【映画】「クロスファイアー・ハリケーン」 / ローリング・ストーンズ
ローリング・ストーンズの活動50周年を記念して製作された映画、東京では新宿ピカデリーでやってるんでさっそく観てきた。
この映画、70年代初めごろのストーンズが一番カッコいい時期の映像がぎっしりだ。ロックバンドのドキュメンタリーってのは、バンドの歴史を最初から最後まで万遍なく追っかけるのが定番だけど、これは全体の比重を思い切り全盛期寄りで構成している。僕はまずこれが嬉しかった。
だって、いくらストーンズと言えど、今のキースのどアップを延々続けられたら、それはちょっとキツイっしょ(苦笑)。そもそも、盆尺なバンドのドキュメンタリーは、なんとか現役感を出そうとするためか、過去のフィルムの間に現在のバンドのメンバーのコメントを映像付きで挿入したりなんかしがちなのだが、これが僕は大嫌い。だって、どう考えたって全盛期と比べれば容姿の衰えは否めない。現役かどうかは、やっぱり実際のライブの音で判断すべきなんじゃないだろうか?
その点、ストーンズは潔いと思ったね(笑)。まあ、冒頭にはロンドンでプレミア上映をした時の映像が挿入されていて、そこにはメンバーの最新映像が映ってはいるんだけど、これは完全に本編とは分断されている。本編ではメンバーによる解説だってナレーションのみ。いや本当に潔いっすよ、これ。勇気ある撤退に拍手(笑)。
冗談はさておき、僕はストーンズの映像に関しては、公式から地下までかなりのものを見ている自負があるんだけど、そんな僕でもここで使われたものの中には、初めて見るものが多くてびっくりした。
特に、60年代のライブ映像でブライアン・ジョーンズのパフォーマンスがここまで長めにちゃんと映ってるものは初めて観た。いやあ~やっぱりブライアンは只者じゃない。改めてそのカッコよさにシビれてしまった。ただハーモニカを吹いてるだけなのに、そのアクションや投げかけられる視線にヤラれてしまう。
最初期の頃は、ミックはお坊ちゃん臭いし、キースは猿みたいだから(苦笑)、ブライアンのふてぶてしさが一層際立っている。このバンドは、明らかにスタート時はブライアン・ジョーンズがボスだったのだ。
それだけに、その後の衰え方は悲しい。ロックンロール・サーカス以降の廃人になってしまったかのような佇まいは、25×5なんかでも垣間見ることができたけど、この映画に出てくる映像は、それとは比較にならないほど生々しい。もう、このころのブライアンはただ生きてるだけ、ただそこにいるだけみたいな感じ。キースもミックもどうすることもできなかったことがわかる。
彼らのバイオ本には、ミックとキースがバンドを乗っ取るためにブライアンを辞めさせたような書き方をしてるものも多かったんだけど、これを見れば、バンドを続けるためにはそれしか選択肢がなかったことがよくわかる。そして、それに関するミックの本心も、今回初めて聞いたような気がするのだ。“後からすごく後悔した”っていう発言には…。ぐっときたなあ、うん…。
その後の彼らは、まるでブライアンの分まで生き急ぐかのように、急速にカリスマ性を増していく。
70年代初頭の神がかり的なパフォーマンスには圧倒されてしまうし、オルタモントの悲劇に至るまでのどうしようもない運命の激流も、これまでのドキュメンタリーにはないリアルさがあった。
そう、この映画とこれまでリリースされてきた映像との明らかな違いは、この圧倒的なリアルさではないだろうか?60年代初頭のライブの混乱ぶり、ブライアンの死の悲しさ、オルタモントの背筋も凍るような怖さ、そのどれもが昨日のことのように生々しく迫ってくる。
それから、ステージ上での彼らだけではなく、バックステージや滞在先のホテルで寛ぐ彼らの姿なんかも映る。ツアー暮らしの中、ミックとキースが一つの部屋で仲良く「テル・ミー」の原型らしき曲を作っていて、それを若きアンドリュー・ルーク・オールダムが温かく見守っている映像なんか、妙に生々しくてこれは本人たちもかなりぐっときたのではないだろうか?
ミック・テイラーもビル・ワイマンもたっぷり出ている。それに比べると、ロン・ウッドは可愛そうなぐらい出番が少ないし、80年代以降の歴史はほとんど出てこない。これは、彼らの中でも自分たちが一番輝いていた時期は70年代中期だったという思いがあるからだろう。
11月25,29日にロンドンで行う50周年ライブには、特別ゲストという形で二人が出ることが既に発表されている。彼らは、脱退した後も転がる石であり続けたってことなんだろうな。
うん、スゲエ映画だ。“DVD買うから映画はいいや…”なんて思ってる人もいるかもしれないが、この生々しさはストーンズ・ファンなら絶対に映画館で体験しておくべき。映画が終わった後、オレはブライアンの奏でる 「No Expectations」の美しいイントロが耳から離れなくなった。
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