「セツナグルーヴ2012」リクオ、ゲスト:高野寛、サポート:橋本歩(チェロ)/阿部美緒(ヴァイオリン) / 2012年9月1日(土)渋谷BYG
「セツナグルーヴ2012」
【出演】リクオ(歌&ピアノ) ゲスト:高野寛(歌&ギター) サポート:橋本歩(チェロ)/阿部美緒(ヴァイオリン)
前¥3500 当¥4000(ドリンク別)開場18:00 開演19:00
5月以来、久々に観るリクオのライブ。っていうか、リクオ自身、東京でのソロライブは結構久々なはずだ。今年の前半はイベントとMAGICAL CHAIN CLUB BANDでの活動が多かったリクオ。久々にホームのBYGに帰ってくるんだから、当然この夜は今年前半の活動で得たものを色濃く反映したライブになるだろう。プラス、これも久々のストリングス隊との共演に、高野寛との東京初共演というおまけ付き。これは見所満載だぞと、僕はだいぶ前からこの夜を楽しみにしていたのだ。
期待どおり。いや、期待以上と言っていいだろう。いつものようにグル―ビーなピアノでお客さんを楽しませ、軽快なトークで観客の笑いをとる場面もあったけど、この日のリクオはいつもよりちょっとシリアスなタッチ。MCはいつもより少なめで、セットリストも歌の中に籠められた思いにじっくり耳を傾けたくなるようなものを中心に組まれていたように思う。
新曲もたくさん演奏された。それらの中には、これまでの彼の曲とはちょっと毛色の異なるものもあったように思う。そういった曲をこれまでのレパートリーの中に置く時、どういうふうに配置していけば自然に聞こえるかというようなことにも、リクオはこの日果敢にトライしていたのではないだろうか?
それを特に感じたのは1部後半だ。僕は間違いなく1部のハイライトは「アリガトウ サヨナラ 原子力発電所」だったと思っているのだが、そこに持っていくまで、リクオは「同じ月を見ている」と「はかめき」というポエトリー・リーディングを2つ畳み掛けたのだ。リクオのレパートリーの中でも、歌詞をじっくりときかせるタイプの2曲で観客の心をつかみ、MCで「じゃあ、最近作った“別れの歌”を歌います」と言って、「アリガトウ サヨナラ 原子力発電所」を歌った流れは見事という他ない。
この曲、僕もナマで聴くのは初めてだったんだけど、これまでのリクオの文脈からして、ある意味最も“らしくない”歌だ。良い悪いではなく、これまで歌ってきたリクオの歌と明らかに異質。歌詞に「原子力発電所」という言葉が出てくるたび、なんだか居心地の悪い気持ちになってしまうことは否定できない。だが、聴いているうちに、これは原発事故への直接の批判や怒りを表現したものではないということに気が付いた。これは、リクオが言うように原子力発電所との“別れ”をモチーフに、僕ら自身のこれまでの生き方を変えていこうとする出発の歌でもあるんじゃないかと思ったのである。そして、それは2部の最後の方に歌われた新曲「永遠のDOWNTOWN BOY」にも共通するテーマなんじゃないかと僕は思った。
リクオの曲には、これまでもラブソングの形態を借りながら、そこに彼なりの時代感を色濃く感じさせたような歌があった。この日唄われた新曲には、そういった色をいっそう強く感じた。現状への疑問ややり切れなさは歌っているけど、決して声高に怒っているわけではない。もしかしたら、リクオの歌は全てラブソングなのかもしれないとすら思う。それでも、そこには彼の時代に対する意識が“きちんと”織り込んであるのが素晴らしいと思うし、やっぱりリクオは誠実な表現者だと思う。次々に歌われた新曲を聴いていて、僕はリクオに70年代のシンガー・ソング・ライターの影を見た。
期待の高野寛との共演は2部から。リクオと高野寛は大阪のイベントで一度共演しているらしいが、東京では初めて。ただ、同い年ということもあって、お互い昔から気にはなっていたようで、高野は1部からずーっと会場の隅でリクオの演奏を見ていた。
高野寛は、アコギを抱えての弾き語りスタイル。「虹の都へ」や「夢の中で会えるでしょう」など、僕でも知ってる代表曲を惜しげもなく披露してくれた。
実は、僕は高野寛の歌ってこれまではちょっとスピリチュアルな匂いを感じてあまり好きじゃなかったんだけど、ライブを見て随分印象が変わった。とても凝った曲調なんだけど、決して難しくなく聞こえてくる不思議な歌の数々。改めて職人気質のミュージシャンなんだなあ~という印象を強く持った。
高野寛のパートで特に強く印象に残った曲は、タイトルを失念してしまったんだけど、「90年代後半から2000年初めにかけて、スカパラの青木くんとか、どんととか、フィッシュマンズの佐藤くんとか、自分の親しかった人たちがどんどん亡くなってしまった時期があり、その時夜空を観ながら作った曲です」という曲紹介で唄われた歌。これ、リクオもピアノで演奏に参加していたんだけど、僕だけかもしれないが、曲調が大好きだったフィッシュマンズの「ナイトクルージング」を髣髴させるものでぐっときてしまった。うーん、夏の終わりのこの季節に、予想もしないところでこんなふうにフィッシュマンズの影と出会うと、やっぱり効くなあ…。
アンコールも含め、最後の最後は二人の共通項である、忌野清志郎のナンバー「デイ・ドリーム・ビリーバー」でエンディングとなった。
気が付いたら、休憩時間を抜かしても2時間半を超えた長いライブ。でも、内容が濃かったせいで少しも長く感じなかったなあ~。
これまでとは違う次元の歌を書き始めたリクオ。これからの展開がますます楽しみになった。もしかしたら、この夜は何かが終わって何かが始まるライブだったのかもしれない。
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高野寛の名前に思わず反応(笑)デビュー当時よく聴いてました。
トッド・ラングレンが関わった時期あたり。
90年代後半から離れ、ここ2年でまた聴き出してライブにも行ってます。
リクオと共演って意外だけど、そうかキヨシロー繋がりですね。
因みに高野クン、ときどきライブで「500マイル」をカバーしますが、中々良いですよ。
>改めて職人気質のミュージシャンなんだなあ~という印象
ああ、これ何となく分かります。アルバムだと線の細さや
マニアックさが強調されるけどライブだと結構骨太だし
ギター上手いしMCも結構饒舌。デビュー当時を知るだけに
「大人になったなぁ」と感慨ひとしおです(笑)
高野寛の最近のアルバム「Raiwbow Magic」「カメレオンポップ」
は現代(いま)という時代に真摯に向かいあった良作です。
機会があれば是非聴いてみてください。
投稿: ながわ | 2012年9月 6日 (木) 22:04
◆ながわさん
>トッド・ラングレンが関わった時期あたり。
え、高野寛ってトット・ラングレンと関わってたんですか!知らなかった。うん、言われてみればあの凝った曲調はトッドラングレンっぽいような気がします。
>ライブだと結構骨太だし、ギター上手いしMCも結構饒舌。
そうですね。僕は細野晴臣バンドやYMOのライブでギターを弾いている高野さんは見たことがあったのですが、なかなか印象に残るギターを弾くなあと思ってました。
このライブではアコギ一本でしたが、それでもとても印象に残るギターだったと思います。エフェクトばりばりのニューウェイブ系ギタリストがアコギを弾くと、意外な巧さに驚くことがありますよね。この日もそれに似た感じでした。
高野寛、アルバム聴いてみたいと思います。リクオとの共演ももっと見たいですね。
投稿: Y.HAGA | 2012年9月 7日 (金) 10:48