DAVID BOWIE 「LOW」
鋤田正義さんの一連の写真展を観ていて、久々にこれを聴きたくなった。デヴィッド・ボウイのベルリン3部作の一つ、「LOW」だ。
これは僕が一番好きなボウイのアルバム。初めて聴いたのは、たぶん18の時だったと思う。ブライアン・イーノと組んで作られたサウンドは、シンセサイザーを多用したボーカルの比重が極端に少ないもの。B面なんか全部インストルメンタルで、荒涼としたシンセ・サウンドが延々続く。ヒットしたシングル曲があるわけでもなし、一聴するとかなり地味な印象を受けるかもしれないが、僕は一発でこのアルバムの世界に魅せられたんだよなあ…。
デヴィッド・ボウイは時代時代で様々なキャラを身に纏い、時代時代で自分を目まぐるしく変えていった。だけど、「LOW」に関しては何者にも化けていない裸のボウイの姿が窺える。この頃のボウイは、アメリカ進出に浮かれた代償としてドラックで心身のバランスを崩してしまい、自己崩壊の一歩手前まで行っていたとされる。すべてをやり直そうとしたボウイは、東西冷戦の象徴だったベルリンに滞在し、あえて厳しい環境に自分を置くことで人生を見つめ直したのである。実際、A面に集中している歌詞の入った曲やタイトルを見ると、“オレはいつも同じ車で事故を起こしてしまう”だの“人生の短さ”だの“新しい町で新しいキャリアを…”だの、どれもこれも自分の今の状況を憐れんでいるようなものばかりだ。
最初に書いたが、僕はこのアルバムに一発で惹きこまれてしまった。
個人的なことを言うと、僕がこのアルバムを初めて聴いたのは、大学受験に失敗して鬱々とした浪人生活を送っていた頃だった。だから、新しい環境を手に入れたいともがく心境と、アルバム全体に漂う暗いタッチが、自分の当時の環境とダブり、比較的感情移入しやすかったのかもしれない。
周りのロックファンに聞いてみても、このアルバムに関しては、“聴きこんでからいいと思うようになった”みたいな意見はあまり聴かないなあ…。最初に聞いて“?”と思ったか、一発で好きになったかのどっちかで、そのイメージをずーっと持ち続けてる人が多い。たぶんそれは、このアルバムに収められた曲が、万人向けの解り易い次元まで作りこまないまま、原石に近い状態で収録されているからだと思う。
一般的にはこの次の作品「HEROES」が、ベルリン3部作の最高傑作とされているが、僕的にはあれはもう“立ち直ってしまった後”のものなのだ。確かに完成度は「HEROES」の方が高いし、タイトル曲はロック史に残る名曲だとは思う。だけど、ボウイの個人的な葛藤が赤裸々に出てるのは明らかに「LOW」の方。「RODGER」になっちゃうと、もはや余裕すら感じられるようになっちゃうし…。
「LOW」は、ある意味聴き手を突き放したような冷たさをも感じるのだけれど、こちらから当時のボウイの感覚にシンクロするつもりで聴いていくと、何物にも変え難い耽美的な世界が広がっていくのを実感できる。キャリアの長いデヴィッド・ボウイだけど、このアルバムほど“ヒリヒリ”感が感じられるものは他にない。
僕はこのアルバムのジャケットも大好きだ。
オレンジのバックに、ダッフルコートの襟を立てて髪をオレンジに染めたボウイの横顔がぼわ~っと浮き上がっている。カラーコーディネートの常識を無視しているかのような、奇妙な色彩感覚なのだが、アルバムのサウンドはこのビジュアルイメージそのものとしか言いようがない。常軌を逸したドラムの音量バランスも、調子っぱずれなギターのリフも、シンセ音の浮遊感も、この滲んだオレンジのジャケットにじわ~っと染み込んでいくような感じ。よくもこんなデザインを思い付いたものだと思う。
実は、この衣装は、同時期に撮影されたボウイの主演映画「地球に落ちてきた男」のビジュアルをそのまま使っている。この映画の冒頭で、地球に落ちた異星人役のボウイは、濃い緑のダッフルコートのフードを被ってふらふらと荒野を彷徨うのだが、ありふれたダッフルもボウイが着るとほんとに異星人が着ているみたいになってしまうのだ。
ファッションにちょっと詳しい人ならすぐにわかると思うけど、実は襟の付いてるダッフルコートってのはあんまりないんだよね。僕は、このジャケットに触発されて襟付きダッフルを探し回ったことがあるんだよなあ…(苦笑)。結果買ったのはブルックス・ブラザースの黒のダッフルだった。
もう10年以上も前の物だけど、冬になると今でも時々このダッフルに袖を通す。
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