今年初、そして自分にとっては2度目となるフルマラソンを走ってきた。
今回エントリーしたレースは、千葉県の房総半島で行われる「館山若潮マラソン」だ。東京からはちょっと遠い地で行われる大会だが、過去の写真を見たところでは、菜の花なんかも咲いていてなんだか暖かそうな雰囲気。潮風を受けながら海沿いの道を走るのはきっと気持ちいいだろうなあ~。そう思って軽い気持ちで申し込んだのだが、いやあ~甘かった!真冬の寒さとアップダウンの激しいタフなコースに翻弄され、とんでもなく過酷なレースになってしまった。
なんとか完走はしたものの、タイムは昨年11月のつくばマラソンより11分も遅い4時間17分。身体には相当のダメージが残り、ゴール後は足を引き摺りながら帰路に着く有り様だった。
この日は朝からどんよりとした雲が空を覆う真冬の天気。房総半島の突端にある館山は、まるで地の果てに来たような感じだった。寒い。ものすごく寒い!走る前から、冷たい風が容赦なく体温を奪っていく。スタートは10:00だったんだけど、それを待っている時間がものすごく長く感じられた。だけど、こんな辺鄙な場所での大会にも、全国から1万人以上のランナーが集まってくるんだから驚く。うーん、世のランニングブームってのは凄いや…。まあ、オレもその一翼を担ってるわけだけど…(苦笑)。
マラソンは、寒い日でもTシャツで走るのが基本だ。走ってれば暑くなるし、上着を着てると走ってて邪魔になる。しかし、この日はあまりの寒さにジャージや薄いジャケットを羽織って走る人が多かった。もちろん僕もウィンドブレーカーを着て走ることに。
ここでひとつ失敗したのは、荷物の中から手袋を出すのを忘れてしまい、素手で走らなければならなくなったことだ。マラソン大会は大抵の場合、荷物預かりが準備されているんだけど、参加者が多い大会だと1回荷物を預けちゃうと再度探してもらうのはなかなか大変。係員の手を煩わせるのは気が引けるし、結局、ピックアップはあきらめ、かじかむ手に息を吹きかけながら走った。だけど、これも寒さで体力が奪われる大きな要因になってしまったと思う。箱根駅伝でランニングシャツに手袋を着けたランナーの姿でわかるように、手先は身体が温まっても最後まで冷えたままなのだ。
そんなこんなで、最初からテンション下がりっぱなしだったんだけど、意外にも走り始めはけっこう好調で脚が軽く感じられた。これはレース前の2週間、けっこう意識して休足日を作っていたせいだと思う。だが、ここで自分の力を過信してしまったのが後々響くことになった。
そもそも、最初僕はこのレースを来月の東京マラソンを見据えて、ロング走的な意味合いで考えていたのだ。自己ベストの更新なんかは考えず、無理のない範囲で余力を残して走り切るつもりだった。だが調子の良さについ色気が出てしまい、知らず知らずにペースがアガってしまっていた。気が付いたら、15キロあたりは1キロあたり5分30秒台で走っていた。
ところが、このコースは予想以上にアップダウンが激しかったのだ。急な坂はないもの、次々に傾斜が現れ、平坦な場所の方が少ないぐらい。そのせいか、20キロあたりから右脚に違和感を感じるようになってきた。膝の内側が鈍く傷みだしたのだ。実はここは前々から自分のウィークポイント。長い距離を走ると痛みを覚えることがたびたびあったのだが、まさか20キロでくるとは…。まだゴールまで半分も残ってるじゃないか!
たぶん、激しい上下動のおかげでふだんより早く脚が消耗してしまったんだろう。上り坂より、下りがキツイ。とにかく膝が痛くて、とても5分台のペースじゃ走れない…。
25キロ過ぎからは、地獄の苦しみだった。痛みを騙し騙し走り続けたが、ペースはずるずると落ちていき、1キロ6分30秒台まで急降下。これはふだんのジョギングペースよりも遅いぐらいだ。ふと周りを見ると、苦しいのは僕だけじゃないみたいで、みんな軒並みペースが落ち、とぼとぼと歩いていたり、道端でストレッチをしたりするランナーが続出していた。自分も、とにかく歩かないことだけを考えてゴールをめざす。
そんな苦しい中で力づけられたのは、地元の人たちの暖かい声援だ。おじいちゃん、おばあちゃんが「がんばれー!」と声をかけてくれる。大会役員ではなく、私設エイドとして庭先で食べ物や水を用意してくれている人たちがいる。赤いほっぺの少年たちが、無邪気な笑顔でハイタッチを求めてくる。オレはこういうのに弱い。ものすごく弱い。名も知らぬ僕なんかの為に、どうしてこの人たちはこんなにも優しくできるのだろう…。後半はもうほとんど泣きそうになりながら走った。
35キロからの7キロは、本当に本当に本当に長かった。ふと海に目をやると、房総の海はとても綺麗だった。暖かい春の日に来れば“ひねもすのたり”で、きっとのどかなんだろうなあ…。でも、今は乾いた冷たい風を容赦なくランナー達に叩きつけてくる、鬼のような様相だ。
スタートしてから4時間17分。這うようにしてなんとかゴールに辿りついた。もう、体力、気力ともに限界。ものを言う力すら残ってなかった。とにかく終わった…。帰りの高速バスの中、僕は死んだように眠りこけてしまった。
今回のレースはいろんなことを教えてくれたと思う。
ひと言で言うと、たかだか1回ぐらいフルマラソンを走ったぐらいで調子に乗るな!ってことだな(苦笑)。同じ42.195キロでも、館山はつくばマラソンの走り易さとは雲泥の差。今回のタフさに比べれば、つくばなんてトラックで走ってるようなもんだ(笑)。マラソンはコースによって難易度に大きな差がある。やっぱり、事前にコースの状態をきちんと頭に入れておくべきだった。あらかじめコースのタフネスぶりがわかっていれば、もう少しうまく対応できたかもしれない。
それから、自分の決めたペースを守ることはやっぱり大事。たとえ調子が良くても中盤でぶっ飛ばしたりせず、キロ5分50秒をひたすらキープしていれば、これほど辛いレースにはならなかったかもしれない。レースにむかう自分のモチベーションも中途半端だった。最初からサブ4を狙っていくのか、東京マラソンへの繋ぎなのか、そこをもっとはっきりさせておけばレース中に迷うことはなかったと思うのだ。
でも、死ぬほど辛い思いをしても、やっぱりマラソンは面白い。だって、これほどの苦しみ、痛みを手軽に(?)感じることって他にそうそうないだろ?ボクシングやレスリング、そしてマラソンのように、チームスポーツより孤独と向き合う競技に快感を覚える人種がいる。僕がまさにそうで、マラソンをやるようになってますます自身のM体質を自覚するようになった(笑)。マラソンは走り続けるのも、脚を止めるのもすべて自分次第なのだ。その緊張感と、やり遂げた後の達成感がたまらない。
これはライブなんかに行って感じる快感とは180℃違う。ライブの観客として感じる快感ってのは、あくまでも受け身だと思うのだ。観客はプレイするミュージシャンの波動を受け止める側。それに対し、マラソンの快感ってのは、プレイするミュージシャン側の方に近いのではないかと思う。自分で波動を起こし、より能動的で生々しい。どっちがいいとか悪いとかという話ではなく、僕の中ではそういうことなのだ。自分で波動を起こして弛んだ自分に渇を入れる。今の僕にはそれがとても大事なことなのだ。
来月は東京マラソンを走る。まあ、館山を経験してるんだから、これより苦しいことはないんじゃないかと思うんだけど甘いかなあ?石原さんは雨男だからなあ。当日は大雪だったりして…(苦笑)。でも、どんな状況になろうと、いつでも42.195キロを走れる男になっていたいと強く思う。たとえ地震で帰宅困難になったって、淡々と走って家族を守れるぐらいになりたいもんです。人間、極限状態になったら頼れるのは体力だもんね。
な~んて言いつつ、今日はちょっとスポーツマッサージに行って身体をほぐしてきますわ。ちょっと使い物にならないぐらい酷い筋肉痛なんで…(苦笑)。
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