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2011年8月 3日 (水)

あるミュージシャンの日記

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正直言って、ASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドには全く興味がないが、後藤正文という男の誠実さには胸を打たれた。
後藤の発言は、メジャーに属するミュージシャンとしてはギリギリのところなのではないか。彼は、開催地の放射線量に対する判断は参加者個々に任せるとした上で、子どもと妊婦に関しては明らかな危惧を表明し、できれば参加を控えて欲しいと言い切っている。国の決めた基準値に対して、静かに異議申し立てをしているのだ。
発言にどんな反響があったのかも想像が付く。また、そういった反響がくることも、恐らく彼は最初から予想していたのではないだろうか。それでも彼は一人の人間として言わずにはいられなかったのだと思う。

ミュージシャンは、なんでも自由にものが言える人たちだと思われがちだが、実際は社会的な発言をするには大きなリスクが伴ってくる。そのリスクはメジャーであればあるほど、大きくもあるのだろう。

ある人に聞いた話。あるメジャーなミュージシャンがライブで得た収益の一部を東日本大震災に対する被災地への寄付に当てることにした。そのミュージシャンは、寄付の金額に加え、コンサートの収支をすべて公表し、どれだけ必要経費がかかり、そこからどれだけの額を差し引いて寄付したのか、その内訳まできちんと発表したという。
これは、集めたお金の使途をガラス張りにするために、一般的には当然行われるべき行為とみなされるはず。ところが、これがちょっと問題になったらしい。何が問題なのか具体的に書くことはあえて控えさせていただくが、要は業界は業界のムラ社会として守らなければならないものがあるらしいのだ。

たかが寄付(あえてそういう言い方をするが)だけでも、これだけのリスクがある。音楽業界ってのは、僕らが想像する以上に保守的な世界だと思っておいたほうがいいのかもしれない。まして、原発関連に関する発言などしようものなら、いったいどれだけのリスクを背負いこむことになるのか…。
僕は別に“ミュージシャンは誰もが何らかの意思表示をすべきだ”などと言うつもりはない(そんなことはとっくにあきらめている)。しかし、心あるメジャーな人間が、例えば後藤のような立場にある人間がこういった発言をすることにはとても大きな意味があると思う。

若い頃、僕はロックは自由を歌う音楽だと思っていた。でも、大人になって、それは幻想なのかもしれないとも思うようになってしまっていた。日本のロックミュージシャンなんて、籠の中だけで自由という名の歌を勇ましく歌っているだけのカナリアなのかもしれないと…。
だが、それでも僕はあきらめ切れなかったのだ。ロックはただ音がデカくて勇ましい言葉をシャウトするだけの音楽なんかじゃない。ロックはなによりも自由を、そして“ほんとうのこと”を歌う音楽であるべきだと思う。逆の言い方をすれば、だからこそ僕らは忌野清志郎という表現者に惹かれたのではなかったのか…。
清志郎がいない今、コマーシャリズムにまみれているとばかり思っていたメジャー側に、こんな誠実な発言をするヤツがいた。そこに僕は胸を打たれ、大きく勇気付けられたのだ。

※このエントリーは8/3にエントリーしましたが、その後、関係各所への影響を考慮し、8/4に若干の修正を加えています。

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コメント

自分もRCで育った世代なのでどうしてもロックやる人には誠実さや
行動力を求めてしまいます。
その分、今後の活動や周囲のスタッフや家族などへのリスクが0とも
言えませんが。
最近では先日ライブに行った元STALINのみちろうさんの活動共感出来る
ものがあります。
確か彼も福島二本松出身でしたっけね。

◆通りすがりさん
僕は、ロックって“本当のこと”を歌う音楽だと思ってるんです。“ロックスター”と呼ばれる人だって、本当は怒りや反逆だけじゃなく、情けなさやカッコ悪さだってあるでしょう。でも、それだって誠実にさらけ出せばカッコ悪くたってカッコいいし、人の心を動かせるんです。
それを誰よりもちゃんとやったのが清志郎だと思うんですよね。

みちろうさんは僕と同郷です。もう、郷土の誇りです(笑)。彼は県内屈指の名門・福島高校出身なんですよー。

俺もアジカンは殆ど知らないのですが・・・。
骨のある人なんですね。何か嬉しいです。
こういう時にアーティストの真価が問われるというか
真実の顔が見えるような気がします。
煮え切らない、奥歯にものが挟まったようなこと言われると
仕方ないとは思いつつ、やっぱり残念で・・・。
そこいくと斉藤和義の例のアレは凄いと思います。
唄われてる内容を全面支持も100%彼の本意とも思いませんが・・・。
最近のミチロウは凄いです。
ずっと追いかけてきた俺も驚きの行動&言動に呆気にとられてます。

◆LA MOSCAさん
僕は今になって改めて清志郎の凄さをひしひしと感じています。真正面から反原発を歌ったり、大麻や北朝鮮、ライブハウス批判と、表のメディアにいる人であれだけタブーとされることを“きちんと”歌った人は、いなかったと思います。

斉藤和義のアレは、こういう時に自分が何をするべきかという彼の条件反射的な部分でやったことだと僕は解釈しています。意識の底には“清志郎さんならきっと今こういうことを歌ったに違いない”という直感があったんだろうと。
メジャーな人なら、普通そこでリスクを考えて躊躇しますよね。それをあえてやった。しかも、あれだけ早い時点で。そこが凄いと思うんです。はっきり言って細かい歌詞の内容なんかどうだっていいんです。そんなのは人によって考え方が違って当然なんですから…。そんなことよりも、あえてタブーに言及したこと、あえてそれをやったことが凄いと僕は思います。

ミチロウさんは、今月モノノケサミットのライブにゲストで出るのを見に行く予定です。

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