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2011年10月31日 (月)

斉藤和義 / 『45STONES』

51abnd6yevl_sl500_aa300_1 実を言うと、せっちゃんが“あの歌”を歌ったとき、僕はあまり驚かなかった。それは、彼がああいうことを歌にしたのは、これが初めてではないことを知っていたからである。
2000年に出たアルバム「COLD TUBE」の1曲目で、せっちゃんは東海原子力発電所の臨界事故に言及した「青い光」という曲を歌っていた。あれ以上のことが起きてしまった今、せっちゃんはきっと何か言うだろう。僕はそう思っていたのだ。
ただし、そういうのは斉藤和義というミュージシャンのほんの一部分でしかない。ここは大事なところ。彼は原発事故と、恋人との間で揺れ動く男心とを同列で歌っている。斉藤和義という人の真骨頂は、その時その時に歌いたいことを、周りの目など気にせずに自然体でさらりと歌ってしまうところにあると思うのだ。それは政治的とか社会派とかいうスタンスとはちょっと違うと僕は思う。

ところが、メディアはそうは見なかった。あれ以来、世間はこぞってせっちゃんを“怒りの”とか“反骨の”とかの形容詞付きで持ち上げている。まあ、あの歌で初めてせっちゃんを知った人ならそう思っても無理はないかもしれないが、音楽評論家までそういうことを言うのはどうなのよ?オレはげんなりしたぜ。今までのせっちゃんのアルバム、ちゃんと聴いてきたの?って問い詰めたくなった。

そんな世間一般の評価だったから、このアルバムを初めて聴く時には、僕もちょっと身構えてしまったことを白状しなければならない。で、一聴して拍子抜け(笑)。なーんだ、いつもどおりのせっちゃんじゃん!(笑)安心した。すごく安心した。
まあ、言われてるとおり、原発事故や3.11以降の空気が語られた言葉はアルバムのあちこちに飛び交っている。「猿の惑星」では、はっきりと“NO NUKES”と叫んでいる。でも、それと同じくらいに「ボクと彼女とロックンロール」や「ギター」のような前向きなR&Rが入っているのが素晴らしい。オレ、聴いてるうちに、だんだん今回のアルバムは“あの歌系”の怒りをストレートにぶつけたものより、ケツの2曲、「おとな」と「ギター」がキモなんじゃないかと思えてきた。
「おとな」は、もしかしたら3.11以降に作られた日本の音楽で、自分の気持ちと一番しっくりきた歌かもしれない。そして「ギター」。ロック少年のロック少年たるゆえんをこれだけシンプルに歌われると、なんだかとても感動してしまう。3.11以降、音楽を聴くのが辛くなったという声を多く聴くし、僕自身もそんな時期があったのだが、これを聴いてシビアな状況でも音楽を傍において置くことの大切さを改めて知らされたような気持ちになった。

そうなのだ。『45STONES』はヘヴィな状況を歌っているはずなのに、なんだかとても温かく感じるし、前向きな気持ちになれる。そして、これこそが斉藤和義という人が信じているロックなのではないだろうかと思った。
もう一度言うけれど、斉藤和義という人は、ミュージシャンとして今歌いたいことは今歌わなければ意味がないと固く信じているんだと思う。評論家ですら勘違いしている人が多いが、歌われている内容が正しいか正しくないかなんて本当はどうだっていいのだ。そんなもの十人いたら十通りの考え方があって当然だし、聴き手が歌い手の言ってることに100%同調しなきゃならないなんてことは絶対にない。せっちゃんが“あの替え歌”を歌ったときに一部の人がしたように、歌詞の一つひとつをこねくり回して正しいか正しくないかの解釈をしたって、そんなことに意味はまったくないと僕は思う。
ミュージシャンという表現者は、今この瞬間に感じたことを歌というカタチですぐに吐き出すところに真骨頂があると思うのだ。それをどう捉えるかは聴き手それぞれに委ねられている。その形態、その反射神経こそがロックだとせっちゃんは信じているのだろうし、僕もずっとそう思ってロックを聴いてきた。そこにタブーがあってはならない。
斉藤和義が“あの替え歌”を歌った時、僕はその替え歌の内容より、彼が“今歌った”という態度こそに、彼が歌った事実こそに強く励まされたのだ。その真摯さがロックだと思ったし、斉藤和義というミュージシャンが感じた時代の空気に、僕は共鳴したんだと思う。

かつてピート・タウンジェントは“大きな音でやるからロックなんじゃない。街でやるからロックなんだ”(だったっけ?)と言った。忌野清志郎は“こんなもん、ただの歌じゃねえか。何をぎゃあぎゃあ騒いでるんだ?”と言った。
斉藤和義にもこの2人と同じ魂の系譜を感じる。ロックが生れてから脈々と続いてきた、ロックのロックたる精神が、このやせっぽちの歌うたいにも流れているのを感じる。

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コメント

ホントにそう思います、俺も。
唄ってることが正しくなけりゃいけないなんてことは無い訳で。
正しかろうが間違ってようが、そう思ったから唄う。
そこがロックだと思います。
TBさせていただきます!

斉藤クン、前々からロックフェスでは見ててエロネタ話す兄ちゃん
のイメージしか無かったんですが今年から急に聴き出しました。
でこのアルバム購入。正直「原発」絡みで興味ありました(笑

HAGAさんの仰るように「原発」だけで語るには勿体ないイイ
アルバムだと思います。で印象に残ったのは「反原発」より
「ネット匿名での発言」について相当キツイ事言ってますね。
「ずっとウソだった」への批判も匿名、政府・東電への批判も匿名。
勿論間違った事は批判すべきだけど、ネットと言う閉じた安全な
場所で言いたい放題・・はチョッと違うんじゃないかな?
そう思ってたのでこのアルバムは聴いててホント腑に落ちました。

下手したら批判浴びるかも知れないこの作品を今あえて出す。
その男気はカッコいいと思います。
言いたいことは言う、歌いたいことは歌う。
実名出して逃げも隠れもしない。ボクも見習いたいものです。

◆LA MOSCAさん
>正しかろうが間違ってようが、そう思ったから唄う。
そこがロックだと思います。

RCをはじめとして、思春期に僕がロックから教わったことは、良いも悪いも、カッコいいもカッコ悪いも全部さらけ出す。それがとてつもなくカッコいいということでした。表現者ってのは現代の巫女みたいな存在だと思うんです。そこにタブーなんかあっちゃいけない。今こそ言いたいことをちゃんと言うべき時なのに、表現者が自分の気持ちに真摯にならずにどうすんだと思います。

◆ながわさん
うん、ネットの匿名性についての発言は僕自身も反省(苦笑)。こういうことをメジャーな人が言うことも反原発を口にするのと同じぐらい勇気のいることですよね。「おとな」は、ほんと名曲だと思います。さらっと歌ってて何もひねりがない曲なのに、聴けば聴くほど好きになっていきます。僕は同世代のアーティストからこういう表現が出たことが凄く嬉しいです。
僕、せっちゃんって男受けするミュージシャンだと思うんですよね。Hなところとか、情けないところとか、隠しておきたい男心をすごく巧く歌にしちゃう。もうね、“これはオレか!”みたいな歌がいっぱいあります、実は(笑)。

全く同様のことを考えてました…!!
(替え歌を驚かず、前からだしむしろどう考えてるか知りたかった、と思ってたけど、世間の評価や反応に疑問。で、アルバムいつも通りで、ああ、と)

斉藤和義をずっと好きで、よかったです。

◆ゆかちんさん
最近、斉藤和義がいちばんまともに見えちゃいますね(笑)。上の記事で「日比谷マルシェ」のことを書いたけど、なんかミュージシャンの行動でも首を傾げてしまうようなことがこのところけっこうあります。で、それを無理やり容認しようとする間違ったファン意識にも辟易。ちゃんと自分の目で見て自分の頭で考えろ!と言いたいです。僕らは僕らの人生を生きているのであって、ミュージシャンの人生をなぞってるわけではないのですから…。

なんだか読み終わってすっきりしました。 
同感ですね^^
先日鳥栖ライブ行って来ました。
デビューから追ってますが、ますます大好きになりました。
変わった部分もありますが、そこがまた良くて嬉しいです。
優しいんですよね。
そしてほんと「ギター」は泣けました。
hagaさん、ありがとうございます。

◆ルチモさん
>先日鳥栖ライブ行って来ました。

おお、いいですねー!僕も武道館に行くはずだったんですが、急な仕事で泣く泣くキャンセル。その直後のCHABOさんライブへのゲスト出演が直近のせっちゃんライブです。

僕はせっちゃん、35STONESぐらいから気になりだしました。あの頃から見ても変化した部分は感じますが、根っこの部分はずっとあのまんまですよね。同世代の男として、せっちゃんの詞は100%共感できます。一度でいいから一緒に酒呑みたいなあ。絶対、話が合うと思うんだけど…(笑)。

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火曜の夜に届いてからずっとコレを聴いてる。 斉藤和義のニューアルバム『45STO [続きを読む]

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