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2010年4月26日 (月)

リマスター世代の音楽シーン

90年代以降の音楽シーンにおいて、リスナーの音楽への接し方として一番大きく変わった点は、既に解散してしまったバンドや天逝してしまったミュージシャンの作品と、現在進行形の人たちとを分け隔てなく聴くようになったことなんじゃないかなあ?
80年代当時は、たとえば20年前に発表されたアルバムをわざわざ買って聴くのは、マニアックな音楽ファンのやることだった。一般の音楽ファンは、その時に第一線で活躍している人たちの中からアルバムを買うのが普通だったのである。それがいつしか、新作と旧譜の再発盤との購入割合が逆転してしまい、今や気が付くと再発盤ばっかり集めている、なんていう音楽ファンも少なくないだろう。

こうなった理由はいくつかあると思う。昔、渋谷洋一がよく言ってた、“ロックは常に進化し続けている”という概念が崩壊してしまったこともひとつだろうし、リスナーの音楽嗜好が多様化し、時代を象徴する強力なミュージシャンが現われ難くなっているということもあるだろう。
だけど、僕が思う最大の理由は、音楽を聴くフォーマットがアナログレコードからCDに変わったという環境の変化だと思う。これが追い風となって、自然と今の状況が生まれたんじゃないかと思うんだよね。82年に販売が開始されたCDは、瞬く間に需要を伸ばし、わずか4年後にはアナログの生産枚数を追い越してしまった。そしてCDが音楽を記録する標準的なフォーマットになると、市場のCDのカタログ・ストックを増やすべく、アナログレコード時代の名盤が、新たにデジタルマスタリングを施されて次々に世に出るようになった。90年代初頭なんか、リリースされるCDは、新譜より再発盤の方がずっと多かったぐらい。こういう環境が自然と音楽の時代性を覆すことにつながったんじゃないかと思うんです。

アナログレコード全盛時には、少し前の時代のレコードだと、音楽の魅力を楽しむ以前に音質の悪さが気になって集中できないことも多かった。そんなレコードたちが、デジタルリマスターを通したCDに姿を変えると、まるで昨日レコーディングされたばかりのような粒の整った音になったのだから驚いた。
当時、昔からのロックファンはこれに賛否両論だったと思う。“アナログ時代には聴こえなかった音まで聴こえるようになった”とか“名盤を改めて見直した”といった意見もあれば、“たとえ綺麗になっても、アナログ盤と違う音になっているのはいただけない”“音がクリアになったが、逆にアナログにあった空気感は失われてしまった”なんてことをいう人も多かったなあ…。
ただし、否定的な意見は、かつてレコード時代の音源を聴いたことがある人の感想であり、クリアになった音を初めて聴いた一般の音楽ファンは、例外なく60年代・70年代の音楽の素晴らしさに改めて気が付いたことだろう。

アナログ派の根強い抵抗感も、アーティスト当人が公式にリマスターを認めたCDが次々に出るようになってからは、下火になってきたような気がする。なにしろ、作った本人がリマスターを認めてるんだから文句のつけようがない。こうして、ロックファンはなんの躊躇いもなく20年前・30年前の名盤を買い、その音の良さに狂喜できる時代になったわけだ。

オレ、これは音楽的にはとても健全な状態になったんじゃないかと思ってるんだ。実際、僕自身も今購入するアルバムの大半はだいぶ前に発売されたアルバムだったりするんだけど、純粋に自分の好きな傾向のサウンドを、時代とか時々の流行とかに囚われずに探検するのはとても楽しい。音楽は“進化”するものじゃない。“深化”するものだってのがオレの持論だから。

周りを見ても、若い人が60年代・70年代の再発モノを気軽に買う時代になったのはすごく大きな変化だと思う。そもそも、彼らは音質が悪かったアナログ・フォーマットの音を知らないから、新譜と再発盤とを同じタイミングで出た新しい音楽として、僕ら以上に分け隔てなく聴く耳を持っている。
これは僕らと新世代との決定的な違いなのではないだろうか。ラヴ・サイコデリコとか、最近のSuperflyとか、あの辺のミクスチャー感覚は、やっぱし90年代以降のリマスター世代ならではなんだろうなあ…。

ただ、まだ物足りないんだ、オレは。これだけの環境なんだから、上に挙げた二つのバンド以上に、オリジナリティのある奴らが出てきてもいいと思うんだけどなあ、ほんとは。
なんとなく、そろそろそんなバンドが出てきそうな予感はするのだが…。

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コメント

進化じゃなく深化におおいに共感。
確かにCDの普及が音楽の聴き方変えましたよね。

◆LA MOSCAさん
ここに書ききれなかったことなんだけど、CDの普及によって音楽ファンが恩恵を蒙ったこととして、アナログ時代幻の名盤が、廉価になって再発されたってこともありますよね。
それと、CDが大容量での記録媒体になったメリットを生かし、大々的なボーナストラックが付いたリイシューCDが大量に出るようになったこと、これで新たにそのミュージシャンの魅力に気が付いたってことも多いように思います。
レッド・ツェッペリンなんか、2003年に出た例の3枚組ライブ以降、若い人も取り込んでロックファンの再評価がぐっと上がりましたよね。彼らのスケールは、アナログに入りきらないぐらいにデカかったってことかな(笑)。

こんばんは。
私が思うに、例えばビートルズを純粋に音だけで楽しむことができるのは今の若い人達だけじゃないですかね。

昨年秋の某フェスにて、隣のテントの二十歳前後の集団。ホワイトアルバムをかけながら「す、凄い〜」「溶ける〜」・・・素面じゃないな。

昨年暮れの某ライブ会場にて、20代前半の男3人組の会話。「ホワイトアルバムすげえ」「うんやばい」「ビートルズはやばいよ」「まじやべえ」「俺お母さんに借りた」・・・なんか羨ましいです。

リマスターをこうゆう人達が買っているのですね。素晴らしい!

◆young_bさん
そうですね。ビートルズに関しては、僕らの世代だとどうしても前知識が入っちゃってますから、真っ白な状態で接することは難しいかもしれませんね。
僕が幸運だったと今でも思ってるのは、ビートルズの音をはじめてまとめて聴いたのが、ロックに興味を持ち始めの時だったことです。小学校6年生の時、土居まさるがDJをやってた深夜放送で当時新譜だったハリウッド・ボウルのライブ盤がかかったんですよね。当時流行ってたBCRとかバリー・マニロウなんかと同じタイミング。ガツン!ときましたよ~。
今の若者たちは、リマスターでさらにカッコいい音を先入観なしで耳にするわけですから、そりゃあびっくりするでしょう(笑)。こうして音楽は時空を越えていくんですね。素敵なことだと思います。

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