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2010年5月19日 (水)

【本】「IQ84」Book3 / 村上春樹(著)

9784103534259 遂に出てしまったBook3。いやあ~これが出たのはまったく予想外だった。だって、この小説のテーマや世界観はBook2までで既に出尽くしてるじゃん。続編があるとすれば、広がるだけ広がった物語をどう収束させるかという点だけになるはず。そこまで読者の面倒をみなくてもいいと思ったんだよ、オレは。実際、15年前の村上春樹だったら、そこまでオチのついた小説は書かなかっただろう。

だが、読み終わった今、これはこれでアリかなあと思えるようになった。
予想どおり、Book3では新しいテーマや命題は出てこなかった。だけど、それがかえってストーリーの流れを明確にし、村上春樹のストーリーテラーとしての持ち味を際立つことになったと思う。背後に横たわる重いテーマ以前に、ロードムービー的な面白さでぐいぐい読者を惹き付けてしまう。
ほんと、これほど時間を忘れて小説の頁をめくったのは久しぶりだ。ティーンエイジャーの頃、寝る間も惜しんで読み込んだ長編小説の醍醐味を思い出した。

村上春樹は、この小説に関する数少ないインタビューの中で、「Book2を書き終わった時点でもなんだか気持ちが落ち着かなかった。作品が続きを書くことを求めている」といった旨の発言をしている。これはすなわち、彼が創造したものが作者の意思をも超えるほど大きくなったということなんだろう。
だが、それに対して作者自身が落とし前をつけるかどうかは、また別の話だ。そこには、ある種の責任が伴う。それをあえて行ったところに、オレは作者自身の深化をも感じるのだ。

この小説のテーマはとても複眼的。カルト宗教、9.11、学生運動の行方、原理主義、戦後日本の歩み、父と子の関係…。ここには、90年代以降の村上春樹がコミットしてきたさまざまなテーマがすべて内包されていると思う。
その中でも、一番のベースになっているのはやはりオウム真理教の一件なのではないか。犯罪者的な要素をなんら持たないごく普通の人間が、流れのままに重い罪を犯してしまった…。村上は、林泰男死刑囚を渡ってはいけない橋を渡ってしまった理想主義者と捉えたのだと思う。何がしかの強い外的要因に触発されれば、誰もが“あちら側”に行ってしまう事が有り得る。そんな危うい世界に僕らは生きているのだと、90年代以降、この作家は繰り返し説いてきた。

この混沌とした時代を生き抜くために、人は誰もが精神的な支えを必要としている。それは宗教だけではなく、何がしかの力を持った誰かの大きな声であったり、大衆の見えざる手であったり、仮想空間で装った自分のダミーだったり、さまざまだ。村上春樹がかつて創造した“やみくろ”は、カタチを変えてこの世界に生き延びている。
作家は、それに抗えるほどの力を持った小説を産もうとしたのだ。その悲壮な決意だけで、オレはもう泣きそうになってしまう。

この長い物語の中で、村上春樹は、人は誰もが孤独から再生できることを証明した。時間は、またそれに付随する世界は、直線的に進むものでも螺旋形に昇っていくものでもない。それぞれの視点でどうにでもなるのだ。そんな概念を、これほどリアルに描き切った小説が他にあっただろうか。そして、そこで主人公が巨大な力に対抗した最終兵器、それれがなんと“純愛”だなんて!泣くぜ、ほんと。こんなセツない小説があるだろうか…。

Book3でも解明されなかった幾つかの謎や矛盾がある。それはまたBook4で…って思ってる人もいるみたいだけど、うーん、それはないんじゃないか…。
オレが思うに、すべては解決されていると思うのだ。いや、解決というより、主人公たちの決断は既に下されていると言ったほうがいいか。Book4があるとするなら、その決断がどうカタチになっていくかを描くのだろうけど、そこまではいいよ、オレは。もうこれで十分。

ただ、ひとつ。
牛河氏がこうなってしまったのだけは悲しい。これはセツナすぎるぜ…。
もし、Book4が出て、彼のアナザーストーリーが始まるのなら嬉しいんだけどな…。

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