第6回 東京うたの日コンサート【出演】リクオ/三宅伸治 / 2011年6月13日(月)渋谷BYG
2011年6月13日(月) 第6回 東京うたの日コンサート
【出演】リクオ/三宅伸治
渋谷 BYG
前¥3000 当¥3500 開場18:30 開演19:30
うーん、いいライブだったとは思う。でも、僕にとっては今ひとつ気持ちがのめり込めない夜でもあった。今日はちょっと、盛り上がる人たちとの温度差を感じてしまったかな…。微妙な気持ちに揺れた夜だった。
BYGのライブは間に短い休憩をはさんで2部構成で行われる場合が多い。この夜もそうで、1部はオープニングをリクオと伸ちゃんが一緒に演奏し、その後2人がソロを数曲やってから、2部で共演するという流れだった。
僕が違和感を感じ始めたのは、1部での伸ちゃんのソロコーナーからだ。ここで伸ちゃんは「カバーズ」バージョンの「ラヴ・ミー・テンダー」を唄った。伸ちゃんはこの歌を唄う前、はっきりとこう言った。“じゃあ、原発反対の歌を唄います”と。そして“これは大事なことだと思うので。イタリアの国民投票はどうなりましたかね?…。気になるよね”とも言った。
正直言って、僕は今日この歌が聴けるとは思わなかったから、びっくりしたし嬉しかった。実際、伸ちゃんの歌からは今こそこれを歌わなければならないという衝動が強く伝わってきた。隣の席では伸ちゃんファンの女の子たちが大喜びで盛り上がっていたけれど、僕は歓声をあげて拍手するような気分には、どうしてもなれなかったのだ。
この違和感をもう少しわかりやすく言うと、伸ちゃんと客席との間の温度差を感じてしまったからだと思う。伸ちゃんは、タイマーズの頃からずっとこういうことを歌ってきたし、この歌の日本語詞を書いた忌野清志郎の真意をよく知っているはずだ。言い方を変えれば、彼は誰よりもこの歌を唄う権利があると思うし、それだけの覚悟を持ってこの歌を唄っていると思うのだ。それに対し、僕らは当時どれだけそのことをきちんと受け止めていたというのか…。ずっと言い続けてきた人の前で、作り手だった清志郎の意思を引き継いだ伸ちゃんを前にして、“待ってました!”と言わんばかりに拍手するような気持ちにはとてもなれなかった。なんとなく後ろめたい気持ちになってしまったのが正直なところだ。
三宅伸治ソロコーナーのラストは、3.11震災後に作ったという曲だった。エンディングに“一緒に生きていこう…”というリフレインがあり、伸ちゃんはそこを観客に歌わせた。でも、嬉々として歌う観客を前に、またしても僕はシラけた気持ちに襲われた。それは「ラヴ・ミー・テンダー」で感じたものとはまた違った理由だったのだと思う。
あんまりこんなことは言いたくないが、津波の被害こそ無かったけど、僕の地元も震災の影響を受けた。両親はいまだに通常より遥かに放射性物質の濃度が高い福島県で暮らしている。そんな現実を前に“一緒に生きていこう…”と歌って、自分がさも彼らと何かを共有しているようなヒロイズムに浸るのは違うと思ったんだよな。はっきり言って、ここだけは僕と伸ちゃんとは明らかに気持ちがすれ違っていたと思う。だけど、これが僕のその場での正直な気持ちだ。
なんとなくうやむやな気持ちで迎えた2部は、リクオ+三宅伸治による「いいことばかりはありゃしない」や「デイ・ドリーム・ビリーバー」など、まさかと思える曲が飛び出した。更には20年前にリクオと清志郎が共作した「胸が痛いよ」も…。これは掛値なしに素晴らしかったと思う。正に一期一会、気持ちのこもった場面だった。
だけど、まさか「雨上がりの夜空に」を演るとは…。最近の伸ちゃんはいつもこの曲、演ってるのかなあ?僕は全く気持ちの準備ができていなかったので、正直言ってうろたえてしまった。考えてみれば、リクオの20周年を除けば、清志郎がいなくなってからの伸ちゃんのライブをじっくり観るのはこれが初めてだ。事前にこの曲をやることを知っていれば、もうちょっと違う反応になっていたのかもしれない。あるいは、これが「JUMP」だったら…。立ち上がってノリノリで盛り上がる伸ちゃんファンを横目で見て、なんだか僕は居心地の悪さを感じてしまった。
ただ、思うんだけど、この日は立った人半分・座ってた人半分。ライブは間違いなく、ここを盛り上げどころとしていたと思うのだが、立たなかった人たちの中では、僕と同じような気持ちになった人も多かったのではないだろうか?
この夜、僕はなかなか寝付けなかった。この日ライブ中に感じたいろんな感情をひとつひとつ思い出しながら、移ろいゆく自分の気持ちを持て余した。
この日のライブで、伸ちゃんは“こんな時こそ音楽の力が必要になると信じています”と言った。そうかもしれない。いや、きっとそうだろう。でも、音楽ってのは、歌ってのは、その時その時の聞き手の感情と、歌と接してきたそれぞれのバックボーンによって、受け取り方が全然違ってくるやっかいなシロモノでもあるのだなあ、ということを体験として学んだような気がする。まして、この時期は未曾有の大震災や、故郷に対する複雑な思いや、いなくなってしまった人のことや、いろんな要素が絡み合ってるんだから、こんな気持ちになってしまうのは当然といえば当然なのかもしれない。
音楽の持つセンチメンタリズムに溺れずに、自分の正直な気持ちを大事にするのは意外と難しい。でも、本当に音楽の力を信じるならば、こんな気分の夜を潜り抜けることも必要なんじゃないだろうか。僕はそう思う。
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