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2012年6月12日 (火)

父が来た日

2週間前の日曜日、父が東京に出てきた。
これまでにも何回か書いてきたが、僕の両親は福島県白河市で暮らしている。毎年、お盆やお正月には家族で里帰りしていたのだけれど、去年の3月11日以降それはできなくなってしまった。福島と東京。距離は近いが心の距離は限りなく遠い。その溝を埋めるかのように、父はたまに東京まで孫の顔を見に来るようになった。

僕と父。もともと息子と男親なんてそうそう会話が弾んだりはしないもの。まして3.11以降は…。

僕「どうだい、そっちは?」
父「…。元気ないねえ…」

それだけでもう十分。父が今、どんな気持ちで毎日を過ごしているのかがわかってしまう。それが親子というものなのだ。

3.11から1年と3か月。僕には、東京で暮らしている人たちは、地震も津波も原発事故も過去のことだと思い込もうとしているように見える。
でも、原発事故は全然収束なんかしていない。今、この時点で確かなのは、去年の3月ごろと比較すれば、4つの原子炉から出る放射線量は少なくなり、原子炉の温度も下がったこと。でも、これは言い方を変えると、今でも壊れた原子炉からは微量の放射性物質が漏れ続け、原子炉は常に冷やし続けなければならない状態が続いているということだ。しかも、水は入れたそばからダダ漏れしており、それが海や地下をどれだけ汚しているのかもわからない。まして、メルトスルーした核燃料が今どこにあるのかすらわかっていない。
そして、なんといっても4号機プール。あれが倒壊したら福島はおろか東京も終わりなのだ。重ねてここ数日の報道では、東京でも放射性セシウムを吸着した黒い物質が見つかったという。その値、1キログラム当たり最大24万ベクレル…。
唖然としてしまう。僕らは今もギリギリの世界で生きているのだ。

これで何が終わっているというのだろう?タイムマシンがあるならば、僕は10年後の未来を見たい。僕らは今、悪夢のどの辺りにいるんだろう?もしかしたら、今はまだ何も始まってさえいないのかもしれない。

野田さんは「国民の生活を守る」ために大飯原発を再稼働するそうだ。じゃあ、聴きたいんだけど、「国民の生活を守る」の中に「福島県民の生活を守る」は含まれているんだろうか?
「精神論」じゃ国は守れない?ふざけんじゃねえ!と思う。僕の故郷は、孫の顔を見せに帰ることすら躊躇ってしまうような土地にされてしまったのだ。僕は決して孝行息子ではなかったが、父が不憫で仕方がない。もし、僕に今背負うものがなかったら、今こそ傷付いた故郷に戻って年老いた両親とともに生きていきたいとすら思う。こんなことなら家庭なんか持つべきじゃなかったのかも。そんなことまで考えてしまうのだ。

いったい、こんな気持ちにさせたのは誰なんだ?この国のトップの言うことは無責任すぎないか?

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コメント

あの会見を見て、まったく同じように思いました。
突っ込みどころ満載すぎ。笑ってしまうくらいに。

今年になって、何度か南相馬に通うようになって、
南相馬に親しくさせてもらっている人が増えてきました。

5月に訪れたときは、20キロ圏内にも入ってきました。

それで思うようになりました。
僕は普段東京に暮らしています。
家族も、です。

それで南相馬を見てきた僕と、
自分の家族の間にすら、わかりあえないものがあると感じることがあります。

311以降、日本人は、3種類に分かれたのかもしれません。

福島、を見た人と。
福島、を見ていない人と。
福島、を見ても何も感じない人に。

一番性質の悪いのは、
3番目ですかね。

長文、失礼しました。

野田さんの会見は見てて疑問だらけでした。一緒に見てた嫁は
「この人、何言ってるかワカンナイ」と言ってました。同感です。
大飯原発は安全対策が不安視されてるのに何故稼動させるのか?
福井県知事が「動かしたい」と言っても制止するのが政府の役割では?

で実はボク実家が京都で母親が一人で暮らしてます。
大飯原発に何かあったら?不安になり「東京に引取るか?」
と考えて気付きました。「東京も安全なワケじゃない」って。
そのとき、初めて福島に住んでる方、避難してる方、家族の方
の気持ちが少しだけ分かったような。。気がしました。

「政府は国民を守ってくれない」頭では分かってましたが
いざ現実に突きつけられると複雑な何んともいえない気持ちです。
京都に居る母親、一緒に住む嫁と猫、関東・東北に住む友人。
「大切な人」のため自分は何をすべきか考えて行動したいです。

先ずは自分は原発についてあまりに知らない。
本を読んだり映画を見たり可能なら遠目でも実際に見て
勉強しようと思います。

◆Rakuさん
>それで南相馬を見てきた僕と、
自分の家族の間にすら、わかりあえないものがあると感じることがあります。

実は僕もそういった気持ちを感じることが多々あります。妻は僕が頻繁に福島に帰ることも内心は快く思ってないみたい。“気持ちはわかるけど、家族のことも考えて。除染なんてとんでもない!”って感じですね。大飯原発再稼働に関しても、妻とは微妙に意見が食います。それは子供たちもうすうす気が付いてるみたい。自分の考えを押し付けようとは思いませんが、子供たちには現実を冷静に見てほしいなあと思っています。

◆ながわさん
福井県知事はズルいと思います。動かしたいのが本音のなのにあえてそれをでかい声で言わず、野田さんの会見によって再稼働を国からの要請で行うような形を作っちゃった。女々しい男だなあって思いますね、ワタシは(苦笑)。

僕も今は知ることが大事だと思ってます。本もいっぱい買いました。っていうか、本屋に行くとシリアスなものからトンデモ本までついつい買っちゃうんですよ(笑)。で、読むと落ち込む…。でも、読まずには言われない。また買っちゃう。そんな毎日です。

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