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2010年4月14日 (水)

キャロル・キング,ジェイムス・テイラー TROUBADOUR REUNION TOUR / 2010年4月14日(水)日本武道館

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2年ぶりに来日が実現したキャロル・キング。今回はなんと盟友ジェイムス・テイラーと一緒に日本にやって来るという。もともと名曲「You've Got a Friend」は、キャロルがジェイムスのために書いた曲だ。その後もアメリカではたびたび一緒にライブをやってきたらしいが、まさかこの組み合わせが日本で見られるとは…。
これだけでも涙モノなのに、バックを務めるミュージシャンが発表されると、僕は驚きを通りこして狂喜乱舞してしまった(笑)。なんとダニー・コーチマーとラス・カンケル、それにリーランド・スカラーが同行するというのだ!この3人はアメリカ西海岸サウンドを語る時、絶対に欠かすことのできない重要人物。もともと腕利きのスタジオ・ミュージシャンとして有名だった彼らは、70年代にセクションというセッションバンドもやっており、ウエストコースト系ロックの名盤に数々の名演を残している。日本のミュージシャンの間でも彼らの人気は高く、リーランド・スカラーなんか、ユーミンや五輪真弓のアルバムに何枚も参加していたはずだ。
キャロル&ジェイムスの共演も楽しみだが、このアメリカを代表する腕利きミュージシャンによるサウンドが直に聴けるのは、僕にとって夢のような出来事だった。このライブは、僕がこれまで聴いてきたアメリカ経由のロックやポップスの一つの節目のようなものになるかもしれない。そんな予感すらあった。

気合入りまくりの僕は、ライブ当日は朝からそわそわして仕事が手に付かなかった。結局、職場を早退し(苦笑)、開場と同時に武道館入り。僕の席はステージに向かって少し左寄り。思ったよりはだいぶ後ろだったけど、アリーナ席なんだから贅沢は言うまい。
それよりも、席が通路に近くて注意して観察してるといろんな人が発見できて面白かった。すぐ近くに萩原健太さん・能地祐子さんご夫妻が座ったのを発見したり、この前ライブを観たばかりの和久井光司さんが通っていったり。びっくりしたのは、開演10分前ぐらいに、いかにも業界人っぽい人たちに囲まれて足早に歩いてきた小柄な男性の顔をちらっと見た時。なんと、あの小田和正さん!小田さん、カーキのフライトジャケットをさらりと着こなし、若々しかったです。

開演予定時刻の19:00を10分ほど回り、舞台袖からジェイムスとキャロルが笑顔でステージに現れた。仲良く腕を組む2人に会場から温かい拍手と歓声が送られる。
コンサートはジェイムスの曲「Blossom」から始まった。最初はこの2人にベースのリーランド・スカラーを加えたシンプルな演奏。ジェイムスの温かい歌声が武道館いっぱいに響き渡った。その声の若々しさにまずは驚かされる。昨年・一昨年とライブを観ていたから、キャロル・キングの声が若い時とほとんど変わっていないことはわかっていた。だけど、ジェイムス・テイラーの歌声も昔と全く変わっていなかったのだ!髪は薄くなり、身のこなしにはさすがに老いも感じられたけど、声は本当にあのスィート・ベイビー・ジェイムズのまま。これが本当に64歳の声なのだろうか?独特の柔らかく伸びのあるボーカルは、まるで青葉の季節のこぬか雨のように、静かに優しく聴き手の胸に沁み込んでくるのだ。素晴らしかった。圧倒的な説得力を感じた。

2曲目はキャロル・キングの「So Far Away」。この日の観客は、もうイントロだけで何の曲かみんな知ってる。彼女が1フレーズ弾いただけで大拍手が沸き起こった。キャロルのコンディションは一昨年以上に好調。高音部で声を張る時の艶やかさなんか、むしろ歳を経た今の方が素敵なんじゃないかと思えるぐらい力強かった。ジェイムスの声がシルクの感触なら、キャロルの声はウールの肌触り。花冷えの日本を身体の芯から温めてくれるようだった。

3曲目の「Machine Gun Kelly」から、バンドのメンバーが登場。うわ~、ラス・カンケルがドラムキットに座った!ダニー・コーチマー、カッコいい!夢のような光景に目頭が熱くなってくる。音楽を聴き続けていると、時として音楽を聴き続けている自分をいとおしく思ってしまう瞬間があるものだけれど、あの光景が正にそうだった。
演奏が始まると、またまた大感激…。ラス・カンケル、うま~い!そこに絡むスカラーのベースの渋いこと…。鉄壁のリズムセクションの上を、ダニー・コーチマーのテレキャスターが絶妙のタイミングで挟み込まれる。歌を邪魔せず、プレイヤー各々が曲全体のバランス・色合いに隅々まで気を配った極上のアンサンブルだった。バックコーラスもめちゃめちゃ上手。うーん、燻し銀とはこういうことを言うのだろうなあ…。この夜、武道館で紐解かれた音楽は、正にアメリカの産んだポピュラー音楽の真髄を極めたものだったと思う。
素晴らしいオーケストレーション。晴れた日の田舎の小道を散歩するような気持ちのいいリズム感、それが2人の極上のボーカルと織りを成して絶妙のスウィングを生み出している。何よりも、この日ステージの上にいた10人のミュージシャンには、まったく気負いがなかった。ただ当たり前のように音楽を奏でているだけなのに、極上の音楽がそこにはあった。
会場からも、いつしか自然と手拍子が出る。知ってる曲が出てくるとそっと歌を口ずさむ。この夜の日本武道館は、限りなくフリーでハートウォームな空間になった。1万人の観衆が音楽を、歌を、彼らの人生を心から慈しんでいた。曲が披露されるたびに、ため息が漏れ、空気が揺れ、観客の気持ちの揺れが空気を動かし、温もりが一つになっていくのだ。そんな場に自分が居られた事がとても幸せに感じられた。

キャロル・キングが「Way Over Yonder」を歌いだした時、不覚にも僕は嗚咽してしまった。この曲は僕が過去に観たキャロルのライブでは歌われなかったはず。見果てぬ希望の地をずっと追い求めるようなその歌の歌詞に、僕は自身のこれまでを自然と重ね合わせてしまったんだろう。当のキャロル自身でさえ、この歌を歌った後にも様々なアクシデントに出会っている。でも、とにもかくにもここでこうして、21世紀の日本という土地でピアノを弾いてこの歌を歌っている。そして、同じ空間でそれを受け止めている僕がいる…。これだけで、もう奇跡じゃないか。ここでこうして、音楽を聴けていることを、なんだか音楽の神様に感謝したいような気持ちになった。
感傷的な気持ちは、続けて演奏された「Smackwater Jack」で笑顔に変わる。この曲ではキャロル・キングもギターを手にするから、ステージはジェイムスとダニー・クーチと合わせて3人のギタリストが立つことになる。前々回だったか、キャロルはこの曲になると「まるでイーグルスみたいでしょ?」と言って、僕らを笑わせてくれたものだけど、この日の組み合わせはイーグルスにも負けないような名プレイヤーばかりだ。間奏ではジェイムスとダニー・クーチとの間で、微笑ましいソロの交換なんかもあった。

オレ、実はキャロル・キングはともかくとして、ジェイムス・テイラーはほんとに代表的な曲しか知らなかったんだ。だけど、この日のライブで一発で惹き付けられちゃったなあ…。何よりも参ったのは、シャイで誠実なそのたたずまい。シンガー・ソング・ライターの先駆けとして押しも押されもしない偉大なミュージシャンだというのに、ステージのJTからはそんな尊大なそぶりは微塵も感じられない。はにかむように、じっくりと一曲一曲を歌いあがる姿に、僕は真のミュージシャンシップを感じた。
それと、ギターもすごく上手いのね、この人。まるで枯葉が風に吹かれてかさこそと音を立てる時のような繊細な音色。そのプレイスタイルは、シンガーとしてのジェイムス・テイラーのイメージそのものでもあった。

1部はキャロルの「A Natural Woman」で終了。サビはもちろん客席も口ずさんで。ここまでちょうど1時間。なんかあっという間だった。

20分の休憩を挟んで2部開始。2部の前半はジェイムスの曲が多かった。バンドスタイルでの演奏は、キャロルがピアニスト兼コーラスだ。「Mexico」みたいな曲では、アンドレア・ゾーンのバイオリンもいい味を出してたなあ。
2部前半で印象に残ったのは「Crying In The Rain」。これ、たしかエヴァリー・ブラザーズの曲でしょ。オレ、恥ずかしながらキャロル・キングの書いた曲だとは知りませんでした。MCによれば、JTが後にアート・ガーファンクルとカバーしたらしい。「今日は僕がアートだと思って…」とか言って、客席を和ませ、キャロルがジェイムスの傍に寄り添うようにして歌われたんだけど、これがもう羨ましくぐらいいい雰囲気で…。こういうのを観ていると、歳をとるのも悪くないなあ~なんて思ってみたりして(笑)。

曲間では、キャロルもジェイムスも片言の日本語も使いながら一生懸命客席に語りかける。客席からの「I Love Carol!」っていう声に、ジェイムスが「Me Too…」って応えてみたり、思わず日本語で歓喜してしまった客席に、「スイマセン、ワカリマセ~ン」って言ってみたり。うーん、なんてチャーミングな人なんだろう(笑)。

後半は名曲のオンパレードだった。「Sweet Baby James」に「Jazzman」、それからそれから…。「とっても古い曲です…」っていう紹介で歌われた「Will You Love Me Tomorrow」は感動的だったし、「Steamroller Blues」のスワンプなバンドサウンドに胸を躍らせ、「It's Too Late」や「Fire And Rain」を噛み締めるようにして聴いて、「I Feel The Earth Move」を一緒に歌う。
そして、前曲と殆ど曲間をあけずに演奏された「You've Got A Friend」。前回も前々回も、キャロルのライブでこの曲を聴いた時は涙したのに、今回はとても温かい気持ちになったのには、自分でもちょっと驚いた。語弊のある言い方かもしれないけれど、なんかとても力強いタッチを感じたんですね、今回は。JTが入ったバンドサウンドになったことで。明日への希望の色が新たに加わったっていう感じかな。この日初めてライブでこれを聴いた人は、泣いた人も多かったと思うけど、以前キャロルのライブを観た人は、明らかにちょっと違ったニュアンスを感じたと思う。
曲が終わると、客席は弾かれたように立ち上がってのスタンディング・オベーション。感動的でした!

アンコールは「Up On The Roof」から始まって、JTの「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」で客席とのコール&レスポンス。盛り上がったキャロルは「もう一曲!」とバンドにアピールして、客席と一緒になっての「Locomotion」で大盛り上がりの大円団。JTが自分流のあの歌い方でこっぱすかしそうに歌っていたのが印象的だった(笑)。

あっという間の、そして夢のような2時間。間違いなく、これまで自分が観てきた数限りないライブの中でも、5本の指に入るような素晴らしいコンサートだった。
もしかしたらこの日のライブの素晴らしさは、素晴らしい音楽を聞かせてくれたことと同時に、主役の2人が芳醇な人生の味わいをも感じさせてくれたからかもしれない。いくつもの狂乱と喧騒の時代を乗り越えながら、キャロル・キングとジャイムス・テイラーは、「You've Got A Friend」の歌詞そのままに変わらぬ友情を保ち続けてきた。2人の柔らかなたたずまいは、音楽という宝物を常に傍に置きながら誠実に人生を重ねてきた人だからこそ持ち得たものなのではないかと思うのだ。これは決して70年代の再現なんかじゃない。美しい暮らしとはどんなものなのかを、2人のシンガーは身を持って僕らに教えてくれたんだと思う。

この日、日本武道館を埋めた少しばかり年齢層の高い観客は、2人のシンガーが歌った一曲一曲に、これまでの自分の人生を重ね合わせて胸を熱くしていたに違いない。月並みなことを言うようだけど、音楽と一緒に歳を重ねていくことがどんなに素晴らしいものであるのかを、この夜ほど感じさせてくれるライブはなかった。僕はこの夜の2人を、これからも折に触れて思い出すことになるだろう。

一生忘れることのできない、素晴らしいライブがまたひとつ僕の人生に加わった。

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コメント

こんばんわ。
13日のJeff BECK, 14日のCarol&JTってまったく私と同じ日に行ってらしたんですね。連日、こんな大物が見られるなんて円高も悪くないですね(w)。私は2階席のてっぺんでしたけど、あの2人の暖かさは十分伝わってきました。来月、CD+DVDで発売されるTroubadour Reunionがまた楽しみです。

◆MY R&Bさん
おお、フォーラムと武道館、全く同じ空気を吸ってましたか~!今年の春は外タレの来日ラッシュでしたね。僕の場合、ほんとはこれに加えて3月のジャクソン・ブラウン&シェリル・クロウ、それにボブ・ディランも観たかったんですが、業務多忙&金欠で断念しました(泣)。

Troubadour ReunionのCD+DVDは本当に楽しみです。ここは是非、日本盤を買いませんか?日本盤の売れ行きが良いと、また来日公演が実現するかもしれませんよ。

こんばんは~!
初めまして!
懐かしさだけで、同じ日に行きました。
おさらいをして行かなかったので、
とり残された感があります!
席はA1の前の方でした。
布袋がライトダウンしてから
出入りしていました。

◆トマコさん
あ、僕もおさらいしませんでした。でも、キャロル・キングは今でも頻繁に聴いてるから、それでも全然OKでしたよ。JTは最近は全く聞いてなくて知らない曲もあったんですけど、ライブで素晴らしさを再認識。アルバム、買い直しちゃいました。
それどころか、あのライブに触発されて、70年代のシンガー・ソング・ライターやウエストコースト・ロック熱が再びぶり返しちゃってもう大変(笑)。今のヘビロテはジャクソン・ブラウンの「孤独なランナー」。あれってバックがセクションの3人+デビッド・リンドレーなんですよね。なんてすごい人たちが集まってたんだ、ってくらくらしてしまいます(笑)。

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