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2010年10月11日 (月)

仲井戸“CHABO”麗市 with 早川岳晴 Tour 2010 GO!! in SHIBUYA-AX / 2010年10月09日(土)

Photo 今回の「GO!!60」ツアーは、これまでCHABOが行ってきた全国ツアーのどれとも違うタッチがあったと僕は思う。それは、一言で言うと届けるものの重さの違いだったのではないだろうか。CHABOは全国各地に音楽だけを届けたのではなかった。少年の頃、ビートルズやブルースで音楽と出会ってから、それらを片時も離さずに生きてきた自分という人間のありのままの今の姿と、これから歩いてゆく道標をも人々の心に残そうと、そう思っていたように僕には思えてならないのだ。

この日はその60回の公演の千秋楽だったのだが、セットリストは他の59箇所とほとんど同じだった。これも当然といえば当然だったんだと今にして思う。
“Born in 新宿”で自分の立ち位置を確認し、“ホーボーへ”でロック世代の立ち位置を肯定し、ポエトリーリーディングや観客とのコール&レスポンスを挟み、親友が去ったことについて言及し、“My R&R”で戦後生まれのロック世代すべてを包み込む壮大な決意表明をしていくというライブの構成。これは最初からこのツアーでのステージをこういうものにしようというCHABOの強い意志に基づいて緻密に構成されていたのだと思う。
言い方を変えれば、このツアーで演奏された曲こそが、60を迎えたCHABOの世界観そのものなのだ。そんな濃い夜を、今年CHABOは60回も各地のファンの前で繰り広げたのである。

この日のAXで、千秋楽らしい演出は最初だけ。ツアーでまわった全国59ヶ所のスナップがスライドで上映されたのだ。雪の北海道から春のMANDALA、ついこの前の東北など、こうして見るだけでも60という回数の重さがよく判る。

ただ、選曲こそほとんど同じだったが、ライブの時間は軽く4時間を超えた。それは、ライブを重ねることでCHABOと早川さんの演奏がこなれ、インプロビゼーション部分が長くなったこともあるが、何よりMCが長くなったことが大きい。もともとCHABOはライブでMCをよく挟む方だと思うのだが、今回のツアーはいつも以上にMCが多かった。それはそれだけ今回のツアーで直接伝えたいことが多かったからなのではないかと思う。

特に、清志郎と作った曲をやろうかやるまいか葛藤する気持ちを率直に語る時、僕は毎回胸が締め付けられそうな気持ちになった。でも、僕がどんな気持ちを持とうと、それは所詮一RCファン、一清志郎ファンとしての気持ちでしかないのだ。どんなに思い入れがあろうと、かけがえのない親友を失ったCHABOの気持ちとは悲しみの濃さが違っている。それはCHABOもわかり過ぎる位わかっているはず。でも、それでも清志郎の曲、RCの曲を全くやらないのもおかしいだろうとCHABOは考えたのだ。CHABOは、“あえて”「毎日がブランニューデイ」と「激しい雨」のワンフレーズ、そして「君が僕を知ってる」を毎回演奏したのだ。

「君が僕を知ってる」を紹介する時のCHABOの誇らしげなMCを僕はずっと忘れない。「清志郎はこの曲を紹介する時こう言っていたんだ。“これから演奏する曲は、日本の生んだミディアムテンポのR&Bの最高傑作です”」CHABOはずっとそう言って、このツアーで観客と一緒にこの曲を歌ってきた。それは、清志郎の作ってきた歌をずっと歌い継いでいくことを決意したかのように僕には思えた。
この日は間奏のギターソロの話も強く心に残った。この曲、オリジナルのKEYはDだったのだが、それだとあまりにも高くて歌えないから、KEYをAに下げたのだという。そうすると間奏のギターもDからAにしなければならないので、それをCHABOは4ヶ月必死で練習したのだというのだ。この日、CHABOは曲が終わった後、もう一度丁寧にその間奏を弾いた。そして、天を仰いで「清志郎、どうだ? 弾けたぞ!」と叫んだのだ…。まったくもう、なんて男なんだよ、CHABO…。
CHABOはこの曲の間奏と「雨上がりの夜空に」のイントロの二つこそが、自分のRCサクセションにおける最大の貢献だといっていた。謙虚すぎるとオレなんかは思うけどね…。

アンコール1曲目、「ティーンエイジャー」も、冒頭に書いたような気持ちでいたせいか、今日はとりわけジンときた。
Photo_2 そして、ここからがサプライズ。 CHABOが早川さんを呼び込もうとしたタイミングでHappy Birthdayが流れ、宮沢和史、浜崎貴司、寺岡呼人、吉田健、そして各地のイベンターが次々にステージに姿を現す。そして、最後に紹介されたやせっぽちの若者にひときわ大きな拍手が送られた。その若者こそ、清志郎の愛息・タッペイ君だったからだ。
蘭丸が運んできた大きなバースディケーキの上に点る60本のロウソク。それをCHABOは照れくさそうに吹き消してゆく。最後に蘭丸の音頭で会場全体で「ハッピーバースディ」の大合唱。
こんなのダサイって思うかな?20年前の僕だったら間違いなくそう思っただろう。もしかしたら、10年前の僕だって斜に構えてこの光景を見ていたかもしれない。ロックにバースディーケーキ?還暦のロッカー?なんじゃそりゃ?って…(苦笑)。
でも、今は違う。人は誰でも平等に歳をとる。それはどうしようもないことなのだ。そして、歳をとるということはやっぱり大変なことなのだと最近はつくづく思う。清志郎は還暦を迎えられなかった。ジミ・ヘンドリックスやジョン・レノンは僕の今の歳にすらなれなかった。そんな中、どうにかこうにか渋谷のこの日に辿りつき、皆でハッピーバースディが歌えている…。それだけでも人生には意味があるんじゃないのか?昔の人はそういう生き難さとか生き続けることの尊さとかをよく知っていたんだろうなあ…。還暦の意味なんて、これまであまり考えたことはなかったけれど、人生の節目をこうして盛大に祝うのは尊いことなんだと最近は思うようになった。

そしてCHABOは叫んだ。曲はシド・ビシャス・バージョンでの「MY WAY」。客席、やや引いてました(苦笑)。でも、オレは燃えたぜ!だって、これこそCHABOがこの日一番やりたかった曲なんじゃないかと思ったからね。CHABOはダックウォークまで繰り出して大ハッスル。いいぞ、CHABO!
そして「雨あがりの夜空に」。弾かれるように総立ちになる観客。R&Rだった!

「ガルシアの風」の後は、いつもどおりにスタッフの紹介なのだが、これは千秋楽らしく、このツアー全体でお世話になった人を丁寧に紹介していったから、いつも以上に長く感動的なものになった。
最後の最後に紹介されたのは、伊藤恵美社長。「エミちゃん、俺もうちょっと歌ってみるからさあ…。これからもよろしく頼むぜ~!」っていう言葉には、なんだか無性に感動したなあ…。

最後の最後、星空の演出をバックに歌われた「Hobo's Lullaby」は本当に美しかった。ライブでは中盤に歌われる「ホーボーへ」とこの曲は対になっているんだと僕は思っている。僕らすべてのロクデナシをやさしく包み込むような素晴らしいエンディング。そして、これで本当にツアーが終わってしまうんだという切なさが去来し、なんだか無性に胸がじんじんした。
「What a Wonderful World」が流れ出すと、お客さんはいつもより早いタイミングでスタンディング。それだけ訴えかけるものがあったのだろう。
ステージで、CHABOと早川さんは満面の笑顔を浮かべていた。涙もろいCHABOもこの日涙はなし。完走したマラソンランナーのように爽やかで誇らしげな笑顔だった。
ステージ後方のスクリーンには、CHABOの子供の頃の写真と、還暦の祝着を着てギターを手にしたCHABOの写真が並べて投影される。そこにビートルズの「Rock And Roll Music」と「I Wanna Hold You Hand」が続けて流された。MY R&R。これからもロックを傍らに生きていく…。そんなCHABOの決意表明ともとれるSEだった。
演奏時間4時間10分。素晴らしいライブだった。CHABOという男の生き様をとくと見せてもらった。

ミック・ジャガーは若かりし頃「45歳にもなって“サティスファクション”をまだ歌ってるぐらいなら死んだ方がマシだ」という有名な発言をした。しかし、実際のミックは、45はおろか67になった今でもサティスファクションを歌い続けている。それを“ノスタルジック”とか“老いぼれ”とせせら笑う若いロックファンもいるだろう。だが、僕はミックを笑えない。断じて笑えない。だって、今年45になった僕自身が、今なおかなりの頻度でサティスファクションを聴いているのだから…。
だけど、僕はミックを笑う若いロックファンのことだって間違っているとは思わないし、かつてのミックの発言を浅はかだとも思わない。だって、現在の若いロックファンも、若き日のミック・ジャガーや30年前の僕も、その時は45になった自分の姿なんて全く想像することができなかったのだ。

時間は誰にも平等に訪れる。気が付いたら僕は今、その「想像もつかなかった」世界に立っていた。忌野清志郎がこの世に存在せず、CHABOが還暦を迎えていて、そんなCHABOの姿を客席から見つめている45の自分がいる世界。うーん、こんな時代が来るとは夢にも思わなかったぜ…(苦笑)。
60になったCHABOのライブを見ていて、僕は切なさともおかしさとも違うなんとも言えない不思議な感覚を味わっていた。ライブを見ていてこんな気持ちになるのは生まれて初めての経験だ。
きっと、これが歳をとるということなのだろう。わずか45年しか生きていない僕だけど、そんな僕でもそれなりにヘヴィな出来事を潜り抜けてきた。それらの一つひとつが、ステージで歌われたCHABOの歌と重なり、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。

正直言って、今こうしてこの時代に生きていることが幸福なのか不幸なのか、それすらも僕にはよくわかっていない。だが、もしかしたらそれは今はわからなくてもいいことなのかもしれないとも思う。だって、ヘヴィな出来事も、それに起因する様々な感情も、歳を経てきたからこそ味わっているものであり、それ自体が初めての経験なんだから、そんなものをどう扱って良いかわからないのは当たり前ではないか。だったら細かい判断は後回し。とりあえず今をあるがままに受け入れ、とりあえず必死で今を生きていく。そうすれば生きる意味なんて後からついてくる。いつかきっとわかると確信できる。今はそんな予感だけで十分なんじゃないだろうか?
もしかしたら、ステージの上で一心不乱にギターをかき鳴らすCHABOもそんな風に考えているのかもしれない。僕はふとそう思った。昨年のあの哀しい出来事は、CHABOの心に深い悲しみの陰を落としてきたし、それは今だ癒えていないだろう。でも、CHABOは自身の音楽の軌跡を見せるのと同列に、その悲しみの色を纏うことを厭わなかったのだ。今年は例年以上に積極的にライブを行ったCHABO。フェスにもたくさん出演し、ツアーでは全国各地で歌い、叫び、ギターを弾いてきた。それはなんと誠実で美しい生き方だろう…。

還暦おめでとう、CHABOさん。こんな素晴らしいライブを60本もやってきたあなたを、僕は心から尊敬します。
そして、大怪我にも負けずにライブを続けた早川岳晴さん。あなたにもCHABOと同じぐらいのリスペクトを。このツアーは早川さんなくして成り立たなかったと僕は思います。

僕らは生きているのではない。いなくなってしまった誰かのためにも、生きなければならないのだ。ステージのCHABOを見ていて強くそう思った。
そうですよね?Dear 忌野清志郎。

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コメント

前日の Shangria-La 終演後 深夜バスに飛び乗り東京へ
どしゃ降りの中“ひどい雨”(笑)

昨年の この日は涙、涙で。辛い、辛い 戸惑いのBirthdayでした
今年も もちろん、まだまだ受け入れるコトが出来ないけど

こんな生き抜くくなった日常
でも 生きていく限り 無様でかっこ悪くても
人生は続いていくのかな。なんて My Way です

磔磔8daysから始まった GO!!60
時間とタイミングが許す限り 色んな場所に足を運びました

いまは 自分自身の中 達成感と虚脱感で...


とにかく Chaboさん THE 還暦 おめでとうございます

◆さみしげなパイロットさん
今年のAX、僕はすごく力強さを感じたんですよね。何があってもオレは歌い続けていくしかないんだ!みたいなCHABOさんの強い意志…。

>時間とタイミングが許す限り 色んな場所に足を運びました

僕は今回、あんまり地方遠征することはできなかったんですけど、もう少し足を運べばよかったと後悔しています。というのも、CHABOと早川さんの演奏は回数を重ねるに連れてどんどん進化していきましたよね?今回最初から最後までほとんどセットが動かなかったのは、そういう部分を見せたかったところもあったのかも、と思うんですよね。あるいは、それだけ進化していったから、同じセットリストでも煮詰まらなかったというか…。実際、僕が見た数少ないステージの中だって、春のMANDALAと晩夏の風と月とでは、だいぶ味わいが違っていたように感じます。
さみしげなパイロットさんのように、各地でこのツアーを見た方は、なおさらそう感じられたことでしょうね…。

Y.HAGAさん、こんばんは。
素敵なライヴ・レポートありがとうございます。
ちょっとじわっと来てしまいました。
>今をあるがままに受け入れ、とりあえず必死で今を生きていく。そうすれば生きる意味なんて後からついてくる。いつかきっとわかると確信できる。
今までを振り返ると確かにそう。だからきっとこれからもそうなんでしょうね。
CHABOの“マイ・ウェイ”シド・バージョンは聴いてみたかったですね!

はじめまして。

実は、もう何年前からでしょうか…?。
ずっとこのブログを愛読していました。

なぜか、自然と共感できるところが多く、
引き込まれるように読ませてもらっています。

もちろん、CHABOさんの記事に関しても然りです。
私がブログをしていたら、きっとこう書き記すだろうということを、
Y.HAGAさんが代弁してくれているような…そんな気持ちになります。

いつか、コメントしようと思いながら…なかなか読むだけで、
いいコメントが見つからないまま、月日がたってしまいました。

しかし、何の因果か…CHABOさんのツアー・ファイナルとなる
THE 還暦と題したバースデー・ライヴの記事にコメントすることに
決めました。

いろいろコメントしたいのですが、ありすぎて言葉が見つかりません。
でも言いたいことは、Y.HAGAさんとほぼ同じです。

僕も今年はCHABOさんのライヴ、例年になくよく観た気がしているので。いや、昨年からと言っていいでしょうか…。

清志郎さんがあんなことになって...ライヴを観る姿勢も、
自分のなかで、切実さを増している気がしています。

しかし、その度に私の中で確実なものになるのです。
“決意”というものが…。何の決意かは、公演ごとに違いますが、
観るたびに僕の中で湧き起るのです。

また、機会がありましたらコメントさせていただけたらと思います。
これからも、いい記事に出会えますように…願いを込めて・・・。

◆goldenblueさん
歳のせいかもしれないし、昨年辛い別れをたくさん経験してきたせいかも知れないけど、このところは「生きる意味」なんてことをよく考えてきました。
でも、答えなんてないんですよね、結局。とりあえず生きていくしかない。答えはそのうちぽろっと解るときが来る…。僕はそう思ってます。CHABOの歌った“マイ・ウェイ”もそんな開き直りを形にしたものだったのではないかと僕は感じました。

◆樹木さん
ありがとうございます。僕はブログをやっていて樹木さんのようなコメントをいただけた時を一番幸せに思います。

何ていうか、僕は80年代の日本のロック黎明期にモロに影響を受けてきた人間だと思うんですよね。そんな男が社会の中堅と呼ばれる歳になってどんな生き方をしていったらいいのか…。
そんな迷いや開き直りをブログで記していけたらな、なんて思ってます。

あっちに行ったり、こっちでぶつかったり、これからもそんな日常を書いていきたいと思いますので、宜しければお付き合いのほどを…。

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