« メイン・ストリートのならず者<デラックス・エディション> / ローリング・ストーンズ | トップページ | 【2010 FIFA WORLD CUP】2010年06月15日 日本vsカメルーン »

2010年6月15日 (火)

【映画】 ACACIA-アカシア-

335130_001
辻仁成がアントニオ猪木を主演にした映画を作っているという事を知ったのは、3年ぐらい前、飛行機の機内誌で読んだ小さな記事からだった。はっきり言って、オレは辻が80年代にやっていたECHOESには何の思い入れもないし、作家や映画監督にシフトチェンジした後も、全く関心を持っていなかった。だけど、この記事はなんだか妙に記憶に残ったんだよね。辻は少し上の世代だけど、自分と同じように、かつてブラウン管の中のアントニオ猪木に夢中になった経験があるのだろうと直感的に思ったのだ。
以来、封切りされたら絶対映画館で見ようと思ってずっと待っていたんだけど、なかなか一般公開の報せが入ってこなかった。ひょっとしたら、昨年ミッキー・ローク主演で同じように年老いたレスラーの生き様を描いた映画が公開されたから、それとカブらないように、あえて時期をずらしたのかもしれないけどね。

映画は自分の予想に反し、とても静かな作品だった。
アントニオ猪木演じる「大魔神」は、かつて悪役レスラーとして活躍していたが、今は引退して老人たちが集まるのどかな団地で静かな日々を送っている。ある日、大魔神はふとしたきっかけで、タクロウという少年を預かることになった。複雑な家庭環境を持ち、実の父親に憎しみを抱いているタクロウだが、大魔神にはすぐに心を開いた。やがて本当の父と子のような毎日を送る2人のもとに、かつて大魔神と暮らしていた妻が訪ねてきた。実は大魔神と彼女の間にはタクロウと同じ年頃の子供がいたのだが、その子が死んでしまったことを気に夫婦の絆が崩れてしまっていたのだった。また、団地の老人のもとを訪れていたケースワーカーが、実はタクロウの実の父親だったことがわかったりして、静かに映画は動いていく。

猪木は実年齢よりもさらに年老いた男を演じていた。白髪交じりで腰が曲がり、老眼鏡をかけた姿には、リングの上で躍動していたプロレスラー・アントニオ猪木の姿は影も形もない。だが、見ているうちにそれもすんなりと受け入れられるようになっていった。猪木の佇まいがあまりにも自然だったからである。いじめられっ子のタクロウにプロレスの技を教えたり、無邪気に船乗りごっこをする姿からは、これまでの猪木からは感じられなかった、大らかな父性がじんわりと伝わってきた。
猪木ってこんなにいい顔してたっけなあ…?顔に刻まれた深いしわが、丸まった背中が、屈託のない笑顔が、見るものに無骨な優しさをじわりと伝えてくる。まるで、最近のキース・リチャーズみたい。
はっきり言って、演技はヘタクソだし台詞は棒読み。だけど、この映画の中のアントニオ猪木は、紛れもなく名優だったと言い切れる。

実は、「ACACIA」はこれだけの映画だ。猪木に始まって猪木で終わる。それ以外は何も無い。映画としては傑作とは言い難いと思う。なんと言っても脚本が弱い。家族の絆を描きたかったことはわかるけど、タクロウと父親との関係、大魔神と亡くなった子供との関係、大魔神と元妻との関係の3つまでテーマを広げすぎてどれも中途半端になってしまっているような感がある。

だが、演技とは思えない猪木の存在感は、そういった弱点を補って余りあるのではないか。
この映画には、猪木の実人生をも反映した部分が幾つかあるように思う。たとえば、猪木自身もかつて先妻との間の子供を亡くしているし、船乗りごっこの際に“この船はこれからブラジルに進路を取る”なんていう台詞があったのも、幼い猪木がブラジルに移民した生い立ちを反映したものと言えなくもない。レスラー時代の思い出の品物が詰まったトランクを開けると、プレートに“DOLLY FUNK JR. VS DAIMAJIN”なんて文字が見えるのも、粋な演出。だから、猪木のファンなら「大魔神」というキャラクターに、アントニオ猪木自身の姿をどうしたってダブらせてしまうのではないか。

猪木は、今後映画に出ることはまずないだろうと語っている。まあ、そうだろうな(苦笑)。でも、だからこそ、この映画は貴重だと思うのだ。だって、これはプロレスラー・アントニオ猪木が「大魔神」というキャラを借りて、父親としての、家庭人としての素顔を少しだけ見せてくれた映画なんだから…。オレは、この映画をそんな風に解釈した。
うん、そうだよ…。大魔神にアームロックを教えてもらっているタクロウ少年は、もしかしたら少年の頃のオレ自身だったのかもしれない。

|

« メイン・ストリートのならず者<デラックス・エディション> / ローリング・ストーンズ | トップページ | 【2010 FIFA WORLD CUP】2010年06月15日 日本vsカメルーン »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/111538/48628838

この記事へのトラックバック一覧です: 【映画】 ACACIA-アカシア-:

« メイン・ストリートのならず者<デラックス・エディション> / ローリング・ストーンズ | トップページ | 【2010 FIFA WORLD CUP】2010年06月15日 日本vsカメルーン »