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2010年11月27日 (土)

ビートルズにいちばん近い記者 星加ルミ子のミュージック・ライフ / 淡路和子(著)

1102964185 これは、雑誌「ミュージック・ライフ」の編集長として世界中を駆けまわり、日本の音楽と洋楽の発展に貢献した星加ルミ子さんの半生を描いた本。
星加さんは1965年に日本人初のビートルズとの単独会見を成功させた女性だ。当然、この本にはビートルズに関する話題がたくさん出てくるが、それ以外でも60年代・70年代のミュージシャン・インタビュー時のエピソードや、雑誌を編集する際の裏話がたくさん出てきて、1965年、ちょうど星加さんがビートルズと対面した年に生まれた、当時を知らない僕にも、とても面白く読めた。

星加さんは実に多くのミュージシャンと会っている。それも絶妙のタイミングでだ。その事実にまずは素直に驚いてしまう。だって、70年代にボブ・ディランがバイク事故で入院してた時、それを見舞いに行ったとか、メロディーメイカー誌のパーティーでジミ・ヘンドリックスと一緒だったとか、ビートルズ解散直前のアップル・ビル屋上でのライブを、実際にその下で聴いていたとか、ものすごい話が次々に出てくるんだもん…。この辺のトピックは、ロックのバイオ本によく出てくる話ではある。でも、まさかそこに日本人記者が立ち会っていたとは…。
ビートルズとの会見時、ブライアン・エプスタインへのお土産にするために本物の日本刀を玩具の刀に紛らせて飛行機の中に持ち込んだとか、日本公演中のインタビューで既にジョン・レノンが解散を匂わせる言葉をちらりと口にしていたこととか、今だからこそ書ける話もあるし、うん、やっぱ、こういう貴重な話は残しておかなければイカンですよ。

それから、僕は仕事人としての星加さんの行動力や考え方にも考えさせられるところが多かった。
星加さんがビートルズとの単独会見を成功させた時、弱冠24歳の女性が何故?と世界中が驚いたらしいが、この本を読んでむしろそれは当然じゃないかと思ったもんね。たとえば、「ミュージック・ライフ」はミュージシャンやスターに憧れるミーハー的なスタンスを保ちながらも、イギリスの大衆紙みたいなゴシップは一切載せない編集方針を変えなかったし、ミュージシャンが実際に口にした言葉であっても、載せて欲しくないと言われたことは載せなかったという。こういう公平さと誠実さが、ガードの固かったビートルズから信頼を勝ち取ったんだと僕は思うなあ。
また、タブロイド版が主流だった当時の欧米の音楽誌に対し、「ミュージック・ライフ」は当時からカラーグラビアで紙面を飾っていたことも信頼を勝ち得た理由だったのでは?と星加さんは冷静に分析しているが、それもあっぱれな話。60年代といえば、欧米からは日本なんて極東のちっぽけな島国としか見られてなかっただろう。それでも、そこで完璧な仕事をし続けていたことが、やがて大きな実を結んだのだ。

もちろん、単純に今と昔を比較することはできないと思う。星加さんのやり方には、パイオニアであるが故の自由さがあったことも事実だろう。それでも僕は、この本に書かれている星加さんの仕事ぶりには、今の社会の閉塞感をぶち破るヒントが隠されていると思うのだ。
ミーハー精神ってのはやっぱし偉大(笑)。それは時として人を行動させる原動力になるんだから。彼女がレコード会社と一緒になって洋楽ミュージシャンをブレイクさせるためのシカケを考えたりしていたのも、いい意味でのミーハー精神を仕事に落とし込めていたからだと僕は思う。
今はファンも業界人も“なんちゃってミーハー”になっちゃってんじゃないの?ファンはファンでありながら裏を見ようと必死だったり、業界人はそれを利用しようとしていたり。気持ち悪いぞ、そういうのは。
喩えは違うかもしれないが、ファンがプロデュースするアイドルなんていう構図は絶対おかしいと思うんだ、オレ。いやいや、そういうのに熱中しちゃってるファンに罪はない。そういう気持ちを利用してる大人の根性が汚いと思う。それを知ってて乗っかってるタレントの卵たちのほうがもっと汚いとも思うけどね…。

あーあ。なんでこんなに時代は歪んじゃったんだろう…。この本に出てくる、学校帰りにミュージック・ライフ編集部に押しかけていた女の子たちや、ビートルズのフィルム上映会で絶叫していた人たちは今どうしているんだろう?十代の頃の好きなものにとことん夢中になれた気持ちが、やがては世界を変える波となり得たことを、この世代の人たちは誰よりも知っているはずなんだけどなあ…。

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音楽」カテゴリの記事

コメント

ミュージックライフ立ち読みでしたが結構読んでました。写真がともかくキレイというのが印象的でした(記事の内容はそんなに印象に残ってないけど^^;)裏を読むファンの登場は「ロッキングオン」の悪影響でしょうね。ミーハーをバカにし歌や作品を純粋に楽しむよりミュージシャンのコンセプトや時代との関連性を必要以上に読取り語ろうとする。ロッキングオンのライターの文章やスタンスが似たような音楽ファンを生んだ気がします。昔はボクもそういうのをカッコいいと思ってましたが今は純粋に「カッコいい!楽しい!」ミーハーの方が健全な気がします。今星加ルミ子さんみたいなライターさんっているのかな?能地(萩原)祐子さんなんて近いスタンスを感じるけど。

◆ながわさん
僕はミュージックライフ、東郷かおる子さんの時代にはよく買ってました。やっぱしグラビアが魅力でしたねー。ただ、時代的にだんだんメタル系が多くなってくると嫌になっちゃいましたけどね…(苦笑)。
「Rockin' On」も同時並行でML以上に読んでたんですが、僕は投稿記事とかには最初から興味がなく、ミュージシャンへのインタビューとレコードレビューばっかり読んでた記憶があります。僕にとっては、当時の「Rockin' On」は、邦楽・洋楽問わず良いミュージシャンが載ってたのがよかったです。これを読んでおけば一通り尖がってる連中はチェックできるな、なんてと思ってました。

今の時代は音楽ライターという肩書きの人自体が減ってきてますよね。いても、情報をまとめて発信してるだけで個性的な目線で記事を書いてる人はほんとに少ないと思います。そんな中、ながわさんのおっしゃるとおり、能地さんや萩原健太さんなんかは、豊富な知識とまっすぐな目線でとても信頼できる文章を書いていると思います。

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