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2012年8月19日 (日)

仲井戸“CHABO”麗市×石橋凌「SOUL TO SOUL」 / :2012年8月19日(日)南青山MANDALA

仲井戸“CHABO”麗市×石橋凌「SOUL TO SOUL」
公演日:2012年8月19日(日)開場17:00 / 開演18:00
出演アーティスト:仲井戸"CHABO"麗市 × 石橋凌 with 藤井一彦(G)
会場:南青山MANDALA

80年代にあれほど日本のロックに夢中になっていたにもかかわらず、実はワタクシ、ARBはほとんど聴いたことがございません(苦笑)。あの頃あったいくつかのロックイベントのTV放送で、マイクスタンドに片手をかけて歌う石橋凌の姿はぼんやり憶えている。もしかしたら、忘れてるだけで実際にどっかのイベントで見たこともあるのかもしれない。ただ、ARBは社会的なメッセージを歌う硬派なイメージが強くて、RCやスライダーズみたいなルーズなノリが好きだった僕としては、なんとなく敬遠したくなるタッチがあったことは確かだ。今でこそRC、ARB双方のファンだと公言する人は多いけど、当時はそんなことはなかなか言えなかった。あの頃は若さ故のヘンなこだわりやファン同士の妙な派閥があり、少なくとも僕の周りでは、あのバンドもいい、このバンドも好きなどとは軽々しく口にできないような環境があったのだ。その点、今の若者たちは僕らのころよりよっぽど自然体で音楽に接していると感じる。フェスでいろんなバンドの演奏をシェアして楽しむ若者を観ていると、いい意味で時代が変わったことを感じてしまうのだ。
閑話休題。そんなわけで、僕はこの日久々に観るCHABOのソロライブとともに、40過ぎてやっと先入観なしに観る機会を得た石橋凌の歌をとても楽しみにしていた。

ライブは1部が石橋凌のソロ、2部がCHABOのソロ、アンコールがCHABOと石橋の共演という3部構成。これはCHABOが昨年行っていた「恩返しシリーズ」と同じだ。
1部、CHABOに呼びこまれ石橋凌がステージに現れる。その姿は、僕が想像していたよりもずっと穏やかに映った。最近は映画俳優としてもちょくちょくこの人を見かけていたが、その役柄も眉間に皺を寄せるようなものが多かったから、ARB時代と同じように、相変わらずの硬派な男のイメージをこの人には持っていた。ところが、目の前にいる石橋は穏やかな笑みを浮かべた好紳士。昔と比べるとだいぶ恰幅が良くなっていたが、それもこの人が積み重ねてきた年季を感じさせ、かえっていい味が出ていた。“ああ、いい歳のとり方してるなあ~”ってまずは思ったな。

石橋はステージ中央のスツールに腰かけると、サポートで入ったギターの藤井一彦を傍らに、じっくりと歌いだす。正直言って、僕は彼の歌をほとんど知らないが、一声聴いて圧倒されてしまった。スゲエじゃん!ロックボーカリストというより、ソウルシンガーみたいに熱い歌い方だ。そうかと思うと、MCでは意外なほど茶目っ気たっぷりな部分も披露し、観客の笑いをとってしまう。なんて魅力的な人なんだろう…。たぶん、この日の会場には僕以外にも石橋凌をあまり聞いたことのない人がたくさんいたと思うのだが、彼の全然気取りのないチャーミングと言ってもいいその姿に誰もが惹きこまれてしまっていたはずだ。

セットリストはARB時代の曲と、去年リリースしたソロアルバムからのものが中心になっていた。
ソロアルバムの曲は、石橋凌曰く“プロデューサーに目の前に映像が浮かぶようなアレンジにして欲しいとお願いした”とのことだが、歌を耳にしてその言葉どおりだと僕も思った。これは、楽曲もそうなんだけど、石橋凌のボーカリストしての表現力の成せる業なんだと思う。歌われているテーマは重いのに、曲調がとてもポジティブなのも良い。昔からARBを観ている人が今の彼をどう思っているかはわからないけど、僕はこの日のライブを見ていて、なんとなく彼が役者という道に進んだのがわかるような気がした。これは役者をやっているからこその表現の豊かさなんではないだろうか?なんだあ~こんなに素敵なボーカリストだったのなら、先入観なんか持たずにもっと早くから聴いていれば良かった(苦笑)。

サポートに入っていた藤井一彦のプレイもGOOD。花柄のシャツでキメた一彦は、この日は終始アコギでのバッキング。曲によってはブルースハープでソロも取る大活躍。僕はグルーヴァーズも大好きなので、欲を言えば1曲ぐらいエレキを弾いてくれるともっと良かったけど、贅沢は言わない。ソウルフルなボーカルを盛り立てる、素晴らしいフレーズを存分に聞かせてくれた。
1部はだいたい1時間ぐらい。石橋凌の魅力を充分に味わった。

ここでいったん休憩が入ったが、この日は長尺ライブになることを想定してか、普段よりだいぶ短い時間で場内が暗転する。トイレの列に並んでいたお客さんが、慌てて席に戻っていった。
オープニングは「BLUES 2011」。アコギを手にしたCHABOが気ままにギターを爪弾きながらつぶやくようにボーカルをとる。続く「つぶやき」もそうだったが、のっけからディープなCHABO流ブルースの世界が展開されていく。「つぶやき」は“ジェームス・ディーンはどこに消えたんだ? ウィルソン・ピケットは… ロバート・ジョンソンは…”と畳み掛けていく、最近のCHABOの歌詞によく見受けられる、今の時代への違和感が歌いこまれたナンバーだった。

いつものようにカバーも多い。フジロックで披露したという「ルイジアナ・ママ」は、オリジナルというより飯田久彦の日本語バージョンでの演奏。続けてライジングサンのthe dayで演奏したという「The Harder They Come」。こんなミディアムな曲を中村達也と演奏したってのはちょっと意外な感じだが、ジミー・クリフをCHABOがやるってのはなんとなく解るような気がする。
そして、ARBのカバーで「ウィスキー&ウォッカ」。これはオリジナルは知らないのだが、アメリカとロシアのドンパチを酒場でのいざこざに喩えていて、完全にCHABOの世界に仕立て上げられたアレンジになっていた。最近のCHABOは誰かと共演するとき、その人の持ち歌をカバーするのが恒例になっているが、この日のこれはハマり具合でいえばかなり上出来だったんじゃないのかなあ?

僕的にこの日最大のヤマ場はこの次からの3曲だった。
CHABOが“じゃあ、ここでキヨシローくんの夏を…”と、おもむろに口を開くと、場内の照明がゆっくりと落とされ、CHABO独特の夏の慕情が展開されていった。まず歌われたのは「忙しすぎたから」。外の猛暑をしり目に、太陽ギラギラだけでない陰りを帯びた夏の心象風景が描き出される。思えば、こういう世界観があるのが清志郎の、そしてRCサクセションというバンドの魅力だった。日本の8月は死者や過ぎ去った日々に想いを寄せる季節でもある。CHABOの歌声を噛みしめるように、歌の世界に入り込んだ。
そのあと、CHABOはインストで“エデンの東”を演奏。これが物凄くぐっと来たんだよなあ、オレ…。なぜ、今日このライブで、清志郎の歌の次にこの曲を続けてやったのかはわからない。もしかしたら、これにもCHABOと清志郎だけが知っている秘密があるのかもしれないし、子供の頃はR&Rと共に映画音楽を良く聴いていたという、石橋凌に捧げる気持ちもあったのかもしれない。
そして、街の雑踏をSEに歌われた「My Home Townの夜」。これはぐっときた。この曲を初めて聴いたのは、ビルボード東京で行われた3Gでのライブだったと思うが、ずばり名曲。故郷の街でのある日の夜に、変わってゆく時代と、自信の孤独を滲ませた苦い歌詞が胸の奥にすーっと落ちてゆく。
ラストに久々に歌われた「R&R Tonight」も含め、この日のCHABOには、なんだか夏をキーワードに、自身の記憶を遡りながら現在の立ち位置を今一度確かめているようなタッチを感じた。

アンコールは一転して楽しいCHABO×石橋凌のセッションタイム。
サプライズは、明日の出演が予定されていた伊東ミキオが登場したこと。確かにステージ奥にはグランドピアノが用意されていたけれど、てっきりそれは2日め、3日め用の準備だと思っていたので、これは嬉しかった。赤いコンポラスーツで登場したミッキー、久々に見る気がするけどやっぱり若いころの清志郎に似てるなあ~(笑)。

セッションは「ROUTE 66」や「GOT MY MOJO WALKIN'」など、二人の共通のルーツと思しきスタンダードが次々に飛び出す楽しさ満点のステージとなった。
でも、やっぱり僕がグッときたのは、「横浜ホンキートンク・ブルース」だなあ…。これが今日聴けるとは夢にも思わなかったし、これをCHABOが演奏するとも夢にも思わなかった。この曲は、僕にとってはやっぱり松田優作のイメージが強い。生前の優作と親交のあった石橋凌にとって、これは大切な曲なんだろう。CHABOと藤井一彦がそれぞれソロを取り合うのも聴きものだった。
この後、「いいことばかりはありゃしない」に続いて、「STAND BY ME」という、もうこれ以上ないぐらいに贅沢なセッション。最後の最後は、CHABO自身がどうしても聴きたいということで石橋凌による「SOUL TO SOUL」。うーん、素晴らしい…。

全ての曲が終わると、いつものCHABOのライブ同様、恒例の「What A Wonderful World」が流れ、全員がステージ中央に並んで深々とお辞儀をする。この時、観客は彼らが頭を下げたタイミングで立ち上がるのがお約束なのだが、この日はステージでCHABOたちが並ぶともう観客がスタンディング・オベーションしてしまっていた。これは、それだけこの日のライブが素晴らしく、観客が感動した証ではないかと思う。

80年代からシーンを走り続けてきたCHABOと石橋凌の2人にとって、そして、二人を見続けてきたファンにとって、この夜はまるで旧友と再会する時のような嬉しさに溢れていたはず。
そして僕は、まるで昨日のことのように思っていた80年代がこんなにも遠くになってしまったことと、CHABOと石橋凌がいつの間にかこんなにも大きな存在になってしまったことに気付き、ちょっとため息が漏れてしまったのであった。

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コメント

はじめまして。いつも、密かに読ませていただいてます。
私はARB派であり、更にグルーヴァーズのファンでもあるのですが、
このライブはチケットが取れず、泣く泣く諦めました。
CHABOさん&凌さん、という取り合わせもさることながら、
CHABOさん&一彦さん、二人のギタリストが並ぶところが見てみたかったんですよね。
HAGAさんが書いて下さったので、貪るように読ませていただきました。
ありがとうございました。

◆nemuriさん
はじめまして。コメントをいただきありがとうございます。
ちょっとレポでは藤井一彦の記述が少なかったですが(苦笑)、彼のプレイはさすがでした!CHABOとのコンビネーションもばっちりだったし、やっぱりRCのファンだったんでしょうね、ソロをとった後に思わずCHABOとハグしたりという微笑ましいシーンも見られました。CHABOと石橋凌の組み合わせなんて、少し前までは考えられないことだったと思うんですよ。やっぱり、長いキャリアを経てこそこういう共演ができるんだと思うんです。そう思うと、歳をとるのも決して悪いことばかりじゃないなあ、なんて思ったりもします。

行かれたんですね。
僕は…行けませんでした。

1980年に高校に入学した僕にとって、
RCとARBは最重要バンドでした。
若すぎて、RCはコピーできなかったけど、
ARBはコピーバンドをやってました。

思い入れが強すぎて、
凌に対して批判的な思いを持ったこともありました。
でも、それでもHEATWAVEのリズム隊、一彦、ミッキーという、
大好きなメンツで録音されたソロを買って、
その声を聞いたら……やっぱり、好きなんですよね。
凌の歌が。

ハイティーンのころ、夢中になったものというのは、
なかなかに尾を引きますね(笑)

◆Rakuさん
>ハイティーンのころ、夢中になったものというのは、
なかなかに尾を引きますね(笑)

僕も自分の中の80%ぐらいはハイティーンの頃に出来上がっていて、今はその余波で生きてるような気がしていますよ(笑)。しかし、今思い返しても、80年代の日本のロックってのは良いバンドがたくさんあって勢いがありましたねえ…。

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