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2010年5月 3日 (月)

Springfields '10 ~東京場所~ / 2010年5月3日(月)東京・日比谷野外大音楽堂

Springfields '10 ~東京場所~
2010年5月3日(月)東京・日比谷野外大音楽堂
<出演者> 細野晴臣/大貫妙子/星野源/キセル/原田知世

いやスゴかった…。何がスゴかったって、この日初めて観た大貫妙子さんのステージ。このイベント、僕のお目当ては細野晴臣バンドだったんだけど、その前に出てきた大貫さんのステージには、ただただ呆然としてしまった。とにかく歌は上手いし演奏も完璧。この日は5組の出演者があり、大貫さんはセミファイナルだったんだけど、その存在感たるや、それまでの前の3組の印象がすっかり霞んでしまうほどだった。

午後の3時半から始まったこのイベント、大貫妙子が登場したのは、日が傾きかけた6時15分ごろ。
黒に水玉の入ったシックなワンピースで現れた大貫さん、すたすたと中央のマイクに進むと、バックバンドがすかさず演奏を始める。あ、このイントロ…。「色彩都市」だ!オレ、大貫妙子ってそれほど熱心に聴き込んだわけじゃないんだけど、80年代YMOに夢中になっていた頃に、坂本龍一がアルバムを何枚かプロデュースして、彼がDJをやっていたサウンドストリートで、大貫妙子の曲がよくかかっていたのを憶えている。「色彩都市」も、たぶんそこで聴いたんだと思うんだ。
大貫妙子さんの歌声は、25年前と全く変わっていなかった。その澄んだ声の素晴らしいことといったら!凛とした声が、暮れなずむ野音の隅々にまで響き渡り、詰め掛けた観客のすべてが、大貫さんの歌にじっと聴き入っていた。
日本で大貫妙子さん同時代に活躍していた女性シンガーというと、そのほとんどがアメリカ西海岸のからっとしたタッチを志向していたように思う、だけど大貫さんは、一貫してちょっと翳りのあるヨーロッパ的な世界を追求してきたボーカリストなんじゃないだろうか。これまで、僕はどちらかというとこの人に、線の細い繊細なイメージを持っていたんだけど、初めて生で聴いた歌声にはとても力強いものを感じたなあ…。
これは、ボーカリストとしての彼女の力量そのものなんだと思う。90年代以降、フレンチポップスなんかに影響され、ささやくようなウィスパー・ボイスで歌う女性アーティストが増えてきて、大貫さんもそんな人たちの元祖みたいないわれ方をしたこともあったけど、実際はそんな人たちとは一段も二段も高いところで歌ってきたんだろうと僕は思った。比較をしてしまっては気の毒なんだけど、この日の出演者だと原田知世もウィスパー・ボイス系のボーカルスタイル。だけど、その力量の差ははっきり言って大人と子供だったもんね。

加えてバックバンドの演奏の上手いこと、上手いこと!メンバー紹介を聞いて納得した。大貫妙子バンドは、森俊之(Key)・鈴木正人(B)・沼澤尚(Dr)・小倉博和(G)という、はっきり言って日本ポップス界最高のマイスター集団と言っても過言じゃない豪華さだったのだ。
blues.the-butcher-590213Leyonaのライブを通して大ファンになった沼澤さんのプレイがこの日見られるとは夢にも思わなかったんで、これは僕にとって飛び上がるほど嬉しかった。沼澤さんはblues.the-butcher-590213の時とはちょっと違い、手数を抑えてボーカルを引き立てるドラミングをしてたんだけど、それでも存在感はバリバリ。
それから、小倉博和のギターのなんと素晴らしかったことか!曲のほとんどで短いギターソロが挟みこまれるんだけど、ストラトキャスターの艶やかな音色が気絶するほど美しかった。ある曲のソロが終わった時なんか、会場中から自然発生的に拍手が起こったぐらいだったもんなあ。

僕が知ってるところだと、名曲「突然の贈りもの」やシュガーベイブ時代の「いつも通り」なんかもやってたから、かな~り美味しいセットリストだったんじゃないかと思う。
最後は細野さんの「ファム・ファタール」をカバー。実はこれ、イベントの最初に登場した原田知世もやってた。でも、大貫さんはカブったのもいとわずに、「知世ちゃんもやってましたが、別バージョンで聴くのもいいでしょう?」なんていいながら、堂々と歌い上げるんだから参っちゃうよなあ…。大貫妙子バージョンはリズムを複雑化した不思議なアレンジ。圧倒されました!この勝負、完全に大貫妙子の貫禄勝ちだ。
大貫妙子のステージは40分ぐらいだったかな。でも、むちゃくちゃ濃厚だった。ニューミュージック黎明期から活躍しているベテランの力を、まざまざと見せ付けられた気がしましたぜ。

日がとっぷりと暮れた頃、大トリの細野晴臣登場。ベージュのスーツに黒いカカウボーイ・ハットを被った細野さん。うーん、やっぱむちゃくちゃダンディでインチキ亜米利加人みたいだ(褒めてるんですよ・笑)。
この日のバックは、コシミハル(Key)、伊賀航(B)、高田漣(Pedal Steel)、伊藤大地(Dr)というメンツ。もはや細野さんのパートナーとして欠かせない存在となったコシミハルさんは、シックな濃紺のワンピースに帽子を被って登場。相変わらず年齢不詳でお美しかった。この日のミハルさんは、ほとんどキーボードの前に座っていて、時々アコーディオンを弾いたりしていた。高田漣くんはペダルスティールがメインなんだけど、時々エレキギターを持ったりバンジョーを弾いたり、八面六臂の大活躍。

1曲目は「smile」のカヴァー。細野さんもアコギを手にして、あの魅力的な低音ボイスで歌う。
2曲目からはゲストで鈴木茂が登場!オレ、実は鈴木茂のギターを生で聞くのは初めてで、これもすごく楽しみだったんだ。去年、例の事件があって以来、この人がどうしているのかとても心配だったんだけど、何もなかったようにギターを弾く姿を見てすごく安心した。もちろん、事件のことなんか一言も言わなかったけど、こういうイベントに彼を呼んだ細野さんの心意気にもリスペクトだな。だって、あんなことがあると、それまでの付き合いがなかったかのように知らんぷりしちゃう人もいるじゃん?細野さんの「“来ない?”って言ったら、“いいよー”って軽く引き受けてくれた。茂は昔からそんな人なんです」って言ってたけど、このMCからも2人の控えめな友情が伺えて、すごくいい関係だなあと思ったな。
細野さんの気配りか、この日演奏された曲のほとんどで、鈴木茂のギターソロがフィーチャーされていたのも嬉しかった。茂さんはストラトキャスターをメインに、昔と変わらない艶やかな音色を存分に披露。“ギュイーン!”っていうローエル・ジョージばりの急降下スライドも披露してくれ、元気いっぱいだった。

細野さんのセットで演奏されたのは、洋楽のカバーばかりだった。MCで自分から言ってたんだけど、最近の細野さんは自分を“北米伝統音楽の伝承者”と位置づけてるみたい。持ち時間1時間ぐらいの間、カントリーやブルース、ブギーといったアメリカのルーツ・ミュージックが次々と飛び出した。
かろうじて僕がわかったのは、バート・バカラックの「遥かなる影」や、チャック・ベリーのオリジナルでフェイセズもやってた「メンフィス,テネシー」、それに細野さんのオリジナル「ボディ・スナッチャーズ」ぐらいだな。後はまるで知らない曲ばかり。「ボディ・スナッチャーズ」にしたって、アルバム・ヴァージョンとは全然違う、カントリーロック風の味付けを施されていた。1曲だけ日本語の曲が歌われて、これは細野さん、新曲だって言ってたんだけど、そう言われなきゃわからないぐらいにルーツミュージック化していた。
恐らく、僕以外の観客でも、この日演奏された曲を全部知ってる人は、ほとんどいなかったと思うんだ。。それでも、細野さんの味のあるボーカルとバンドのタイトな演奏で会場は楽しく盛り上がっていた。何よりも、細野さん自身がすごく自然体なのが微笑ましかった。自分の子供ぐらいの若いメンバーを率いて、ひょうひょうと古い曲を口ずさむ細野さん、余裕しゃくしゃくでカッコいいんだよねえ…。

この日の観客を見てて思ったんだけど、こういうライブが成り立つのって、やっぱり音楽ファンの裾野が広がった証なんだろうなあ。20年前だったら、ヒット曲を一つも演奏しないライブなんか有り得なかったはずだ。それこそ“金返せ~!”の世界だもん(笑)。ライブはオリジナルを演奏するのが当たり前。カバーはせいぜい1,2曲余興程度にやるもの、みたいな感じだったと思うんだよ、当時は。でも、90年代以降は年代を問わず、幅広いジャンルを聴く音楽好きが増えたおかげで、今日の細野さんみたいなマニアックなセットも許容できる観客がライブの場に来るようになったんだと思う。うん、そう考えると、僕の嫌いな“渋谷系”も、今のシーンの形成には役立ったのかな…。

なんだか、セミファイナルの大貫妙子と細野晴臣のことしか書いてないんで、他の出演者こともさらっと。
僕は開演時間の3時30分にちょっと遅れちゃったんで、野音に着いた時はもうトップバッターの原田知世のステージが始まっていた。知世ちゃん、ボーダーの長いカットソーに黒のミニスカート、赤いタイツとハイヒールというむちゃくちゃキュートないでたち。細っ!顔小さっ!これでホントに42歳?さすが女優さん、いつまでも可愛い人でありました。
知世ちゃんのバックは、ヴァイオリンを加えたバンド編成。曲によっては知世ちゃんもギターを弾いていた。お!と思ったのはスペシャル・ゲストとして細野晴臣が登場して、「ファム・ファタール」を歌ったこと。細野さんはこれをライヴで演奏するのは始めてだって言ってたな。ちょっと得した気分だった。

2番手のキセルも癒し系。キーボードにエマーソン北村が入ってたおかげで、ちょっと凝った音色の曲もあって意外に楽しめた。

3番手がSAKE ROCKのリーダー、星野源。今度ソロアルバムを出すそうで、この日が大阪に続いて二回目のソロライブなんだそうだ。この人のステージで印象に残った曲は「穴を掘る」。これ、最近はリクオがライブでよく歌ってるんだけど、もともとはこの人が作った曲だったんですね。オリジナルをこの日初めて聴くことができた。

僕のGW中のライブは、今年はこれだけ。
Springfieldsってのは、去年からゴールデンウィーク中に大阪と東京で開催されることになった、いわゆる春フェスだ(今年は福岡でも開催される)。毎回細野さんがメインアクトを務めており、出演者もデイジーワールドの若手とか、矢野顕子、UA、大貫妙子など、何らかのカタチで細野さんと繋がっている人が多い。
細野さんのライブは、なかなか行く機会がないんで、これは久々に細野さんを観るチャンスだなあって思ってて、前々から狙っていたのだ。野音にもしばらくご無沙汰だったし、春の日差しの中でまったり音楽を楽しむのにはぴったりなんじゃないかと思ってね…。
実際、出演者にあんまりロックロックした人がいないせいか、観客もまったりのんびりした感じだった。年配の人や家族連れも多く、みんなビールを飲んだり、焼きそばを食べたり、あんまりガツガツせずに思い思いにライブを楽しんでいた。なんだか、フェスっていうより一昔前の野外コンサートみたいな懐かしい空気が漂っていた。ただ、あまりにもまったりし過ぎてて、僕なんかはちょっと中だるみしてしまったのも事実なんだけどね。ま、そこはビール飲んだりして自分で埋めあわせときましたが(苦笑)。

それと、細野さんのセットリストももうちょっと、こう…。ねえ…(苦笑)。もちろん、演奏は素晴らしかったんだけど、せっかく鈴木茂もいたんだから、1曲でいいからはっぴいえんどやティンパンアレイの曲をやって欲しかったと思う。たぶん、この日集まった観客は、口には出さないけど、みんなそう思ってたんじゃないかなあ…(苦笑)。
このフェス、来年も時間が合えば行きたいと思ってるんだけど、来年こそは「泰安洋行」や「HOSONO HOUSE」からの曲を1曲、1曲だけでいいからやって欲しい。
細野さん、お願いします!

細野さんのステージが終わって、最後にアンコールが。
「去年もやったけど、今年もやらないわけにはいかないです。あの人のことを忘れることはできません。追悼です。」と静かに語る細野さん。そう、HISで忌野清志郎と一緒にやった「幸せハッピー」だ。「出られる人、出てきて!」という細野さんの呼びかけに応えたのは、なんと出演者全員(笑)。メインボーカルが細野さんで、お囃子のパートを出演者全員が歌う。途中、大貫妙子さんが何度も空を見上げて歌っていたのが、なんかぐっときちゃったなあ、オレ。
前日はARABAKI ROCK FES.でCHABOや泉谷しげるが、清志郎に捧げた素晴らしいライブを行ったと聞いたが、この日の細野さんや他の出演者の清志郎への想いも、CHABOたちに負けないものがあったと思う。
きっと、この連休中に行われた各地のライブでは、日本各地で数え切れないぐらいたくさんの忌野清志郎への想いが歌われたんだろう。
あれから一年。僕らが想い続ける限り、忌野清志郎はずっとここにいる。僕はそう思っている。

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コメント

おお~
野音の、皆の気持ちが一つになった、ピースフルな空気が伝わってくるようです。
考えてみたら、私、野音に最後に行ったの、2006年の5月3日でした。
風のラプソディーというイベントで、清志郎がトリで。
とっても平和で幸せなライブでした。やっぱり暑い日だったなぁ。。

清志郎はずっといる!私もそう思います。

◆nobuさん
オレねえ、最近は野音に行くのもなんだか億劫になってたんですよ。どうしたって、ステージで躍動する清志郎を思い出しちゃうだろうと思うと、気が重くって…。でも、久々に行ってみて、やっぱここは聖地だと思いました。だって、ほんとに平和で自由な風が吹いてるんだもん。ビール片手に音楽と陽の光のシャワーを浴びるのは最高に気持ちいいって、改めて思いました。
こんな感覚を思い出させてくれた細野さんには、ほんと感謝です。野音、きっと清志郎も時々遊びに来てるんじゃないですかね…。

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