リクオ「セツナグルーヴ2011」 / 2011年1月29日(土) 渋谷BYG
2011年1月29日(土) リクオ「セツナグルーヴ2011」
場所:渋谷 BYG 03-3461-8574
【サポートメンバー】寺岡信芳(b)/朝倉真司(perc.)/安宅浩司(g.)
【ゲスト】 梅津和時(sax他)
前¥3800 当¥4000(ドリンク別) 開場18:30 開演19:30
今振り返ると、2008年のアルバム「What's Love?」と2010年の「リクオ&ピアノ」は対をなすアルバムだったんだと思う。「What's Love?」は試行錯誤を繰り返しながら遂にたどり着いたリクオ流バンドサウンドの完成形。「リクオ&ピアノ」には、各地で夜な夜なピアノを弾き語ってきたローリング・ピアノマン・リクオの原点がある。この2枚には、リクオという稀代のシンガーソングライターの今が完璧に真空パックされていると思うのだ。これらを完成させたことで、リクオはある種の確信をつかんだんだのではないか。僕はリクオのライブを見続けて15年になるけれど、ここ2,3年はステージのリクオにいい意味での余裕を感じるようになった。自分のやっていることに一点の曇りもないという想いからくるある種の“力強さ”…。この日は、そんなリクオがまた新たなステージを目指して走り出したようなタッチが感じられ、見ている僕にはちょっと眩しくさえ感じられる瞬間があった。
序盤の数曲こそ「ハイ&ロウ」や「マウンテンバイク」などの定番だったけど、その後は既存の楽曲でも新たなアレンジが施されていたり、数日前に書いたばかりだという出来立てほやほやの曲が披露されたり、ライブ全体がとてもアグレッシブ。それに加えてデビュー当時の恩人・梅津和時御大との共演も織り交ぜてしまうのだから、そのライブの構成力にも脱帽してしまう。19:30から始まったライブ、終わったのが22:30。途中の休憩を省いても2時間半以上。新たな試みとお馴染みのエンターティメントぶりとが絶妙に織り込まれた素晴らしいライブだったと思う。
バンドのメンバーでは、この日がリクオと初顔合わせだった安宅浩司のことを書いておきたい。この人、僕は全然知らなかったんだけど、とても素晴らしいギタープレイヤー。僕は彼が弾いたギターがアコギではなく、エレクトリックだったのがとりわけ気に入った。爪弾かれるセミアコの音色はラグタイム風味にあふれ、ペダル・スチールはバンドサウンドに一層の空気感をプラスしていた。今日のライブを一緒に見ていた僕の友人は、“今日のリクオのバンドはシュガーベイブみたいだった”という感想を漏らしていたけれど、それはリズム隊のアレンジの妙とともに、安宅浩司のギターの存在も大きかったのではないだろうか?
おおはた雄一や、高木克、それに三宅伸ちゃんも時々そういうプレイを見せてくれるんだけど、最近僕の通うライブで目にするギタープレイヤーには、こんな風にアメリカ南部の古き良き香りがする音色を出す人が多くなってきたような気がする。ちょっと前まで、日本ではこういう渋いギターを弾く若いプレイヤーはあまり耳にすることができなかったのだが、安宅浩司みたいな素敵なプレイヤーが増えてきたのはとても嬉しい。バンドにこういうプレイヤーが入ると、サウンドにぐっと奥行きが出る。喩えれば、70年代のローリング・ストーンズのアルバムにグラム・パーソンズやライ・クーダーがゲスト参加するような感じだ。ロックという音楽のロマンチックな側面を表すのに、ペダル・スティールってのは最高の飛び道具なんじゃないのかな…。
そしてそして、なんといっても梅津さん!いやもう素晴らしいとしか言いようがない。何という存在感なんだろう!歌うサックスっていうか、これほど歌の持つ詞世界に沿ったサックスを吹くプレイヤーを僕は他に知らない。それに加え、梅津さんは自身の存在感が抜群なのだ。小柄な体躯を大き目のジャケットで包み、赤いズボンとスニーカーでステージに立つ梅津さんはとてもチャーミング。いやあ~小坂忠さんもイイけど、梅津さんもカッコいいおっさんだなあー(笑)。オレ、歳とったらこんな軽やかさを纏ったおっさんになりたいと思います。うーん、道は険しいけど…(苦笑)。
アンコール、リクオは予定にはなかったが突然やりたくなったという弾き語りを2曲演奏してくれた。これがまたとても素晴らしかったのだ。特に、三日前に完成したという、出来立てほやほやの「アイノカタチ」には感動してしまった。僕らの世代はこういう歌こそを求めているのだ。一緒の時間をたくさん過ごしたパートナーへの想いをさらりと呟いた名曲。正に大人のラブソング。歌い終わった後、リクオは“ちょっと恥ずかしい…”と漏らしていたが、どうしてどうして。楽曲の素晴らしさと同時に、充実した暮らしを送っているリクオの充実ぶりもうかがえ、胸が温かくなった。
極上のバンドサウンド。新しいメンバーとの刺激的なセッション。かつての恩人との邂逅。そして新たに生まれた曲の数々…。本当に見所の多いライブだった。
もう一つ。絶対書いておかなければならないこと。この日演奏された「胸が痛いよ」を、僕はずっと忘れないだろう。リクオと梅津さんが一緒に演奏するこの曲は、やっぱり特別なモノになっていた。曲のエンディング近くに梅津さんが吹くサックスソロは、僕にはまるで「スローバラード」のように聴こえてきた。曲調がどう、フレーズがどうとかいう話ではないよ。リクオのシャウトに寄り添うように泣き叫ぶサックスのあり方、それが「スローバラード」の“あの感じ”そのものなのだ。リクオは、MCで“音楽は最高。音楽を通して繋がりあえる。お客さんとも。ここに居ない人とも…。”と言った。その意味、オレにもわかったような気がした。
“今年はBYGで数多くライブをやりたい”とリクオは言った。これは僕にとってはとても嬉しい発言だ。BYGのライブでは、毎回予想を超えた何かを感じることができる。ここは何かが生まれる磁場に満ちた場所。その空気に自分の身体を溶け込ませるべく、まだ日の高い時間からお店に行って気の会う仲間達とお酒を飲み、言葉を交わしながらそのままの流れでライブに移行する…。BYGではそんな風にまったりと時を過ごすのがいいのだ。時の止まったような空間に身を置くと、日常のしがらみから解放されて本当に自由な気持ちになれる。
渋谷BYG。このお店には確かに音楽の神様が住んでいると思う。
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