【映画】『ドライヴ』 / ニコラス・ウィンディング・レフン監督
この映画、宣伝文句によれば“最高にクールな超絶クライム・サスペンス”だそうな。はい、大嘘です(笑)。この映画にそういうカタルシスを求めて行くと、間違いなく肩透かしを食わされる。それどころか、R-15指定になった凄惨な暴力シーンに不快な思いさえするかもしれない。でもオレ、これはハマったな。久々にイイアメリカ映画だわ、これ!
ライアン・ゴズリング演じる主人公は、普段は自動車修理工として働き、時折アルバイトで映画のスタントをやっている寡黙な男。だが、それだけでなく、卓越したドライビングテクニックを駆使して、裏稼業として犯罪者の逃走を請け負ったりもしている。そんな彼が子持ちの人妻と恋に落ち、甲斐性なしの旦那に翻弄される彼女と子供のために、危険な仕事を引き受けていくというストーリー。
まあ、脚本自体は取り立ててどうというものではない。むしろ、シェーンみたいな昔からあるヒーロー路線を継承したものといっていいだろう。
だけど、見せ方がすごく凝ってんだわ、これ。画面の隅々まで監督のこだわりが満載。まず僕がおおっ!と思ったのは、卓越した色彩感覚。独特の色世界は冒頭のクレジットが流れるところから既に始まっている。闇の中で車を流す主人公にカブせ、どぎついピンクの文字が流れていく。流れる音楽は80年代のエレクトロポップみたいな摩訶不思議なサウンド。このドラッギーな感覚は、まるで都会の裏側を息を潜めて覗き見てるようだ。
そして、映画が始まるとコントラストの高い、ベタっとした色合いにあっという間に引き込まれていった。いやー、ぶっ飛ばされたぜ。この制御された色彩感は並みじゃない。
映画は、序盤は比較的穏やかな展開。キャリー・マリガン演じる人妻と主人公とが過ごす静かな時間や、彼女の一人息子との触れ合いには心が和む。だが、修理工場のオーナーが付き合っているクセ者が出てきたり、人妻の旦那がム所から帰ってくるあたりからキナ臭い雰囲気がたちこめてくる。中盤以降は急激に緊張の度合いを増していって、どぎついシーンの連続だ。ある者は至近距離からマシンガンで頭をブチ抜かれ、ある者はナイフで腕を切り裂かれ…。僕の前の席の女性なんて、淡々とした展開からいきなりデカい銃声が鳴り響いたもんで、椅子から飛び上がってました(苦笑)。
ラストも決してハッピーエンドってわけではない。かといって悲劇的でもない。妙に余韻が残る生々しい諦観が漂うのだ。いくら血が流れても、なんかクール。
オレ、これは80年代によくあった低予算のアメリカ映画みたいだと思った。えーと、たとえば「パルプフィクション」とか「ジャッキーブラウン」とか…。僕の大好きな「ホームボーイ」とかにもちょっと似てるな。
この作品は、最近のハリウッドものみたいに、おせっかいなぐらい説明過剰な映画を見慣れている人にとっては、なかなか入っていけない世界かもしれない。でも、“ある種”の映画を通過してきた人にとっては、否応なく引きずり込まれてしまうニオイを嗅ぎ取るだろう。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督ってのは只者ではないぞ。この人は確信犯なのだ。あえてハードボイルドの定番をなぞってみた。あえてキツイ色合いで塗ってみた。あえて残酷なバイオレンスシーンを挿れてみた…。そういうことなんだと思う。
主人公が爪楊枝を加えているあたりは、なんとなく日本の任侠映画っぽい雰囲気さえある。そういえば、極力シンプルな演出と暗示的なカット割りで観客に何かをイメージさせるあたりは、まるで北野映画みたいだ。
オレ、なんのかんの言っても、こういう安っぽいやさぐれた世界が好きなんだよなあ…。ビルの谷間の都会じゃなくて、小汚くてちょっとヤバい空気のL.A。そこでささやかに生きる男と女。血の匂いが漂ってくるような暴力描写。うーん、たまんねえ(笑)。
ある意味、これはアメリカンニューシネマの21世紀版ということも言える。そして、この普通じゃない主人公を演じたライアン・ゴズリングという俳優は普通じゃないな…。一発でファンになった。
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