『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』/円堂都司昭 (著)
大変面白く読みました。いやあ~、これはもしかしたら僕みたいなおっさんの音楽好きが、今の多様な音楽の接し方を俯瞰するには最適のテキストかもしれないです(苦笑)。
タイトルどおり、円堂さんは音楽のきかれ方が「聴く」から「遊ぶ」に変わっていっていることを、いろんな事例を挙げながら語っていきます。著者が基本的な考え方のフレームとして出してきたのが「分割」「変身」「合体」という3つの単語。
タイトルどおり、円堂さんは音楽のきかれ方が「聴く」から「遊ぶ」に変わっていっていることを、いろんな事例を挙げながら語っていきます。著者が基本的な考え方のフレームとして出してきたのが「分割」「変身」「合体」という3つの単語。
分割:「作品」としてのまとまりを分割、分解する手法。(例:音楽配信=アルバムでなく曲単位への購入スタイルの変化。フェスティバル=アーティストの単独ライブではなく、雑多なジャンルをバイキング形式で楽しむスタイルへの転換)
変身:音楽の形を変える手法。(リミックス、マッシュアップ、着うたなど)
合体:音楽に関し、それを作り演奏したアーティスト以外の人間がかかわる(合体する)ことで遊ぶ(ボーカロイド、音楽ゲーム、エア芸、アーティストとタイアップしたパチンコなど)
こんな感じです。今の若者の音楽への接し方を見てると、確かにこの3つのスタイルに当てはまる割合はすごく高いように思います。そして、このフレームで「遊ぶ」連中も増えてますよね。ニコニコ動画に「歌ってみた」「踊ってみた」って自作の動画をアゲる連中、たくさんいるでしょ?カラオケだって「合体」の形態の一つ。CDが売れなくなったって言うけど、今の若者が音楽そのものと接してないわけでは決してないんだよね。ただ、そのやり方が僕らとはだいぶ違うかもしれないけど…。
円堂さんは、こういう変化はどっかを節目に突然パッと変わったわけじゃないとも言ってます。古くはウッドストックやカラオケなどを通過することで、徐々にリスナーが受容する空気が出来あがったんだと。若者と僕らおっさん世代は別に分断されてるわけではなく、むしろ、僕ら世代も今みたいな状況が生まれる芽をいくつも育てながらここまで来ちゃったってこと。まあ、通信カラオケはネット配信の走りと言えなくもないし、口パクやってるPerfumeや楽器を演奏しないゴールデンボンバーが認められてるってのも、時代の空気を読んでの暗黙の同意事項が出来あがってるからなんだろうし…。
でも、どうなんだろう…。ぼくはやっぱり音楽は「作品」だと思う。そういうのを自分の手で加工して「遊ぶ」のにはものすごく抵抗を覚えてしまいます。逆に、そんな風なやり方でしか音楽と接することができないのなら、それはもはや僕が思う音楽の概念とは違っちゃってるような…。ただ、じゃあサンプリングやDJプレイもダメかって言ったらそうでもないわけで、その辺の線引き基準は自分でも良くわかりませんけど…。
一つ思うのは、ネットや携帯電話の発達が社会のいろんなモノのソーシャル化を進めたと僕は思うんだけど、音楽に関して言えばそこで失われたものって決して小さくはなかったと思うんです。つまり、生まれた時からそんな環境が当たり前だった若者たちにとって、音楽を聴く道具は圧縮音源を使った携帯プレーヤー、パソコン、携帯電話しか思い浮かばなくなっちゃってるじゃないですか。僕らはそれ以上に音の良いものも知ってるけど、若者たちはそもそも音の良さより使い勝手と面白さ優先だから、そんなものに触手を伸ばさない。まして、今の若者にとって欲しいものの優先順位は一にスマホ、二にパソコン。楽器なんてのはずーっと後ろでしょ。そう考えると、バンドをやるなんてのは限りなくマニアックな行為なんだよなあ(苦笑)。こんな状況だったら、洋楽が売れなくなるのもしょうがないのかなあ、なんて…。
この前、「J-POPのグローバル化」についてのシンポに出た時も思ったんだけど、僕らの世代が死んじゃった後、音楽ってどうなっちゃうんでしょう?スピーカーの前でただ耳を傾けること自体が、ものすごくマニアックな行為になっちゃったりして…(苦笑)。なんか、そういうのすごく嫌だなあ。理屈じゃなくて生理的になんかすごく嫌。単なるおっさんのノスタルジーって言われちゃうかもしれないけど…(苦笑)。
« Magical Chain Special ~ early summer 2013 ~ 「オトナ・ロックナイト」/ 2013年6月2日(日) 横浜 ThumbsUp | トップページ | 細野晴臣「Heavenly Music」コンサート/2013年6月08日(土)日比谷公会堂 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「線量計と奥の細道」ドリアン助川 著(2018.11.04)
- 音楽配信はどこへ向かう? アップル、ソニー、グーグルの先へ…ユーザーオリエンテッドな音楽配信ビジネスとは?/小野島 大(著)(2013.07.08)
- キャパの十字架/沢木 耕太郎 (著)(2013.06.11)
- 『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』/円堂都司昭 (著)(2013.06.06)
- 【本】社会を変えるには (講談社現代新書)/小熊英二(2012.12.03)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« Magical Chain Special ~ early summer 2013 ~ 「オトナ・ロックナイト」/ 2013年6月2日(日) 横浜 ThumbsUp | トップページ | 細野晴臣「Heavenly Music」コンサート/2013年6月08日(土)日比谷公会堂 »
多くの若者にとって音楽っていうのは、アートじゃなくてコンテンツってことですよね。人それぞれいろんな楽しみ方がいろいろあっていいとは思うけど、コンテンツとしての音楽って単に消費されるだけのものに成り下がってしまうような気がしてしょうがないです。
投稿: | 2013年6月 6日 (木) 22:51
>多くの若者にとって音楽っていうのは、アートじゃなくてコンテンツってことですよね。
そうなんですよねー。だから、YouTubeなんかでもそこそこ楽しめるんでわざわざお金出して買おうとは思わないんでしょうね。
僕らの頃って、ちょっとグレ出すとツッパリに走るかバンドをやるかってパターンがあったけど、今の若者はラップとかダンスに走るんですって(笑)。確かにそっちの方が金かかんないもんねー(苦笑)。
投稿: Y.HAGA | 2013年6月 7日 (金) 08:46