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2012年1月28日 (土)

【映画】ヒミズ ( 園子温監督作品)

Himizu2

きっと時間が解決してくれると思っていた。去年の秋ごろはけっこういい感じで復活してきていた。でもこのところまた震災不感症が発病し始めている。3.11以降、僕の中では、音楽や映画、小説などの表現がどうにも素直に受け止められなくなっているのだ。あの日を境に、僕の中の何かが変わってしまった。冷めている。どうしようもなく醒めているのだ。
今はなんだかライブに行くのも気が重い状態。ライブが始まるのを待っている時の弛緩した空気がたまらなく嫌だし、ライブ会場に流れる約束事がものすごくもどかしい。なんだか、ヘラヘラしてるやつらの顔を見てるとぶん殴りたくなってくる(しませんけど…)。たぶん、今後僕はライブに足を運ぶ回数は激減するだろう。
でも、そう思ってるのは僕だけではないんだと思う。ある雑誌で高橋源一郎と斎藤美奈子が2011年のブック・オブ・ザ・イヤーを決める対談をやっていたんだけど、そこで2人は、総ての表現が3.11以前と以降に分断されてしまい、ベストを決めるのにすごく苦労したという趣旨の発言をしていた。

語弊があることを承知で書く。東日本大震災と原発事故は、同じ災害でも阪神・淡路大震災とはまったく違うニュアンスを感じる。それがなんなのか、今はうまく言葉に表せないが、こと原発事故に関しては、これまで日本が見ないふりをしてきた邪悪な構造が白日のもとに曝け出されてしまった。そのあまりにも重い事実の前に、僕はただただ立ち竦むことしかできないでいるのだ。
これまで、「戦後の終わり」という言葉を何度か聞いた。でも、この事故は本当の意味で戦後を終わらせたのではないか。そして、高度経済成長というこの国の発展の歴史が、実はハリボテのようなものであったということも見せ付けたのではないか。

でも、僕は諦めない。表現者の力をまだ信じている。圧倒的な事実の前で、それと対抗できるだけの表現が必ず生まれる。そう思っているし、そう思わないとこの先音楽も映画も観ていられなくなってしまうではないか。

で、園子温監督の「ヒミズ」だ。暴力描写たっぷりの重く暗い映画。普通に生きたいと願う中学生が汚い大人の象徴のような、クズに等しい両親に翻弄され、その未来を閉ざされていく。そこに園子温は震災によって未来を奪われた人たちの心象風景をリンクさせてきた。
現実の被災地という、圧倒的にリアルな現場でのロケーション。悲劇の現場での演技は、ともすれば不謹慎、話題づくりとのそしりを受けかねなかったはず。事実、この映画に関してそういう評価を下す人も多いと聞くし、原作を知っている人からは“原作のあるものを、わざわざを震災と絡めて失敗している”と批判されてもいるそうだ。

にもかかわらず、僕はこの映画に心を震わせた。それは、園子温という男が3.11を通過し、表現者として様々に思い惑った残り香が強烈に漂っているのを感じたからだ。原作があろうとなかろうと関係ない。これは明らかに3.11後の世界に思いを寄せ、その現場を見た表現者が沸きあがる衝動を抑えきれずに作った表現なのだ。
東北ロケに関しては、3.11以前に立てられた企画の段階で既に予定されていたという。当然、その頃は震災のことなんて誰も予想していない。だから3.11が起こった時、当然のことながら中止を主張する声が多かったと聞く。しかし、園子温は瓦礫だらけの現場に行ってみて、圧倒的な悲劇を前に何かを思い、湧き上がる感情を抑え切れなくなったのだ。そのリアルな衝動に僕は共鳴する。
確かに、気持ちが走りすぎて、物語が破綻している部分があることは否めない。僕は原作を読んでいないが、原作とはまったく違う映画になっていると言う人の意見もたぶん当たっているのだろう。

だが、それでもいい。わかる人にはわかる。それでいいではないか。日本政府の原発事故収束宣言の捉え方が人によってまちまちなように、3.11後の表現も100%の共感を持って迎えられるようなことは、もはやないのではないか。
この映画では、登場する誰もが、大人も子どもも、男も女も、理不尽と思えるほど酷い有り様で暴力を受ける。顔を殴られ、蹴飛ばされ、血反吐を吐いてへたり込む。でも、僕にはこの描写が快感だった。不謹慎と思われてしまうが、この痛さがどうしようもなくリアルだった。できることなら俺も誰かを殴りたい。そして、口もきけないほど殴られたい。そんな衝動に駆られた。

そういえば、登場してくる女子中学生は、こんなことを言ってたっけ。

人生にケチのついた人間は嫌でも価値観を変えざるを得ない。これはもうほとんど義務だよ。

この台詞、実は今の日本そのものに向けられているのではないのか。

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コメント

ヒミズ私も観ました。好き嫌いは分かれるでしょうけど、私は響きましたね。こういう映画に時々出会えるからまた映画館に行ってしまう。作らなければならなかった監督の気持ちがリアルに伝わってきました。こういう表現が必要な人に届いてほしい作品ですね。

◆ハテさん
僕は原作を読んでないんですけど、エンディングも原作とはちょっと違っててそこも評価が分かれているみたいです。僕は監督が3.11の衝撃を正面から受け止めたからこそ、エンディングを変えざるをえなかったんだと思ってます。
あの、“住田くん、頑張れ!”の連呼は刺さりました。震災後、繰り返し言われた“頑張れ”というある意味陳腐な言葉が、これほど刺さってくるとは…。

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