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2012年9月12日 (水)

【映画】 夢売るふたり/西川美和監督作品

Yumeuru

この映画は、「ゆれる」「ディア・ドクター」に続く、西川美和監督の長編3作目にあたる。
この女性監督は、人間関係に歪が生じたときの気持ちの揺らぎを表現するのがすごくうまいと思う。観終わった後に爽快感を感じるようなものでは決してないが、いつまでも消えない不思議な余韻があり、観終わってからもしばらくは“いったいあのシーンはどんな意味があったんだろう?”とずっと考えさせられてしまうのだ。前2作で、すっかりこの監督の才能を思い知らされた僕は、3作目のキャストに松たか子と阿部サダヲが選ばれたと聞き、映画の完成をずっと楽しみにしていた。

今回も、脚本は西川監督の完全オリジナル。彼女は3年前にこの構想を思いつき、雑念を取っ払うため広島の実家に引き籠ってホンを書いたそうだ。
松たか子と阿部サダヲが演じる夫婦は、小さいながらも評判のいい小料理屋を経営して幸せな毎日を送っていた。ところが、ある日ふとした火の不始末で店が全焼してしまう。二人はもう一度店を持とうと一から出直すことを決意し、松は近所のラーメン屋で働き始めるのだが、根っからの料理人気質の阿部は、勤める店の先々で問題を起こしてしまい、鬱々とした日々を送ることになる。
そんなある夜、阿部は駅でかつて店の常連だった鈴木砂羽が泥酔しているのと遭遇する。実は鈴木は浮気相手が事故で亡くなり、その弟から手切れ金を渡されたばかりで自暴自棄になっていたのだった。二人はそのまま一夜だけの関係を持ってしまう。翌朝、鈴木は阿部に店の再建の夢を託し、受け取ったばかりの手切れ金を持っていてくれと言い出す。最初は拒絶していた阿部だったが、結局は“必ず返す”と約束して金を受け取ってしまう。
この夜のことはすぐ松にバレてしまうのだが、この時松は阿部の意外な才能に気付くのだ。つまり、これまでは優しいだけが取り柄の冴えない男だと思っていた自分のダンナに、実は詐欺の才能が隠れているのではないかと。適切な相手に最高のタイミングですり寄れば、この人はごくごく普通に振る舞うだけで女心を開かせてしまえる…。かくして、松が糸を引き、阿部が詐欺師を演じる夫婦二人がかりの結婚詐欺が始まってゆくのだ。

この計画、はじめは怖いぐらいにうまくいくのだが、成功する毎に二人の間には微妙なさざ波が立ってゆく。阿部はもともと“できた女房”にコンプレックスを持っていたし、もともと気持ちの優しい男だから、本当は女たちを騙すのに後ろめたさを持っていたんじゃんまいかな…。そして、無理してやってるうちに段々と心の奥に澱が貯まってしまうのだ。松は松で阿部が詐欺にのめり込んでいくにつれ、いつか本気で騙す相手を愛してしまい、いつか自分のもとを去ってしまうのではないかという恐れを抱き始める。

この揺れる二人の心理描写こそ西川監督の真骨頂。っていうか、思うにこの人が映画で描いているテーマは、カタチは違えど3作すべて同じだと思うんだよね。それは、今目の前にある幸せな人間関係も、何か事が起きるとどうなっていくのかわからないってことだ。
「ゆれる」では、一人の女を死なせてしまったことをきっかけに、兄と弟がそれまで隠していた本心を曝け出す。「ディア・ドクター」では、医者として村で尊敬を得ていた男が、ニセ者だとわかったときの人々の反応が淡々と描かれる。今回は、それを詐欺を重ねる夫婦の間と彼らを取り巻く女たちとの間で描いてみせたわけだ。

そして、これも西川さんの得意ワザなんだけど、前2作同様、ラストにいろんな解釈ができるシーンを挟み込んでいるのだ。あんまり詳しく書くとネタバレになっちゃうんで、これ以上の記述は控えるけど、ネットで感想を調べてみたら、案の定、観た人それぞれがいろんな考えを述べていてとても面白かった。

因みに、オレはこのラストシーン、ハッピーエンドだと思ってるんです。ここからはオレ流の解釈なんだけど、実は初めのうちは、二人とも本格的に詐欺を続ける気はなかったんじゃないかと思うんだよね。だって、金を騙し取るたびに、いちいち借用書書かせてんだもん、この二人(苦笑)。つまり、だまし取った金は、一時“借りる”みたいな感覚で、いずれ店が持てたらお金を徐々に返していこうと思っていたんじゃないかと僕は思うんだよなあ…。松にしてみたら、鈴木砂羽と浮気した阿部に対するお仕置きとして、一種の冗談みたいな気持ちで始めたところがあったのかも。
ところが、阿部が詐欺の対象となるべき相手に本気で同情してしまったりするのを見て、いろんなことに気が付いちゃったんだな。まず、自分がいないと何もできないと思っていた夫が、こりゃあ私無しでも十分やっていけちゃうのでは?ということに気付いてしまう(当の阿部は全然そんなこと自覚してないのに…(苦笑))。
詐欺のカモである女性からもいろんなことに気付かされる。まずは、重量挙げでのオリンピック出場を夢見ている女。最初は醜い容姿を上から目線で見てたのに、阿部がその生き方に本気で共感しているのを見て、自分にはこれまで自らの意志で人生を選んだことがないことを思い知らされてしまうのだ。決定的なダメージとなったのは、阿部がカモであるシングルマザーと彼女の一人息子と仲良しになってしまい、まるで家族の一員であるかのように溶け込んでしまったこと。あんなに幸せそうなのに、自分には子供ができない。そもそも阿部と松はセックスレスなのだ…。
詐欺がうまくいく毎に気持ちが離れていくのだけれど、もう一度店を持つという夢が二人の最大の共通項だから、もう引くに引けなくなってしまった。後半はそんなところもあったんじゃないかと僕は思うんだけど。

この詐欺生活は、やがて意外な結末を迎えて終わるんだけど、これで二人はほっとした部分もあったんじゃないかなあ?
阿部は結果的に仲良くなった子供を助けるようなカタチになったし、松は松で自分の生き方を見つけることができた。ラストはそんな暮らしを続けていた松のもとに、やっと阿部が帰ってきた場面だと僕は解釈した。むしろ、ここからが二人にとっての本当のスタートだったんじゃないかって思ったんだけどね。

でも、これはたぶん男と女で見方は大きく違うはずだ。もしかしたら、結婚経験があるかないかでもだいぶ違うかも。
オレ、最初は、これはうちの奥さんと一緒に観て感想を聞きたかったな~って思ったんだ。だけど、すぐに“ああ、独りで観て良かった”と胸を撫で下ろしましたよ。だって、どう考えたって男に分が悪い映画です、コレは(苦笑)。
まあ、どっちもどっちなんだけど、僕はやっぱ松みたいな連れ合いがいたら大変だと思う。そもそも、彼女がそそのかさなかったら、阿部は詐欺なんかしなかっただろう。でも、そんなことうちの奥さんに言ったら、そもそも阿部サダヲが最初から雇われでもなんでもいいから地道に働いていて、鈴木砂羽と浮気なんかしなければ済んだ話じゃない!って言い返されるに違いない。絶対喧嘩になるぞ、これ(苦笑)。

いやあ~今回もいろいろ考えさせてくれました。最初“どうよ?”と思った松たか子と阿部サダヲのコンビも抜群だったし、心理ドラマが好きな人なら絶対面白く観られる映画だと思います。
でもねえ、これはデートには向かないし、まして夫婦で観るなんてとんでもないです。観るなら一人でこそこそ映画館に行ってください(笑)。

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コメント

ボクも西川監督好きなのでこの映画見てきました。
覚悟はしてましたが矢張り結論がハッキリしない終わり方で
1週間経っても色々考えています。この監督はそこが良いんですが笑。

最初、貫也のあまりのダメさに笑いましたが次第に身につまされました。
大きな事言っても肝心なことはダメ。大事な事は妻に頼りっぱなし。
里子が店の再開という夢に一生懸命なのに貫也は簡単に飽きてる。
どうしようもないなぁ。ダメだなぁ。何か自分を見てるみたい笑。

ラスト。ボクはHAGAさんと少し見方が違います。
あの2人相互に依存して束縛して一緒に居ても絶望しか待ってない。
もう限界。だから妻は夫を捨てて逃げた。夫は「あえて」捕まった。
相互に離れて「自立=開放」されたのかな?って思いました。
貫也は最後晴れ晴れした表情で、里子も凄くシッカリ生きてて。
今はムリでもそれぞれチャンと生きてまた再会して一緒になって
ほしいなぁ、そんな風に思いました。

モヤモヤした終わり方だけど凄くハッピーな気分になれました。
西川監督の描く人物って何処か欠落しててダメだけど何か好きになるんですよね。

この映画、妻を誘いましたが見事に拒否されました。
「ぐるりのこと」は一緒に行ったのに。
でも、一緒に見なくて良かったかな?
妻に「貫也、キミに似てる」って絶対言われそうです(笑)

見るたびに感想が変わりそう。DVDになったらまた見てみます。
そのときは妻にも見せて感想聞いてみます(怖いけど笑)

投稿: ながわ | 2012年9月13日 (木) 22時11分

◆ながわさん
なるほど~。ながわさんの見方、とても面白く読ませていただきました。
最後はやっぱり二人、別れたのかなあ…。僕はラストのラスト、松たか子の誰かに微笑みかけたような表情がずっと気になってたんですよね。あれで刑期を終えた阿部サダヲが帰ってきたと思ったんですけどね。

>今はムリでもそれぞれチャンと生きてまた再会して一緒になって
ほしいなぁ、そんな風に思いました。

うんうん、ながわさんと僕とで解釈は違いましたが、また二人が再開すれば今度はうまくいくんじゃないか…みたいな期待を持たせますよね。

あと、思ったんですが、これは奥さん役が松さんだから共感したのかも、っても思ってるんですよ。たとえば、もし鈴木砂羽と松たか子が逆だったらとか思うと…(笑)。個人的には砂羽さん、好きな女優さんなんですが、砂羽さんが詐欺師の奥さんだったらちょっとアクが強すぎですて好きになれないかも(苦笑)。松さんの不倫OLってのもデキ過ぎてる気がしちゃうでしょうしね。
そういった意味では、キャスティングも絶妙でした、この映画。

投稿: Y.HAGA | 2012年9月14日 (金) 14時16分

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