ってそれだけじゃないですよね。どんなにメロがいい楽曲だって、ボトムがふらふらだったら僕は聴く気になれません。カラオケで歌うために音楽聴いてるわけじゃないですからね(苦笑)。

>彼らはパーソナリティーとしてはとても面白いのですが、演奏した音楽はとてもつまらないものでした。

僕ねえ、こういう人、いっぱいいますよ(苦笑)。
矢沢永吉なんか、人間的にはあんなに魅力的な人なのに、出してる音はなんであんなにつまらないんだろう、って思っちゃうんです。やっぱり、その人の持ってる楽譜に現われないビート感ってすごく大事ですよね。
若いミュージシャンに関して言えば、独りで機械のクリック音に併せてばかりだった人と、人と接しながら生音をぶつけ合ってきた人とでは、やっぱり養われたリズム感も違ってくるように思います。

投稿: Y.HAGA | 2010年4月27日 (火) 11時15分

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