山口洋(HEATWAVE)

2012年5月 4日 (金)

山口洋 MY LIFE IS MY MESSAGE -solo2012 / 2012年5月4日(金・祝)吉祥寺・Star Pine's Cafe

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このツアーを観るのは、先月の横浜Thumbs Upに続いて二度目だ。横浜で驚いたのは、ライブに「ヒロシと話そうコーナー」があったこと。なんと、ヒロシが「何か聞きたいことない?」と客席に直接問いかけるのだ。これは、今までの山口洋のキャラクターを思うと、まったくもってとんでもないことである(苦笑)。今回のツアーは、MY LIFE IS MY MESSAGEプロジェクトとの一環として、山口洋と仲間達がピンポイントで復興を支援している福島県南相馬市の今を伝えることも目的のひとつとなっている。こういうコーナーを設けたのは、ヒロシが観客に音楽をただ受け止めるだけでなく、この国で今起こっていることに関して、観客一人ひとりに能動的に考えて欲しいという問いかけをしているのだろうと僕は受け取った。

だからこそ、僕は横浜のライブを観終わって、とてももやもやした気持ちになったのだ。もちろん、それはライブに対してではない。何も発言しなかった自分の態度に対してだ。後述するが、僕は今回の原発事故において、それを絶対に静観することの許されない立場に置かれている。そんな僕がこういう機会で沈黙してしまった。それがすごく情けなかった。このままでは、僕はずっと後悔し続けることになる。幸い首都圏では吉祥寺でまだライブがある。正直に言うと、僕は最初このライブに来るつもりはなかったが、僕はそこに足を運んで何かを発言しなければならないと思った。そうしないと自分で自分を許せなかった。

僕は福島県福島市の生まれだ。3.11の震災による原発事故で、僕は自分の体が真っ二つになってしまったような感覚を持つようになった。ひとつは福島という地に生まれたフクシマ・チャイルドとしての自分。もうひとつは危険な原発を遠くに置き、故郷福島で作られた電気をだらだらと使い続けてきた東京人としての自分。このパラドックスは自分をどうしようもなく苦しめる。東京でのお気楽な暮らしは、自分の故郷で生きる人たちに危険なリスクを強いた上で成り立っているものだったのだから。
そして、現実に故郷は汚された…。少年時代を過ごした思い出の野山は、高い放射線量のために近づくことさえできなくなり、古い友人や親戚は、放射能による低線量被曝の不安を抱えながら生きている。年老いた両親もまだ福島県内で暮らしたままだ。

3.11以来、若いころは愛憎半ばだった福島に、僕は時間を見つけて帰るようになった。帰らずにはいられないのだ。そこは世界で一つしかない僕の故郷なのだから。放射能という目に見えない敵に苦しむ故郷のために、少しでも何か手伝えないか…。そんな想いに胸を焦がしている。僕の想いは、喩えれば、親が瀕死の状態になってやっとそのありがたみに気付いたバカ息子そのものだ。
だが、何もできない。本当に放射能という奴は手におえない化け物なのだ。最近は、帰っても旧友と酒を飲んで彼らの愚痴を聞くのがいいところ。正直言うと、1年経ってもまったく変わらないこの状況に、僕も福島の旧友たちも疲れてしまっている。

今年に入ってある人に言われた。福島に居続ける選択をした人たちに対し、お前はそろそろ“出る”ことを口にした方が良いんじゃないか、と。それは僕の胸をぐさりとえぐった。心の奥では僕もそう思っていた部分があるからだと思う。でも、本当は彼らだってそんなことはわかってるのではないかとも思う。だからこそ、僕はそれを口にできない。その封印を解いたとき、僕らの関係は崩れてしまうかもしれない。それが僕は怖いのだ。でも、すべては命あってのこと。今は友情より現実を伝えるべきなのかも…。
答えがないのはわかっている。わかっているけど、逡巡せずにはいられないのだ。そんな状態がずっと続いている。よく、新聞記事で“今は被災地に寄り添うことが何より必要”なんていう言葉が載る。でも、寄り添うって何だ?じゃあどうしろっていうんだ?そういうことを言う人は、具体的にどういう行動をとるのを“寄り添う”っていうのかわかって言っているのだろうか?

吉祥寺で、僕はそんな想いを正直に話してみようと思った。こんな話ができるのは、実際に福島に足を運んだことのある山口洋ぐらいだろうから…。

この日の「ヒロシと話そうコーナー」は、休憩を挟んで、二部の新曲「MY LIFE IS MY MESSAGE」が終わってすぐだった。「何か聞きたいことない?」という山口洋の問いかけに、僕はすかさず手を挙げた。
その後は、夢中で話したから何を言ったかよく憶えていない。言いたいこと、伝えたいことの半分も話せなかった。ただ、福島の線量がとても高いこと、去年勇気を出して除染の手伝いをしたけど、今はそんな危険なリスクを伴う作業を一般市民がやることにすごく疑問を持っていること、そして、福島に残っている人たち、何よりもその人たちと暮らしている子供たちに対し、山口洋が本当のところはどう思っているかは質問できたはずだ。

ヒロシはとても真摯に答えてくれた。とくに、以前報道ステーションでも取り上げられた”黒い塊”を例にとっての話は心に残った。それはとんでもない濃度のプルトニウムが含まれた危険極まりない物質なのだが、それをどう報道するかでさまざまな意見があるらしい。でも、ヒロシはあるものはあると事実を伝えるべきで、どう受け取るかは読む人に任せればいいとはっきり言っていた。その話を聞くだけでも、僕はだいぶ楽になれたような気がする。

もう一つ印象に残ったのは、ヒロシがライブ中に何度も“あきらめない”って言っていたこと。ライブ直前の彼のブログによれば、ARABAKI ROCK FES.の後に南相馬に寄り、あの時から何も変わっていない荒涼とした風景に暗澹たる思いになったという。なのに、目の前にいる彼は全然めげていないのだ。それどころか、先日の横浜ライブよりも元気になった感さえあった。
山口洋、つくづく不思議な男だ。この男は逆境にあればあるほど元気になるのかもしれない。そして、口で言って行動もする究極の有言実行男だ。そこがすごいと思う。なんつうか、やっぱ九州男児だなあ~と思った。こういうメンタリティは東北人にはなかなかない。うーん、見習わなければ…。

そのあとの「それでも世界は美しい」は、なんと、僕のためにと言って歌ってくれた。いやあ~恐れ多い…。歌詞の一部に僕の名前を使ってくれてたのには、照れ臭くてしょうがなかったけれど、聴いているうちに熱いものがこみ上げてきて、涙を堪えるのに必死だった。これはもう、一生忘れられないなあ…。

最後の最後、「満月の夕」が終わった後、山口洋はステージから降りてきて、なんと直接僕に使ったばかりのピックを渡してくれた。そしてがっちり握手。その手はとても温かかった。これは僕へのエールだと思う。福岡生まれのオレが、こんなにも身を焦がして力を注いでいるんだぞ。福島で生まれ育ったオマエが落ち込んでいてどうする!そんな風に喝を入れられた思いだった。

本当のことを言うと、音楽を聴く場であんまりヘビーなことを話すのはどうかという思いもあるにはあった。質問コーナーで、僕の後に手を挙げる人がいなかったのも、自分があんまり重い話をし過ぎたからかもしれない。そう思うと申し訳ない気持ちにもなった。
でも、ライブ終了後に何人かの方が声をかけてくれたのはとても嬉しかったし、今はやっぱり発言してよかったんだと思っている。僕の拙い話でも、少しは何かを伝えられたのだから…。
もしかしたら、僕はちょっと肩に力が入りすぎていたのかもしれない。この夜、僕は福島の現状を自分のことのように受け止めている人が東京にもたくさんいることを知った。それだけでも十分。ぼくは一人だけど独りじゃない。まだまだ頑張れる。

なんだか自分のことばかり書いてしまいました。申し訳ありません。
でも、僕にとってこの日はそういう特別な夜だったんです。
この夜のライブの様子は、他の方が素晴らしいレポを書かれているので、そちらを見ていただければと思います。僕にとってはあまりに個人的な思いに溢れたライブになり過ぎ、とても客観的なレポを書くことができません。

この文書を読んでいただいたすべての方に感謝します。もし、あの吉祥寺の夜を共にした方がいらしたら、僕のへヴィな話を不快に思われたかもしれませんね。ごめんなさい。でも、もしよかったら少しだけでも僕の生まれた町、福島に思いを馳せて欲しいと思います。それは、日本の国がこれまで目を瞑ってきた歪みが白日の下に曝された姿でもあるのですから…。

2012年4月14日 (土)

山口洋 MY LIFE IS MY MESSAGE -solo2012 / 2012年4月14日(土) 横浜・THUMBS UP

今回のツアーは、MY LIFE IS MY MESSAGEと銘打たれ、昨年の3.11以来、山口洋が行っている南相馬市への復興支援の一環として行われているもの。そういう意味では、このライブが普段のそれとは意味合いが違うものになるであろうことはわかってはいた。
だけど、あんまり震災支援の色が色濃いライブってのはどうなんだろう、という気持ちが個人的にはあった。この気持ちを言葉にするのは難しいんだけど、僕は地元が福島ということもあり、復興支援と銘打たれたイベントに対して自分のスタンスをどう置いたらいいのか、いまだにわかっていないところがあるのだ。
震災から1年経ったけど、僕はいまだに東京に住んでいる人間として被災地を支援しなきゃという気持ちと、自分のふるさとが放射能という見えない怪物に汚されてしまった被災者意識の間で揺れ続けている。ライブを観るにしても、これだけのことが起こったんだから、ミュージシャンがそれにまったく触れないのは不自然だと思う反面、それが意味を持ち過ぎちゃうのもどうかと思う気持ちの両方の気持ちが僕の中にはあるのだ。
ただ、やっぱりライブは音楽を聞く場であるというのが優先順位の一番目。これは動かせない。大体、あんまり重くなりすぎちゃうと、それは今の自分の中で消化しきれなくなってしまうだろう。そう思っていた。
山口洋という人は、そういう重たいライブをやってしまう可能性だってある人。正直に言うと、いろんなことを考えてしまって、このライブに対して僕はなんとなく気が重かった。

でも、それは杞憂だった。ライブは震災を意識する曲やMCがありつつも、それを洋独特のユーモアでカバーするという程良いバランスで進行していった。1曲目の佐野元春のカバー「君を連れてゆく」で、洋がちょっと照れながら歌詞を変えて歌ったのを見て、僕はほっと肩の力が抜けたような気持ちになった。山口洋は決してこのライブを重たいものにしようとは思っていない。それが確信できたからだ。
そう、このライブはともすればシリアスな空気になってしまいそうなテーマを、山口洋が不器用なジョークと苦手なMCで和やかにしようと一生懸命だった。それでいて伝えなければならないことはちゃんと伝えるという強固な意志も感じられ、僕はなによりその誠実さに心を打たれた。

ツアー途中だから、あんまり詳しく書くことは避けるけど、ライブの途中に山口洋への質問コーナーまであったのには驚いた。これは自分が見てきた南相馬の現状をなんとか会場の人に伝えようという姿勢の表れだと思う。山口洋がこういうことを得意としているとはとても思えないし、見方によってはとてもダサいものになりかねない。それをあえてやっていることからも彼の一生懸命さが伝わってきた。

歌われた曲も、今歌わなければならない歌ばかりだったのではないか。「オリオンへの道」も「満月の夕」も演ったし、「出発の歌」も演った。
これらの曲を聴いていて、僕は山口洋が知り合いのいる南相馬市をピンポイントで支援しようと思ったのは、自然な流れだったんだろうと思った。彼の歌にはもともと再生をテーマにしたものが多いが、そんな歌を歌い続けていた彼にとって、目の前に巨大な喪失感を抱いた人々が映ったのなら、何かをしないわけにはいかなかったのだ。

このツアー、関東近郊だと既に千葉でライブが行われており、5月には東京・吉祥寺での公演を控えている。僕はこの日の横浜だけを観るつもりでいたのだが、ライブを見ていて考えが変わった。
正直言って、この日は被災地支援と純粋な音楽とがどんな按配で展開されていくのかということが気になっていたから、ライブ全体の流れにばかり目がいってしまい、本当の意味で音楽を楽しむことはできなかったような気がする。それはもちろん山口洋のせいでもなんでもなくて、自分自身のこだわりのせいなんだけど、なんとなく消化不良だったことは否めない。もっと素直な気持ちで音楽を楽しめばよかったなあとちょっと後悔している。

リベンジしたい。5月の吉祥寺、行こうかなあ…。

2011年9月30日 (金)

Chloe red presents "MY LIFE IS MY MESSAGE" Vol.3 出演=HEATWAVE スペシャルゲスト=矢井田瞳・おおはた雄一 / 2011年9月20日(火) 渋谷・DUO Music Exchange

このところいろんなことがあって、なかなかブログが更新できなかったんだけど、とりあえずこのライブのことは書いておかなきゃな。
HEATWAVEのチャリティ-ライブ@渋谷。春に行われたライブに引き続き、山口洋の南相馬市をピンポイントで支援するという明確な意思のもとに決行されたライブだ。
僕個人としては、今回のライブは前回とは違ったタッチを感じた。前回が頭が真っ白になるようなR&Rライブだったとするならば、今回はライブ全体の完成度で楽しませた感じ。こう言ってはなんだけど、前回のHEATWAVEワンマンはやっぱり特別な夜だったと思う。あんなライブはやろうと思ってもできるもんじゃないよ。どんなバンドでもキャリアの中で1stアルバムが最も初期衝動に満ち溢れているように、あのライブも被災地支援に燃える山口洋の気迫が痛いほど伝わるものになっていた。対する今回は、ゲスト出演があったりミディアムな曲調の曲が増えていたり、力技だけでない音楽性でライブ全体を練り上げた感じだ。僕も我を忘れて叫び声を揚げるようなことはなかったが、R&RだけじゃないHEATWAVEの音楽性を味わえたと思っている。

本当のことをいうと、最初はこのライブにゲストなんか必要ないと思ってたんだ、オレ。だって、前回の凄まじいグルーヴを見てしまったら、それ以上付け加えるものなんか何もないでしょう?
でも、その考えは1部での山口洋とゲストとの共演からもう変わってしまった。まずは山口洋×おおはた雄一のラビッツ。この組み合わせ、久々に見たけど、もうほとんどレギュラー・デュオといっても良いぐらいに息がぴったりになっているのに驚いた。おおはた雄一のオリジナル、「トラベリンマン」と「おだやかな暮らし」は、この場の雰囲気にぴたりと合っていた。激しいR&Rを期待するオーディエンスも多かったと思うんだけど、そんな空間におおはた君の冬の朝の空気のようにピンと澄み切った歌声が響き渡る。歌詞がまたイイのよ。未曾有の大災害を経験した僕らに、雨粒ように沁みていく歌。音楽ってやっぱり僕らみたいな人種には、音楽って癒しになるんだとしみじみ思った。
それと、矢井田瞳が抜群に良かったなあ。はっきり言って意外だったんだけど…。だってオレ、この人は例の“ダリダリ~♪”って歌しか知らなかったからね(笑)。だけど、ハリのある歌声はさすが。何より華があるわ、この人。3人でやった「雨の後、路は輝く」は気持ちよかったなあ…。

2部はいよいよHEATWAVE。さっきも書いたけど、前回とはかなりセットリストを換えていた。
序盤こそ「Oh Shenandoah」や「STILL BURNING」でうわーっと始まったが、前回はやらなかった「歌を紡ぐとき」や「シベリアンハスキー」でじっくり演奏を聴かせ、 美空ひばりの「リンゴ追分」をどっしりと演奏。これは山口洋が南相馬市で演奏した様子をネットで見たことがあるが、HEATWAVEとしては初めての演奏だ。池畑さんのドラムが腹に響く、すごく男っぽい追分節だった。こういう曲を演奏しても全然違和感ないね、HEATWAVE。もしかしたら、これがこの日のベストアクトだったかもしれない。

中盤からはおおはた雄一と矢井田瞳も合流。
おおはた君がラップスティール・ギターを弾きまくった「Life goes on」は凄まじかった。「Alone Together」と「Starlight」の新曲2連発は、矢井田瞳のコーラスが抜群。山口洋は声もぶっといし、女性ボーカルが絡むのはけっこうたいへんだと思うのだが、ヤイコさんは楽々コーラス。素直にスゴイと思ってしまった。
後半は「INTERNATIONAL HOLIDAY」に続けて演奏された、とっておきの「Do the Boogie」でオーディエンスを盛り上がらせ、「NO FEAR」で大爆発。

びっくりしたのは、アンコールの1発目だ。なんと、矢井田瞳の「My Sweet Darlin'」を出演者全員で演奏。これは盛り上がるよ。だってオレだって知ってるもん、この曲。っつうか、こんな可愛い曲を弾いてる山口洋ってのは滅多に見れるもんじゃないよなあ(笑)。アンコールはもう1曲「新しい風」も演奏された。

アンコールが終わって客電が点いても観客の拍手は鳴り止まない。そこでまさかのダブル・アンコール。曲は「満月の夕」だった。終演時間22時30分。終わってみたら約3時間の長尺ライブだった。

今回のライブは単純に楽しかった。前回はHEATWAVEのロックっぽさ、緊張感の高いスリリングなプレイが存分に出ていたと思うが、今回はゲストとのセッションにも多くの時間を割き、音楽の持つ楽しさ、解放感に満ち溢れていた。セットリストも、ふさぎこんでしまうようなネガティブな曲は避け、明るく前を向くようなものを選んでいたんじゃないかと思う。

正直言って、同じ福島県出身でも、僕にとっては高い放射能濃度に苦しめられる地元・福島市が気がかりで、なかなか南相馬にまでは気が回らない状況だったのだが、山口洋が言った言葉には励まされたなあ…。
ヒロシはこう言った。

「オレたちは歴史上、後に教科書に載るような大切な転換期に生きている。自分で不可能だと諦めない限り、不可能はない。それぞれが新しい風になろうぜ」。

帰り際、僕は出口の脇で行われていた原発稼動反対の署名に名前を書いて、台風が近づき荒ぶる渋谷の町に出た。

2011年6月21日 (火)

Chloe red presents”MY LIFE IS MY MESSAGE”Vol.1 出演=HEATWAVE / 2011年6月14日(火) 渋谷・DUO Music Exchange

Chloe red presents"MY LIFE IS MY MESSAGE" Vol.1
6月14日(火) 渋谷・DUO Music Exchange
出演=HEATWAVE
スペシャルゲスト=大島保克
開場18:30 / 開演19:30 チケット料金=前売¥4,000 / 当日¥4,500
税込・ドリンク代別途¥500
※MY LIFE IS MY MESSAGEのOFFICIAL GOODSを会場にて販売します。このOFFICIAL GOODSの売上は、全額が被災地の為に役立てられます。

やっとレポが書けた。このライブで得た感動はとても大きい。それは、もしかするとこれからの僕と音楽との関わり方を変えてしまうほどのものかもしれない…。
このライブを語るのに、3.11大震災を外すことは絶対にできない。3.11から3ヶ月、僕の心はさまざまに揺れた。46年間、常に音楽を傍らにおいて歳を重ねてきた僕のような人間にとって、その生き方を問われるような日々だった。震災当初、僕はこう思ったのだ。こんな時に悠長に音楽なんか聴いていていいのだろうか?大量の電気をタラタラ使うライブに行くぐらいなら、被災地に行って自分の身体を使って瓦礫の一つでも片付けたほうがマシなのではないか?普段、LOVE&PEACEだの何だのほざいてるなら、こんな時こそそれを実践すべきなのでは?考えれば考えるほど素直に音楽を楽しむ気持ちになれなくなってしまった。結局、今年の春は手元にチケットのあったライブを何本かトバしてしまう。
5月に入って、CHABOの力強いステージに勇気付けられたのをきっかけに、またライブに足を運ぶようになったのだけれど、それでも僕はまだ確信を持てずにいた。平穏な暮らしが根底から壊されてしまった時、果たして音楽は一個の握り飯に勝てるのだろうか?

考えてみたら、これは昔から言われ続けてきた音楽の機能性への問いかけでもある。こんな永遠の問いに、山口洋は真っ向勝負で答えを返してきた。ファッションブランドChloeと連帯してOFFICIAL GOODSを作り、その売上げを全て被災地に寄付すると発表。さらに”MY LIFE IS MY MESSAGE”というテーマを掲げ、ブログ閲覧者にそれぞれの暮らしの中での美しい瞬間を捉えた写真の投稿を呼びかけた(後にこれはライブでも使われ、写真集になって入場者全員に配られるとアナウンスされた)。

普段の僕は、こういった呼びかけには簡単にのらない。だって、寄付したいならグッズを買うなんて回りくどいことをせず、使途のはっきりした団体に自分で預けたほうがよっぽど確実じゃないか。何よりも、そんなことをすると自分がそれだけでイイ気分になってしまうのがたまらなく嫌だ。正直に言えよ、お前、本当はアーティストグッズが欲しいだけなんだろ?そう、思ってしまうもう一人の自分がいる。そうだよ、オレは飛び切りのヘソ曲がりなんだよ(苦笑)。

だけど、今回だけは自分も行動を起こすべきだと思った。それは、ヒロシの言ってる事は、震災後に僕が感じたことと基本的に同じだと思ったからだ。こんな時だからこそ心を落ち着けて、大切な人と大切な自分自身のために普通の暮らしを続ける努力をする。そんなありきたりなことが、今だからこそ一番大事なんじゃないかと思った。圧倒的な非日常には、圧倒的な日常が一番の武器になる。そう思うにいたった。僕は、この日のために僕にとっての大切な写真を一枚だけ投稿し、普段のライブとはちょっと違った気持ちで渋谷に向かった。

DUOに向かう渋谷の町並みは、拍子抜けするぐらい普段と変わりなかった。まるで3ヶ月前の怯えぶりが嘘のよう。被災地ではいまだ家を無くした人たちの悲しみが癒されず、原発事故は収束のめどさえ立たずに、東京にも放射性物質が静かに舞っているというのに…。
会場も似たようなものだ。緊張した面持ちの人ももちろんいたが、普段のライブと同じように、開演前の一時をたわいの無い会話で埋める人たちがフロアに群がっている。でも、そんなのはどうでもいいと思った。人には人それぞれの世界がある。明日それがどうなるかなんて誰にもわからないんだから、それぞれがそれぞれのやり方で過ごせばいいじゃないか…。うーん、3.11以降、なんだか僕の考え方も変わったような気がする。達観しがちになったというか…(苦笑)。
会場に椅子が用意してあったのには驚いた。HEATWAVEのライブにそれはえらく不釣合い。僕は最初から椅子なんかに座る気はなかった。フロア後方のセンター、山口洋のマイクの真ん前にヒロシと対峙するように立つ。このライブにはバンドとがっぷり四つで向きあいたかったのだ。

定刻を10分ほど回り、アイルランド民謡が会場に鳴り響くと、満員のフロアから期せずして手拍子が起きた。素晴らしい雰囲気。この日が特別なライブだということを観客もよく知っているのだ。
オープニングは「雨の後、道は輝く」。アレンジがアルバムと全く異なっていたので、しばらく何の曲だかわからなかったのだが、池畑さんのバスドラ一発で完全にぶっ飛ばされてしまった。凄い!圧倒的なパワー!これはもうドラムというより、マーチを奏でる大太鼓だ。福岡のリジェンダリー・ドラマーはヒロシの志を汲み取り、気合十分でこの日に臨んでいたのだろう。
ハイテンションだったのは池畑さんだけではなかった。渡辺圭一も細身魚もいつも以上に気迫が漲っているのがはっきりと伝わってきた。特別なフレーズを奏でているわけではないし、この日のための特別なアレンジが施されていたわけでもない。なのに、ロックンロールというやつは気合一発でこうも変わるものなのか…。
そして、山口洋ときたら…。溢れる感情を抑えようとしているのか、歌い出しは自分を抑えよう、抑えようとしているように見受けられたのだが、それはすぐに熱い想いに押されて吹きこぼれてしまう。なんて人間臭くて熱いボーカルなんだろう。そしてそのギター…。もう、なんちゅうギターなんだ、これ!アコギだというのに、むちゃくちゃパワフルで破壊力抜群。ギターの一音一音が、まるで叫び声のようだった。

とにかく、4人が4人とも圧倒的な存在感。放たれる4つの音は強い確信を持って鳴り響いていた。こう言うと、なんだかとても荒々しい音に聞こえるかもしれないが、確かに粗野ではあるけれど、とても温かくも感じられた。ああ、HEATWAVE、なんてすごいバンドなんだ!
フロアの観客もぐんぐんテンションをあげていく。フロアのあちこちから拳が突き上げられ、イントロが奏でられるたびに怒号のような喚声が巻き起こった。僕の周りは1曲目から異常なぐらいの盛り上がり。隣の女性は曲が終わるごとに叫び続け、後ろの野郎どもは池畑さんに野太い声援を送っている。
もちろん、僕も燃えた。今日は悔いのないように燃え上がろうと決めていたから、最初からサビを歌い、拳を突き出し、ビートに身を委ねた。この3ヶ月の金縛りにあったような閉塞感から、やっと解放されたような気がした。僕は自由だった。この瞬間、鳥のように自由だったのだ!

今、ライブを振り返ってみると、序盤は「PRAYER ON THE HILL」や、大好きな「I HAVE NO TIME」、「STILL BURNING」などロックンロールが立て続けにプレイされたのだが、中盤は「ガールフレンド」や「フールとクール」など、比較的ミディアムな曲も多かったことを思い出す。しかし、それでも僕の高揚した気持ちはいささかも萎えなかった。テンションの高いバンドのプレイは、じっくり聞かせるタイプの曲でも、激しい感情の揺れを熱く表現し続けていたからだと思う。
渡辺圭一のベースは万華鏡のように色を変える。池畑さんのドラムと一緒に、強靭なボトムを作っているかと思いきや、突如として水面に浮上し、まるでサイドギターのようにヒロシのギターと絡んだりする。細身魚のキーボードは、神秘的な音色で発熱するバンドに複雑な陰影を付けてゆく。とにかく、4人の気迫が並みじゃない。圧倒的な気迫で心臓を魂鷲づかみにされた。

なんて言うんだろう、この日のライブ中盤で演奏された「ガールフレンド」や「フールとクール」は、アルバムで聞くそれとは違った情感に支配されていたように感じる。「land of music」に収められたこれらの曲たちは、不思議な諦観に満ちているのだが、この日の演奏は諦観の中に、もっとポジティブな情感を確かに感じた。
後悔。諦め。変わっていったもの。忘れられた何か。それらを全て認めたうえで、今何かが始まる…。そんな感じだ。

「Starlight」もソロの時の切ない感じとは違っていた。「alone together」と名付けられた新曲も、タイトルに反して前向きなメロとビートを持った曲だった。それは、悲しみの中から復興に向けて歩みだそうとしている東北の人たちに対しての力強いエールのようにも聞こえてきた。
山口洋とHEATWAVE、ソロでもバンドでも変わらないっていう人もいるかもしれないけれど、僕はバンドのアプローチの方が好きかもしれない。思うんだけど、ヒロシ独りだとシリアスになりすぎちゃうんだよね、どうしても。孤独をギターにのせて星空に飛ぶ夜もいい。けれど、今日みたいな日にはやっぱりバンド!HEATWAVEは、この特別なライブにあたって、ネガティブな音は一音も出していなかった。放たれる音に一点の曇りもなかった。素晴らしいミュージシャンシップだったと思う。

後半のR&R4連発は頭の中が真っ白になった。“細身魚のアコーディオンが聞きたいか!”というヒロシの問いかけに、怒号で答える観客。サビは観客も大合唱。まるでアイルランドの祝祭のようだった。「ボヘミアンブルー」は、今この状況でこそ必要な歌。僕の周りは皆拳を振り上げて叫ぶ。興奮はそのまま「NO FEAR」に引き継がれ、渡辺圭一の浮遊感のあるベースが、フロア全体を大きく揺らした。ヒロシのグレッチも大爆発。観客のボルテージは最高潮に達した。
本編ラストの「新しい風」は本当に感動的だった。サビでヒロシが“新しい風が「東北」の方から吹いてくる”と唄うと、フロアから大きな大きな歓声があがる。僕はもう、ヒロシがこの曲をラストに持ってきたこと自体でぐっときてしまっていたんで、この瞬間の気持ちをどうしても言葉にすることができない。胸にいろんな熱いものがこみ上げてきて、涙を堪えるのに必死だった。

アンコールもまた素晴らしかった。大島保克を迎えての「満月の夕」では、後方のスクリーンにウェブに投稿された写真が映し出される。これがもう…。きっとこうくるだろうとは思っていた。予想通りの、はっきり言っちゃうとミエミエの演出だった(苦笑)。それでも泣けて泣けて仕方なかったのだ。
それは、家族の集合写真であったり、在りし日の風景であったりと、決して特別な写真ではなかった。でも、そこには、それぞれの場所でそれぞれの人たちが穏やかに暮らしている確かな日常が、しっかりと刻み込まれていたのだ。

2回目のアンコールの前、山口洋はこのライブの趣旨について観客に語った。それは、ロックコンサートのMCという枠を超えた、とても長い話だったのだけれど、この日演奏された曲以上に大事なことがたくさん含まれていたと思う。
印象に残ったのは、ヒロシが帰国後に震災で被害を受けた古い友人に会いに福島に行った件。そこで、友人たちの顔が以前と変ってしまっていたのを見て、ヒロシは愕然としたという。
話していくうちに、ヒロシの声がだんだん震え始めた。そして、何度も目をしばたたかせる。しかし、ヒロシは必死で言葉をふり絞り、熱いメッセージを語り続けた。これは他人事じゃない。自分自身のことなんだ。今語らなくていつ語る。ヒロシはそう思っていたんだと思う。話さずにはいられなかったんだと思う。

「福島県相馬市〇〇町〇〇番地みたいに、ピンポイントでサポートをしていきたい」
「いろんな人が、いろんなところでピンポイントのサポートをして、それを繋げて行ったらきっと大きな輪になるんじゃないか…」

ヒロシはそう言った。
そうだよな…。ぼくもそう思う。なんだかふっと気持ちが楽になった。津波で被害を受けた地も気がかりではあるが、僕は僕の故郷が福島だから、正直言って古里のことで頭が一杯だ。気仙沼で瓦礫を片付けたい気持ちもあるが、時間が空くとどうしても地元の両親や旧友、生まれ育った懐かしい町のことが気になってしまうのだ。
でも、それは当たり前なんだと思った。って言うか、自分にとって一番大切なものを、今第一に考えないでどうするんだって、ヒロシの言葉でやっと気が付いた。

僕は山口洋のこれからの活動を応援する。けれど、それだけじゃなくて、僕は僕としてできることを少しずつでもやり続けなければならないと思った。
少年の頃、大好きだったあるミュージシャンがこんなことを言っていたことを思い出す。“ロックンロールは行動を起こしている人たちのBGMなんだ”。自分を、ロックを小脇に抱えながら大人になったと公言するならば、僕は僕なりの行動で山口洋とこのクソッタレな時代を並走していきたい。

3.11大震災とそれに伴う原発事故で、この国の景色は大きく変わってしまった。そんな世界でロックと共に大人になった僕たちがこれからどう生きていったらいいのか、その道を示す一筋の光が見えたようなライブだった。
ロックンロールって素晴らしい。音楽は本当に生きる糧になるものなんだなってことを確信した夜であった。

2011年6月15日 (水)

新しい風

素晴らしい、本当に素晴らしい夜だった!
ローテーションでやったわけでも、アルバムリリースに併せたわけでもない、“今、やらなければいつやるんだ!”という山口洋の強い想いで行われることになったHEATWAVEのライブ。

もう、並みのライブとは最初から気迫が違っていた。
熱かった!
気迫があった。
志をビシビシ感じた。
そして、泣きたくなるぐらい人間臭かった。

ヒートアップするバンドに呼応し、ぐんぐんテンションを上げていった観客一人一人も素晴らしかったと思う。
これほど会場全体の想いが一体化したライブも珍しいのではないだろうか?

今、僕は昨夜の感動をどうしても言葉にすることができない。満員のフロアで強力なビートに身を委ねながら、僕は何度も何度も目頭が熱くなった。
R&Rとは、こんなにも強く、こんなにも優しく、こんなにも希望を歌い上げる音楽だったのか…。
もう一度言うが、本当に、本当に素晴らしいライブだったのだ!ああ、HEATWAVE…。なんてすごいバンドなんだろう…。
やっぱり僕は信じたい。信じよう!これほどの大きな感動を受け取ったら、もう信じないわけには行かない。音楽の持つ強い力を…。

ありがとう、山口洋。
ありがとう、HEATWAVE。

僕も何かを始めることにする。
昨日、渋谷の町にも、僕の心の中にも、新しい風が吹いた。

2011年1月10日 (月)

山口洋 / 細海魚 TOUR2011 "SPEECHLESS"」Vol.1 / 1月10日 (月/祝) 千葉 LIVE HOUSE ANGA

今年のライブ初めは山口洋+細海魚。今日はこの名義でのアルバムリリースに伴うツアーの初日だ。
アルバム「SPEECHLESS」は、昨年行われたこの二人でのライブ音源を原材料に、後から新たな音を加工を加える工程を経て製作されたもの。スタジオ録音でもなければライブ作品でもないという不思議な作品だ。そして、そのベースとなった音源は、ここANGAで昨年行なわれたライブから録られたものなのである。
だから、ANGAでツアーの初日を迎えるというのは凱旋公演みたいな意味合いがあると思うし、僕自身、音源が収録された昨年のライブの現場にいたので、そこからアルバム製作という一連の工程を踏み、再びライブの場に戻ってきた二人がどんな音を出すのかすごく興味があった。いったいその独創的な音は変わっているのか変わってないのか、それを確かめるためにも、このツアー初日は絶対外せないと思っていたのだ。

まだツアー中なのでライブの詳細を書くことは控える。だけどこれだけは言わせてほしい。この音楽は何と言えばいい?無国籍。ジャンルレス。ノンカテゴライズ。もはや2人の奏でる音楽は、ロックンロールとか環境音楽とかの範疇を超えた、誰もやっていないオリジナルなものになってしまっている。強いて名前を付けるなら、ロックンロール・アダルトに向けてのアンビエント音楽ってとこか…。加えて、この日はステージ後方のスクリーンに映像の投射もあり、聴覚・視覚ともにちくちくと刺激されるという、これまであまり経験したことのないライブ体験になった。

変わったかといわれれば、ある程度僕の予想の範囲内と言うか、思ったよりは変わってなかった。ただ、アプローチの方法は変わらなかったのかもしれないが、出てきた音の感触は大きく変わったと思う。あくまでも個人的な感想だが、僕は去年よりも音が数段ワイルドに、よりフリーキーになったと感じた。
そして、付随してステージ上での山口洋の振る舞いがとても大胆に見えたのだ。ツアー初日ともなれば、どんなベテランプレイヤーだって緊張すると思うし、実際ヒロシだって緊張していたはずだ。それが原因かどうかはわからないけど、ヒロシはライブ中何度かエフェクターを踏み間違えるか何かしてでかいミストーンを発した。でも、それすらヒロシは全く気にしていないようだったし、僕の耳にもそれはミストーンには聞こえなかった。このライブ、空間の自由度が高く、不協和音ですらそこに置き場があるような感じなのである。
そして、一曲一曲がとにかく長い。その長さの大半はインストロメンタルによるものだ。ヒロシ自身“いつ歌いだすんだ、オレ…”と自分で自分に突っ込む場面もあったぐらい(笑)。

アンコール2回を含め、2時間強のライブ。なんか、いい意味で疲れたなあ…。決して長いライブではないけど、僕にはこれぐらいの尺がちょうど良かった。だって、音も映像も場の雰囲気も、五感が刺激されるところがたくさんあり、普段の倍ぐらい神経を使うのだ。いや、真面目にかなり疲れた(苦笑)。なんと言うのか、肉体は疲れてないが、頭の芯が痺れたような変な感じだ。
でも、山口洋は全然疲れていないように見えたんだよなあ…。むしろ、精神と別のところで勝手に身体が動くのに自分で自分に戸惑っているような感じ。本人がMCで言っていたのだが、少し前に気持ちが弱っている時期があって、むちゃくちゃに身体を鍛える方向に走った結果、今が生涯で一番身体がキレている状態になったのだという。その結果、今は身体が精神で制御できなくなっており、予想もしなかったような反応を起こすんだとか…。
うーむ、僕はまだその域に達していないのだろうなあ…。いつものように、身体でビートを感じたり、頭でメロを追っかけたりするような音楽の受け止め方じゃなくて、何か別のフィルターを見つけないとこのライブの芯を掴めないのかもしれないなあ…。まずはこの日購入したアルバムをじっくり聴いて自分の中の蓋を開こうと思う。

このツアーはステージを重ねるにつれ、どんどん変わっていくような予感がする。今日はいい意味で初日っぽいレア感もあり、見所の多いライブだった。こういう言い方は変かもしれないが、僕はとても“面白かった”な。来月の渋谷でのライブあたりでこのサウンドがどう変化しているのか、すごく楽しみだ。

ライブ後にはサイン会もあり、僕も買ったばかりの新譜にサインを入れてもらった。山口洋はバイオグラフに加え、その時の自分の年齢を書き入れるんじょだが、今日は“(47)”という数字が。歳相応なんて言葉があるけど、本来、肉体年齢と精神年齢なんて人それぞれ。これは、あくまでも山口洋という男がたまたま今47歳だっただけの話なんだろうな。

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しっかし千葉は寒かったなあ…。ホームで東京に帰る電車を待ってる時なんか、寒くて凍え死ぬかと思ったぜ(苦笑)。
実を言うと、自分は今日の昼間今年初めての20キロ走をやった。ライブの時間頃はちょっと血糖値が下がっていたのかもしれない。こういう肉体のコンディションも、ライブに接する上では微妙な影響があるんだよね。
精神はイケイケでも肉体はまだまだ付いていってない感じ。うーん、今日はヒロシに負けてるな、こりゃ。冬はよくよく考えてトレーニングしないと、と思ったY.HAGA(45)(笑)。

2010年11月 6日 (土)

羽根をもう一枚

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火曜日、皇居で25キロ走った後、僕は代官山に向かった。もう一枚羽根を手に入れるために…。

代官山に店舗を構える「knife acoustic groove」は、山口洋にインスパイアされた“希望を載せて飛ぶ為の羽根”というシルバー・アクセサリーを製作している。これが単なる装飾品ではないことは一目でわかった。デザイナー中野貴さんの熱い魂が篭っている芸術品と言ってもいい一品。着用することで何がしかのリーズンが生じるぐらいの存在感があるのだ。僕は基本的に男が装飾のためにジュエリーを身に着けるような行為は好まないんだけど、これは一発で気に入った。
安さにかまけてユニクロなんかの服ばかり着ていると、気持ちがふやけて自分の五感がどんどん鈍ってくるじゃん。決して安い買い物ではなかったけど、自分の直感を信じて去年の初冬にシリーズ最大の羽根3号を購入した。男44にして堂々のシルバー・デビューだぜ(笑)。

あれから一年。オレはもう一枚羽根が欲しくなってきた。ターコイズの入った「羽根4号」がどうしても欲しい。「羽根3号」が風切り羽を連想する力強さがあるのに対し、こいつは繊細な細工が美しいと思う。この対象的な2枚を首から下げて、いつか飛べるかもしれない空を想いたくなったのだ。
通販でも買えるが、どうせならお店に行って、作り手である中野さんと直接顔を合わせて羽根を手に入れたい。それがこいつを身に付ける者の礼儀のような気がする。そう思った。

平日の代官山の昼下がり。いやあ~中野さん、思ったとおりの熱い人でした(笑)。
シルバーの手入れの話やら、ヒートウェイヴの話やらをひとしきりした後、お目当ての「羽根4号」を購入。中野さん曰く、これは去年の秋に発表されてから細かいバージョンアップが施されているそうな。確かに最初のものと比べるとターコイズの色が濃い。これは複数の羽根を下げた時、ぶつかっても割れないように石の強度を上げているからだとか。この色の濃さ、オレ好きだな…。

てなわけで、今、僕の首には羽根が2枚下がっている。こいつを付けていると、鳥が空を飛ぶように、どこまでも大地を駆け抜けて行けそうだ。

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2010年9月24日 (金)

HEATWAVE TOUR 2010 “光” / 9月24日(金) 東京・duo MUSIC EXCHANGE

本人がどう思ってるか知らないけど、山口洋ってのは明らかに体育会系体質の男だと思う。ロックンロールってイメージで言えば荒ぶれてるような気がするけど、実は文科系ヤサ男がバンドを組んでて拍子抜けすることも多々あるよね。最近の若い連中みたいに、いかにも背筋弱そうな痩せっぽちだったり…(苦笑)。それに対し、この4人は明らかに野獣系だ(笑)。なにしろ、この日は一見ヤサ男風の細身魚まで髪を振り乱してぶっ壊れてたからなあ…。男臭いぞ、HEATWAVE!(笑)。
この日は暑かった夏の日が嘘のような、雨混じりのひんやりした天気だったのだが、そんな空気をもろともせず、ステージから放たれる異常なエネルギーで、場内はぐんぐんヒートアップしていった。

この日の僕はステージに向かって左の石柱の左側あたりに陣取った。前から4列目ぐらいで渡辺圭一のほぼ正面。中央の山口洋も、その奥にいる池畑潤二も、右側のキーボード群の陰にいる細身魚もよく見える、最高のポジションだ。
duoって、音響が悪くてちょっと観辛い会場っていうイメージがあったんだけど、この日はすごく音の分離が良くて、頭が真っ白になるぐらい気持ちいいR&Rサウンドを存分に堪能できた。大満足だ!

改めて思ったんだけど、やっぱこの4人は巧いわ…。フロントマン山口洋はもちろん、他の3人ともとても個性的なプレイヤーだと思う。渡辺圭一のベースはリズムキープだけじゃなく、時としてギターソロみたいにメロディアスなフレーズを挟み込む。この日だったら、「ガールフレンド」後半の闇の中に溶け込んでいくようなソロはとても耳に残るものだった。池畑潤二の迫力あるビートはいわずもがな。この日は得意技の“エンディングでの高速ロール”を、再三にわたって見せ付けてくれ、ぐうの音も出ないほどノックアウトされてしまった。
そして細身魚。HEATWAVEが凡百のロックンロール・バンドと一味も二味も違うのは、やっぱり魚のサウンドコーディネートが大きいと思う。アコーディオンを使ったアイリッシュ・テイストの音、ハモンドでのR&Bマナーな演奏に加え、この人はサンプリングを駆使した不思議な音色を使いこなせるところが強み。R&R系のキーボード・プレイヤーで、これだけ幅の広い音楽性を持ってる人って珍しいんじゃないかなあ?まさに音の魔術師。
「STILL BURNING」とか「NO FEAR」とか、臨界点にどんどん近づいていくようなモダンなビートは、このメンツでのHEATWAVEならではだと思う。パンクとテクノが合体したような異常な高揚感に、僕は心臓が爆発しそうなぐらいに興奮してしまった。

それに加え、今回はステージ後方に大きなスクリーンが設置され、曲に併せたスペシャル映像が流れた。mood filmsという映像チームが制作したものらしいのだが、これが抜群の効果を発揮。ロックバンドに演出なんていらないとする考えかたもあるだろうし、事実ミュージシャンのパフォーマンスに集中したい時には、やりすぎの演出はわずらわしくさえある。でも、今回は演奏と映像がうまい具合に融合していて素晴らしかったと思うなあ…。
印象に残っているのは、「ガールフレンド」の街角を少女が駆けて行くやつとか、「BRAND NEW DAY/WAY」でのテレビ画像を高速でコラージュしたようなやつ。歌詞のイマジネーションがぐっと膨らみ、ビートの高揚感が増幅し、R&Rにはこんな飛び道具もアリなんだなあと思った。

それにしてもヒロシは熱かった!HEATWAVE流R&Rというと、イコール・グレッチっていうイメージがあるが、思い返すと今回の山口洋は意外とアコギを持っている頻度も高かった。だけど、アコギかエレキかなんてことは全然関係ないと思わされるぐらいに熱いギターだったと思うなあ。
観てて気が付いたんだけど、ヒロシがあえてアコギを持っているからこそ、渡辺圭一や魚がメロディアスなソロをやリフを挟み込むスペースが生まれているんだとも思う。HEATWAVE、ダテに20年やってない。この辺のあうんの呼吸ぶりは、やっぱり体育会系だ(笑)。FWが囮になってDFが前に走り込んで来るイメージつうの?まるでチームスポーツのコンビネーションを見てるような気さえした。

セットリストは、僕的にはまったく文句なし。聴きたかった曲はほぼ全部聴けたと思う。
嬉しかったのは「TOMORROW」だ。アルバム「1995」は、HEATWAVEディスコグラフィの中でもとても好きなアルバムなのだけれど、その中でもとても穏やかで好きな曲。“BOXセットを作った時、昔の曲を聴き直してみて改めてこれをイイ曲だと思った”という洋のMC付きでこの曲が歌われた時は、背筋がすっと伸びるような気がした。
「BRAND NEW DAY/WAY」とかも、アレンジがだいぶ違っていてとても新鮮だった。この曲はライブ2曲目だったんだけど、池畑さんのハネるドラムが印象的で、観客はこれで完全にスイッチが入ったような感じだったなあ…。

なんか、本編はバンドの高いテンションにぐいぐい引っ張られ、あっという間に終わってしまったような感じだった。はっきり言って、バンド結成20周年をかみ締めるような余韻はまったく無かったと思う。バンドの現役感と山口洋の自信満々ぶりに圧倒されっぱなし。
やっとバンドの歩みを振り返るタッチが出てきたのは、アンコールになってからだ。まず、サプライズで渡辺圭一45歳の誕生日祝い。ステージにスタッフがろうそくが灯されたケーキを運び、たまけんが照れくさそうに灯を吹き消す。
それを笑って見ていたヒロシにもサプライズが…。HEATWAVEがデビューした時に最初に所属していた事務所の社長さんが、この日のために花束を持ってステージに現れたのだ。最近涙もろいヒロシ、この時はけっこううるうるきているように見えた。

これでまたまた火がついたんだろうな。シャツを脱ぎ捨て、上半身裸になって「NO FEAR」へと突入した山口洋の気合は尋常じゃなかった。暴力的ともいえるようなビートの渦に、僕も頭の中が真っ白だ。
山口洋、引き締まった身体だったなあ…。とても45歳の身体とは思えず、体脂肪率8%もあながち嘘じゃないかも…。やっぱ月間500キロ走らないとああはならないんだろうな。ちょっとオレ、あそこまでは無理。月間200キロでいっぱいいっぱいですから…(苦笑)。

そういえば、このツアーのテーマは“光”だった。
こんなうんざりする時代だけど、オレ、なんとなく“光”が見えてきたような気がするなあ…。一歳上の山口洋からあれだけすごいものを見せ付けられたんだ。こじんまりと纏まってる場合じゃない。オレもまだまだやれる。やらなきゃいけないと、なんだか無性にそう思った。

2010年6月18日 (金)

2010年6月18日(金) 東京うたの日コンサート Vol.5 ~PLEASURE PLEASURE 編~ 山口洋/直枝政広 / 渋谷PLEASURE PLEASURE

このライブは、渋谷のロック喫茶BYGを中心に行われているイベント、「東京うたの日コンサート」の一環として行われたものだ。山口洋はカーネーションのギタリスト・直枝政広と共に出演することになった。
会場は渋谷にできた「PLEASURE PLEASURE」という新しいライブハウス。オレも初めて入る会場。どこかと思ったらセンター街から道玄坂に向かう途中の、一階にド派手なユニクロがあるビルの6階だった。入ってびっくり。会場はクッションの効いた座り心地のいい椅子が並ぶゴージャスな雰囲気で、なんか全然渋谷っぽくない(苦笑)。椅子にはドリンクホルダーまで用意されていて、ライブハウスというよりは小奇麗な映画館みたいだ。ステージも広く、これなら大編成のバンドでも対応可能だろう。
この日のオレは最前列のステージに向かって一番右端という微妙な席。ほとんど角度のないところから観るようになっちゃうんでは?と思われ、空いている席があるのなら移りたいってよっぽどスタッフに言おうかと思ったんだが、フタを開けたら2人とも中央に立っての弾き語りスタイルだったんで、斜めから仰ぎ見るような形になり、逆に見易かった。ただこの会場、音はあんまり良くないな。特にボーカルが変なエコーがかかっていてとても聴き難かった。もっとも、これはオレの場所が場所だったからで、他の席がどうかはわからないけど…。

開演前の会場には、ずっとルー・リードの曲が流れていた。これは出演する2人のカラーを考えればとても納得できるセレクト。
開演予定時刻を10分ほど回り、まずは直枝政広がステージに登場した。オレはこれまでカーネーションもソロライブも観た事がないので、全く先入観なしで臨むライブ。黒地に水玉のシャツを着た直枝は、赤いテレキャスターを肩にかけると、いきなり歪んだ音色で空気を震わせ、淡々とボーカルをとっていく。まずは歌詞がとてもシュールなことに惹き込まれた。夏の駅で独りたたずみ“幻想列車”を待っている…とか、日常のありふれた光景をぐらりと揺るがせる言葉がたくさん散りばめられていた。シュールなだけでなく、聴き手に映像を喚起させる映画的なタッチも感じられ、曲調もベースにブルースやざらついたロックテイストが感じられるものばかりで、とてもサイケデリックな気分になった。向こうの人で言えば、開演前にかかっていたルー・リードやテレヴィジョンのトム・ヴァーラインなんかに近いかな決してとっつき易いタイプの音楽ではなかったけど、思っていたよりずっと楽しめた。

短いセッティングの後、山口洋の登場。ステージに用意されたのはアコースティック・ギターとハーモニカホルダー。
1曲目は「トーキョー・シティ・ヒエラルキー」だった。相変わらずボーカルの音響は悪かったが、ヒロシの声は直枝政広よりもはっきりと聴き取れ、ヒロシのボーカリストとしての力量を改めて感じた。
現在ソロツアーで全国を回っている最中のヒロシ、このところはお客さんとステージが近いところでの演奏を重ねているせいか、最初はPLEASURE PLEASUREのがらんとした雰囲気にちょっと戸惑ったみたいだ。「今日はえらい静かですねえ、皆さん」「今日の会場はエグゼクティブですね…。ビジネスクラスにようこそ(笑)」とか、盛んにお客さんをイジる。いやあ~ヒロシ、戸惑ってたのは観てる方もなんだよ。こんなゴージャスな会場でR&Rってちょっと…。始まって早々に硬い椅子のライブハウスが恋しくなった(苦笑)。

まあそれはそれとして、この日は共演した直枝政広が似たタイプのギタリスト&シンガーだったことで、山口洋の個性や楽曲の良さがより際立って感じられるライブになったように思う。率直に言って、直枝政広の後に耳にしたヒロシの歌はとても聴き易いと思った。どちらも日常の風景を切り取って独自の視点で世界観が貫かれているには違いないんだけど、ロック村の住人としての感覚が顕著な直枝に対して、ヒロシの表現はもっと普遍的。20年前のオレだったら、直枝の表現の方がぐっときたかもしれないけど、今は外に向かって扉が開いたような山口洋の方に惹かれてしまうなあ。

セットリストも普段どおりというか、この日のためにがらっと何かが変わったわけではない。
だけど、もしかしたらこの日のライブは、オレがこれまで見た山口洋のライブの中でも一番余裕があるように見えた。
なんだか、今のヒロシは自分の歌と楽曲に絶対の自信を持っているように感じる。実は、この日のヒロシの機材は何故か機嫌が悪くて、ケーブルはノイズが入りまくりだった。ヒロシみたいに曲にどっぷり入りこみながらプレイするタイプには、かなりストレスだったと思う。だけど、この夜のヒロシはトラブルを逆手に取るように、ある曲でケーブルを引き抜き、なんと生音でまるまる一曲演奏したのだ。オレ、なんかすごくヒロシを逞しく思ったなあ。“音がでかいからロックなんじゃない。街でやるからロックなんだ”っていうのは、ピート・タウンジェントの名言だけど、アコギを激しくかき鳴らしてステージを彷徨する山口洋は、紛れもなくロックだったと思う。なんだかとてもいいものを見た。反抗的だったケーブル君に感謝したい気分だ(笑)。

アンコールは直枝政広と山口洋のジョイント。まずは直枝の曲。直枝のエレキにヒロシがアコギでバックアップ。この2人、一緒にステージに立つのは初めてのようだが、初対面ではなくて以前地方のバーで飲んだことがあるそうな。もっとも、そのことをヒロシは完全に忘れていたようだが…(苦笑)。直枝のMCで、出番前のヒロシはこの日3本もドリンク剤を飲んでいることが判明。“こんな人、初めて観ました”という直枝の言葉には笑うしかなかった(笑)。
それと、こうやって並んだ2人を見ていると、やっぱヒロシはカッコいいなあ(笑)。直枝の方がちょっと年齢が上だってこともあるのかもしれないけど、引き締まったヒロシのそばだと、なんだかオタッキーなロック少年が中途半端に大人になっちゃいました、みたいな感じでちょっと辛かった(酷いこと言ってますね、オレ。直枝さんのファンの方、すいません(苦笑))。

アンコール2曲目は、この日演るとは思わなかった「満月の夕」。いやあ~ナマで聴くのは久々のような気がするなあ…。
終わってみたら2時間半。2人ともたっぷり1時間づつ演奏したから、とても満足感のあるイベントだった。次に山口洋のライブに行くのは7月の江ノ島。久々にリクオと共に出演するイベントだ。楽しみだなあ~。

2010年3月20日 (土)

山口洋&細海魚 (HEATWAVE) TOUR2010 ひかりを探しに / 3月20日(土)千葉ANGA

細海魚という人は、日本ではかなり珍しいタイプのキーボード・プレイヤーなのではないだろうか。シンセ機能を駆使して不思議な音色を作り出し、場の空間を変えてしまう人。千手観音のように鍵盤を操り、プレイヤーとしての存在感を見せ付ける人。大まかに言ってしまえば、キーボード・プレイヤーはその2つのタイプのどちらかに分けられると思う。でも、細海魚はそのどちらでもない。両方を併せ持った稀有なタイプのプレーヤーなのだ。
その魚と山口洋のデュオ。洋自身も激しいR&Rギターとアコギの音の響きを活かした静寂な世界とを兼ね備えているだけに、相性は抜群。ヒロシの作る無骨な歌たちが、魚のキーボードの音色の音色によって、鈍く光りだす…。そんなライブだった。

それにしても、この日、僕が千葉の小さなライブハウスで聴いた音楽を何と表現すればいいのだろう…。
普通、R&Rバンドのギター&ボーカルとキーボードがデュオでライブをやるのなら、シンプルでタイトなサウンドを連想すると思う。ところが、この2人が作り出した音ときたら、R&Rの範疇に収まらない、とてもスケールの大きな音楽だった。

予定の開演時刻からやや遅れてステージに現れた2人。
最初、ヒロシは全く音を出さない。会場に流れるのは魚の操るシンセからの、空気を振動させるかのような金属的な音色。その不思議な音色に、僕はしばし自分のいる場所を忘れてしまう。そして、霧の中から光が射しこんでくるように山口洋のギターが鳴り、力強いボーカルが響き渡る。

セットリストは、普段山口洋のソロライブでよく演奏されているものが多く、特にレアな曲が飛び出したわけではない。だが、1月に横浜で見たライブの印象とはまた違った世界が展開されていた。短いながらもツアーをこなしたことで2人の呼吸がより合うようになってきたのだろう、山口洋の激しいカッティングに魚も激しく応酬する場面があったりして、2ヶ月前よりも激しさを増したような感じがした。
この音楽の“引きの強さ”は尋常じゃない。聴き手のイマジネーションをぐいぐい揺さぶり、目の前に断片的な風景を次々と浮かばせるような不思議な世界が展開されていった。

この日のライブが素晴らしいものになった理由として、会場である千葉ANGAの音響の良さも挙がられる。程よい音量でボーカル、ギター、キーボードの音がそれぞれにくっきりと浮かび上がる、とてもクリアーな音だった。この日のような重層的なサウンド空間に浸るには、音響の良し悪しはかなり大きいはず。この日の音の聴き易さは抜群だった。おそらく、ステージの洋も歌い易かったのだろう、ボーカルはいつも以上に朗々と響き渡り、力強かった。

魚が入ったことでアレンジが変わった曲のいくつかは、歌詞にさらに寄り添い、より緊張感が高まっていた。「Life Goes On」なんか、魚がアコーディオンを弾くのだけれど、この曲の由来を知っている者にとっては、ソロの時のアレンジより一層切なく聴こえたんじゃないだろうか。僕も、この辺は聴いていてけっこう辛かった。
ただ、その楽曲のヘビーさは、洋のMCでだいぶ救われたと思う。実は、山口洋のソロライブを見始めた頃、ちょっとした違和感を抱いていたんだよね、オレ。それは、楽曲とMCの落差が激しいこと(苦笑)。山口洋の楽曲に歌われる主人公たちは、何かに迷っていたり、絶望と諦観と必死で闘っていたり、とてもヘビーな状況にあるものが多い。ところが、肝心の洋ときたら、MCではつまらないオヤジギャグを言ってみたり、愛ある毒舌を吐いたりする(笑)。そのグダグダ感にずっこけたりもしていたのだが、この日のライブでもし洋のMCがなかったら、もしかしたらライブは息の抜けないぐらいに緊張感に溢れたものになってしまうかもしれないと思った。

正に“ひかりを探しに”というツアータイトルそのままのライブ。 
この日の山口洋のギターは、細海魚のスタイルに大きく触発されていたと思う。ソロの時に顕著だけど、もともとヒロシのギターはR&RやR&B的なフレーズを奏でるだけに留まらない。響きや空気感を大事にした音で会場の空気を変えていけるものがある。それは、魚の音作りのアプローチと良く似ているということに気付かされた。
近年のHEATWAVEのサウンドの深化は、この2人が出会ったことが大きいと僕は思う。間違いなく言えるのは、この2人は世界中誰もやっていない、独創的な音楽を作り出しているということだ。

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