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2010年7月 6日 (火)

【映画】告白 / 中島哲也監督作品

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この映画、興行成績が良いからとか、松たか子・木村佳乃の豪華二大女優が共演とかの謳い文句に釣られて軽い気持ちで観に行くと、きっと痛い目に会う。少なくとも、普段悦楽感のみを求めて映画館に足を運んでいるような人は絶対観ない方がいい。映画はひたすら陰鬱で重苦しい。見終わった後も、心に重くて苦い残留物が溜まり、それがいつまで経っても抜けていかないのを感じることになるだろう。
にもかかわらず、自分はスクリーンから一瞬たりとも目を離すことができなかった。映画の中で展開される異常な世界に凍り付いてしまった。

この作品は、2009年に本屋大賞に輝いた湊かなえのベストセラー小説が原作である。CMスポットで教師に扮する松たか子が独白しているように、教え子に愛娘を殺された中学校教師の復讐を描いたミステリーだ。監督は『嫌われ松子の一生』の中島哲也。彼は町の書店で偶然見つけた原作本に強い衝撃を受け、これは絶対に自分の手で映像化しなければならないという決意を持って制作にあたったという。

僕は、映画・音楽・小説等すべての表現分野において、今の時代に生きる中学生たちの荒涼たる世界をこれほどまでにリアルに描き切った作品を他に知らない。
この映画を観て、僕は中学生の男の子の父親である自分を省みないわけにはいかなかった。新聞やテレビで中学生が関わる陰惨な事件を目にするたび、僕らはその異常性に背筋を凍らせ、ワイドショーのコメンテーターが神妙な顔つきで語るコメントに無理やり納得してきた。だけど、この作品はそんな味も素っ気もない報道の何倍ものリアルさで、現代の少年少女が抱く孤独で命の軽い世界を描き切ってしまっている。そして、教育者として、親として、彼らの世界に関わっていくことが如何に困難であるかも盛り込んでしまっている。
愛娘を殺められたからといって、教え子に報復を企てる女教師は確かに異常かもしれない。でも、自分が彼女の立場だったらやっぱりこうするかもしれない。白状しよう。僕は彼女の静かな復讐がゆっくりと効果を表す様に、途中から喝采を送ってさえいた。この映画は、そんな自分の中の暗部さえも気付かせてしまうのだ。
明確な問題提起が有る訳ではない。これはただのサスペンスなのだから。だが、この作品を見た者は、少年法の抱える問題や現代の家族の在り方、学校教育の矛盾などに悶々と思いを巡らせないわけにはいかなくなるだろう。

Koku_3  映画を観た後のあまりのショックの大きさに、僕は湊かなえさんの書いた原作本を買った。最近はこういうこと自体珍しいのだけれど、それほどまでに映画から受けた衝撃が大きかったってことだ。
原作は映画以上に深く重く胸に堕ちてきた。この人はいったいどんな出自の作家なのだろう…。今の中学生たちのコミュニケーションの希薄さや教育現場の無力ぶりを描く筆の現実味は、まるで作者自身がその場を経験しているかのようだ。

原作を読んで、ひとつ大事なことに気が付いた。この物語は復讐ではないのかもしれない。彼女のやったことは、子供を殺され、崩壊した教育現場において、自らが中学生の棲むダークな世界に身を置いて命の尊さを諭した“あちら側の人間”への諭しだったのではないかと…。なんだか、そんな気もするんだよな、オレは。

原作を読むと、中島監督はただ原作をなぞって映像化したわけではなく、相当の熱意で取り組んだことがうかがえる。テーマを浮き上がらせるために、細部を少し作り変えてあったりもしたのだけれど、何といってもスゴイと思ったのは、その映像。陰影の濃いダークな画作りや、スローモーション、ブレたアップ画像などは彼らの生きる荒涼たる世界を際立たせ、音楽も、レディオヘッドのつぶやくような歌声や、ハリボテのようなAKB48の歌声が少年たちの孤独をいっそう駆り立てていた。
文庫本には中島監督のインタビューまで載っているのだが、これは映画を観た人には必読。監督は、この作品が相当深く読み込んでいることがうかがえる。監督は、登場人物それぞれの告白は、必ずしも真実とは言えず、誰かが嘘をついているとまで言っていたのだ。そんなことは僕には思いもよらなかっただけに、驚いてしまった。
登場する中学生の俳優たちにも原作を読ませ、彼らの意見も聴きながら制作を進めていったという中島監督。これは、今の若い世代の心象風景を見事に映像化したまれに見る怪作だ。まあ、こんな作品が興行成績トップになっている2010年7月の日本の現状ってのにも、なんか薄ら寒いものを感じるんだけど…。

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コメント

映画館での予告やらの前情報で気にはなってたんですが
“よくなかった”とかの感想も目にしてたんで
まだ観てません、コレ。
この記事読んでたらやっぱり観たくなりました。

投稿: LA MOSCA | 2010年7月 7日 (水) 21時51分

◆LA MOSCAさん
記事の中にも書いたように、これは決して楽しい映画ではないし、登場人物の誰にも感情移入できない人がいてもおかしくないと思います。でも、ハマる人は絶対ハマる映画じゃないかなあ?
特に、中学生ぐらいの子供がいる人はなおさらね。これは映画の中の話だけど、彼らはこういう世界に身を置いているっていう事実に愕然とします。

投稿: Y.HAGA | 2010年7月 8日 (木) 10時23分

遅ればせながら 漸く観てきました

スポットCMなどでは 何だか面白そうな煽り
で...

HAGAさんのとおり ひたすら
スクリーンに釘付け

観終わって
正直 複雑
何が 正義か悪か 一体全体

秀逸な映画だと思いました

投稿: さみしげなパイロット | 2010年7月20日 (火) 01時22分

◆さみしげなパイロットさん
僕も観終わって複雑な気分になりました。建前だけの正義に真正面から切っ先を突きつけたような映画ですね、これは。
映画に感じるところがあったなら、ぜひ原作も読んでみてください。余韻が一層深いものになると思います。

投稿: Y.HAGA | 2010年7月20日 (火) 11時13分

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