瀕死の双六問屋 完全版 / 忌野清志郎
この本に書かれているエッセイは、もともとは90年代後半に雑誌TV Bros.に連載されていたもの。2000年にCD付きで単行本化されたのだが、それは数年で絶版になってしまう。その後、清志郎の病気療養後の復活に併せて2007年に文庫化されたんだけど、そこにはCDが付いておらず、今年の2月になってやっとCD付きで単行本が再版されることになった。表紙も漫画家の浦澤直樹が書き直し、これまで未収録だった原稿が10篇以上も挿入されたから、前のバージョンを持っている人でも購入する価値は十分あるんじゃないかな。これが文字通りの完全版。僕はほんとは一番最初の単行本の表紙が一番好きなんだけどね…。
清志郎関連の書籍はたくさんある。だけど、僕にとって「双六問屋」は、「ロックで独立する方法」と共に、他とは一線を画すものだ。それは、ここでの清志郎はかなり本音に近い思いを吐露しているように感じられるから。いつものようにユーモアと比喩でオブラートに包んではいるが、社会の不条理と業界の理不尽さに対してかなりストレートに毒を吐いているように感じる。
こうなったのは、清志郎自身があとがきで暴露しているとおりだ。ぶっちゃけた話、他の本はゴーストライターやインタビューおこしで書かれたものがほとんどなのだが、「双六問屋」に関しては、すべて清志郎が自分で書いたと発言している。要するに、ここに書かれた文章は当時の清志郎の頭の中そのものなのだ。
完全版が出たのに際し、数年ぶりにまた読み返してみたのだが、読んだ当初のインパクトは全く色褪せてなかった。君が代、憲法、自殺問題、アルバム発禁、音楽業界の馬鹿さ加減…。一見とっちらかって見えるテーマの文章は、読み進むうちに不思議な整合性を持って頭の中を駆け回る。かつて清志郎は、この本を“サイケデリック・ノベル”とかなんとか言ってたけど、ほんとにそんな感じだ。
取り上げられる音楽も、R&Bのマスターピースから、当時売り出し中の若手まで幅広く、それをエッセイの中にネタとして仕込んであるってのもなかなか凄い。
解説の町田康も指摘してるんだけど、もう10年以上前に書かれたものなのに、今に至るこの国のぶざまな有り様を予言しているような部分もあちこちに見受けられる。
あれから僕らは立場に関係なく崖っぷちに追い込まれてしまった。四十一話にあるような、不寛容な態度、ユーモアの欠如は、いまや国全体を覆っている空気そのものではないか。
オレは夜中にこれを読んじゃって後悔したよ…。読んでると、なんだか清志郎に首根っこを掴まれてるような錯覚に陥るのだ。何やってんだろう、オレたちは…。頭の芯が冴え渡っちゃって眠れやしない(苦笑)。
まだ未読の人は是非どうぞ。
いまや「双六問屋」は「瀕死」だ。
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コメント
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僕は2007年に出された文庫版を購入しました。
そして、今回の完全版を改めて買いなおしました。
HAGAさんの言う通り、今の日本を予言
しているようで、2007年購入して読んだときより、
圧倒的に“リアル”を感じました。
まだまだ清志郎はここに参上している気分に
させてくれました。
投稿: 樹木 | 2012年3月20日 (火) 23:05
◆樹木さん
>今の日本を予言しているようで、2007年購入して読んだときより、圧倒的に“リアル”を感じました。
そうなんですよねー。このエッセイ集に収められた清志郎の文体は、覚醒してるというのか、とてもドライで冴えてるんですよね。あとがきで清志郎自身が言っているように、この本はライターの加筆・修正のなかったほとんど唯一の本です。ってことは、このエッセイのタッチこそが清志郎の実像に近いんではないかと僕は思っています。
投稿: Y.HAGA | 2012年3月21日 (水) 09:59