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2010年4月 2日 (金)

見られなかったボブ・ディラン

Bob_2 今年の春はボブ・ディランが9年ぶりの来日公演を行った。ライブに行った人の話を聞くと、みんな一様に“よかった!”って言うんだよね。僕は29日月曜日のチケットを買ってあったのだが、年度末の業務多忙で行けずじまい。ああ~1万2千円が紙切れに…(苦笑)。いやいや、そんなことはどうでもいいのだ。残念なのはライブハウスで演奏するディランを日本で見る機会は、もう二度と訪れないだろうということ。もしかしたら、来日公演自体これが最後になってしまうかもしれない。
うーん、書いててまた悔しくなってきたなあ…。責任ある仕事をしてるから、ってことで納得してはいるんだけど、本当は人生にはもっと大事なものがあるんじゃないだろうか?そこには今のディランの生き様を見ることも含まれるんじゃないだろうか。大げさじゃなくてほんとにそう思ったりもするのだ。

そう言えば、この人の最新アルバム(と言っても、去年の今頃出たやつだけど)のタイトルは「Together Through Life」という。このタイトルに達観したタッチを感じるのは僕だけ?
最近のディランは肩の力が抜けていて、本当にやりたいことをやっているように見える。80年代の一時期のように、自分と時代とをなんとか併せようと四苦八苦することはとっくに止め、自分を偶像視する大衆の目も気にせず、ただミュージシャンとして気の赴くままに、好きな音楽をやっているだけ。要するに、ディランがディランとして完全に覚醒しちゃったわけ。そうなれば誰もこの人にかなうわけがない。素晴らしいと思うよ、今のディランは。

最近のディランのアルバムにおける最大の特徴は、僕が思うに音の感触だと思う。それはもう、R&Rをやろうがブルースをやろうが、今回のようにテックス・メックス風味を加えようが、終始一貫している。R&Rが生まれた50年代すら遡ってしまい、まるで20年代・30年代の古いジャズのレコードのようなサウンド。アメリカの古きよき時代に流れていた大時代的なサウンドを、あえて21世紀にやっている。その音にのって、ディランが例のゲロゲロ声で気持ち良さそうに歌うのだ。自信たっぷりに…。

このアルバム、1曲目の「Beyond Here Lies Nothin'」からいきなりカッコいい。ウッドベース、アコーディオン、トランペットで大時代的な音が展開する。時代も流行も関係なし。堂々のルーツ・ミュージック。
そして2曲目の「Life Is Hard」で僕の気持ちは鷲づかみされてしまう。ロックンロールはもとより、スウィングさえ生まれる前の古いジャズ・バラードみたいな曲調にのって、ディランは“人生は辛い”と歌うのだ。こんなことをこんな風にさらりと歌える人が、今の時代何人いるんだろう?ディランのヴォーカルは、まるで誰かに語りかけるような感じ。ブルージーで、ほろ苦くて、温かくて、ロマンチック。うーん、ディランがこんなに“歌える”ボーカリストだったとはなあ…。
オレにとって、最近のディランのアルバムを聴く時は、ロックのアルバムを聴く時より、ブルースの名盤を聴く時に近いようなフィーリングを覚える。

間違いなく言えることは、これは“一回りしてきた人”だからこそ作れる音楽であるということ。ブルースを聴いてきて、フォークをやってきて、ロック化して、世界中を巡った末に得た結論が古きよき時代のアメリカに回帰することだった。なーんて言ってしまうと、わかり易すぎるくらいわかり易い結論になっちゃう。でも、ハードな人生を潜り抜けてこなければ、こんなに達観したところから音は鳴らせないと思うんだよ。

きっとボブ・ディラン、ZEPP TOKYOを埋めた満員の観客の前で、例のすっとぼけた顔で時代も何も関係ないあのオールドなサウンドを鳴らしたんだろう。
うーん、いいなあ…。やっぱし、見たかったなあ…。でも、負け惜しみじゃないけど、この先が見えない不安な時代、21世紀の桜の季節に亜米利加音楽の伝道師がふらりと極東の国にやってきてくれた。それだけでも僕は十分に励まされるのである。ハードな時代だけど、なんとか頑張り続ければ、いつかまたディランに会える時が来るかもしれない。あ、だから“Together Through Life”なのか…。うーん、またヤラれちゃったなあ、ディランに…。

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コメント

何度もお邪魔します。
ディランの東京公演、前日通いました。

>みんな一様に“よかった!”って言う
ほんとうに、それ以外の感想はないのではないでしょうか。

圧倒的なバンドの演奏とディランの歌い回しは、過去私の見た洋楽コンサートの中で最強のものでした。この年齢のディランからそれを聞かされるとは思ってもいませんでした。

ライブ全体が最新アルバムである「Together Through Life」の音の感触で、過去の楽曲もそんな音色と独特のボーカルスタイルで形作られていたようでした。

Dylanの日本公演、かなり無理して連日通いました
幸いZepp Tokyoから遠くはない距離にオフィスがあるので朝早く出勤し、夕方抜けて、また夜戻るというシフト(?)で何とか凌げました
「一回りしてきたから出せる音」という表現にまったく同感です
かけらも’懐メロ感’は無かったですよ!
今、まったく新しい感覚で再び「ブロンド・オン・ブロンド」を聴いています

◆パイン・ヤングさん
>圧倒的なバンドの演奏とディランの歌い回しは、過去私の見た洋楽コンサートの中で最強のものでした。

うおっ!そんなに良かったんですか!行かなかったことがますます悔やまれます。過去の楽曲も今のディランが傾倒しているサウンドで鳴らしたってのがスゴイですよね。

◆colさん
今回のDylan日本公演、熱心ファンは全部通ったって人がけっこういうらっしゃるみたいですね。僕も前回の来日の時は3回行きましたし、実際Dylanは毎回がらっとセットリストを変えるんで、その気持ちはよくわかります。

>今、まったく新しい感覚で再び「ブロンド・オン・ブロンド」を聴いています

なんか、今回のディランを観た人の話を聞いてると、ライブを観た人はその前と後とで、それまでのディランに対する聴き方から、確実に何かが変わったような印象を受けます。ライブを観てない僕にはそれがわからない…。うーん、悔しい!これは今月末あたり、音源を求めて久々に西新宿あたりを徘徊しそうな感じです(苦笑)。

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